第16話 ソールオリエンス作戦

帝国暦503年6月24日 グラン・ゾディアティア帝国 帝都プレアデシア


 対共和国戦略について議論する帝前会議が開かれた宮殿の会議室にて、皇帝ルクス3世は統帥本部長のジクス元帥に問う。


「共和国との実質的な戦争に至って間もなく2年…本当に、此度の攻勢で勝敗を決する事が出来るのか?」


 その問いに対し、ジクス元帥は近隣の将官と目配せしつつしっかりと頷く。


「ご心配なく、陛下。確かに共和国軍は戦力をさらに増強しました。ですが、ブレダに対する定期的な襲撃と、陸軍航空隊の戦略爆撃により、再度の攻勢を仕掛ける事が出来ない状態にあります。現地住民に対する武器支援も上手くいっておりますので、成功は確実でしょう」


 去年4月のハレー作戦以降、ゾディアティア帝国はラテニア共和国に対してやや優勢にあった。元の国力が桁違いであるのはもちろんの事、国家戦略の違いが明暗を分けていた。まず帝国はノルマンディア大陸東部を含む周辺地域の植民地化と、現地住民の同化政策を行っていたものの、軍事的な庇護を求めてきたスロビア王国に対しては寛容な方針を取っていた。スロビアは共和国の制海権を脅かす潜水艦部隊の拠点として有効な位置にある上に、帝国の製品をよく買ってくれる『商売相手』にもなっていたからだ。


 対する共和国は、徹底的な同化政策と現地住民の殲滅政策を進めているために現地住民からの反発が大きく、帝国はそこに付け込む隙を見出した。具体的にはスロビア国内で建設された工業地帯にて、短機関銃や手榴弾、鹵獲した敵戦車を解析する事で開発された対戦車弾を発射可能な携帯式無反動砲を生産し、潜水艦を用いて共和国支配圏内に侵入。現地のパルチザンやゲリラに無償で提供し、叛乱を支援するというものであった。


 無論、真正面の戦闘も怠らない。航空機用タービンエンジンや、航空攻撃の概念を一変しうる誘導兵器の鹵獲は大きな成果をもたらしており、イオニア襲撃後から半年にはコピーに成功。〈カエルム・レオパルドゥス〉の機首を改造し、大型レーダーを装備した無線誘導式ロケット弾を装備出来る精密攻撃型〈レオパルドゥス〉を配備。さらに〈レオパルドゥス〉をベースに、磁気探知機を装備した〈カエルム・レオマリヌス〉対潜哨戒機も配備する事で、敵潜水艦に対する制海権防衛も達成していた。


「さて、ヘレニジア方面に配備している戦力について説明いたします。陸軍は南方軍所属の第9軍団と第3軍団の第3歩兵師団に加え、東方軍及び北方軍より抽出した2個歩兵師団と、新たに編成した第3戦車師団を配備。2個機甲師団及び5個歩兵師団を展開する事で、大攻勢を仕掛ける予定です」


 そのために考案された作戦の名は『ソールオリエンス』。まさに帝国にとって輝かしい夜明けの朝日が昇る事を期待してのものだった。


「航空隊及び海軍も同様に、攻勢に参加させます。すでに新型艦はある程度揃っており、新鋭艦を中心とした部隊の投入により、全ての戦場における圧倒的勝利からの講和を成し遂げましょう」


「うむ…期待しているぞ」


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