EPKトライアングル

広瀬妟子

序幕 全ての始まり

 地球と全く異なる世界にて、2つの国が現れたのは、地球人類がこの地を知る数年前の事であったという。


「彼らは突如として現れた。その強欲は過去の大国に引けを取らず、そして国力は過去の国々を圧倒していた」


 当時を知る歴史家は、この2カ国をそう評する。昼と夜が入れ替わるかの様な異常現象とともに現れたその二つの国は、当初は寛大な心で以てこの世界の国・地域へ接触してきたが、価値観と常識に大きな隔たりがあった。


「東に現れた国、『グラン・ゾディアティア帝国』は魔法を否定し、世界そのものを皇帝の名の下に支配しようとする国である。彼らの中には対等な存在というものはなく、世界に存在していい国は自分達一国だけだと思っている」


「西に現れた国、『セント・ラテニア共和国』は帝国と同様に魔法を否定し、そして異なる種族をも拒絶する。彼らはただ一人の神を信じ、他者そのものを否定しようとする。世界はただ一人の神によって作られたと謳う宗教は多く存在するが、ラテニアのそれは一線を画している」


 とある政治家は、突然現れた二大国をそう分析し、そしてその通りの結果を生み出していった。ゾディアティア帝国はその膨大な兵力で以て、本土周辺の大陸や島嶼へと侵攻を行い、そして占領していった。


 ラテニア共和国も同様であった。むしろ共和国の方が苛烈であった。聖地は尽くナパーム弾と熱核兵器で焼き払い、宗教施設は破壊した上で、国教たるケリウス教の教会へと作り変えたからである。住民もヒト種以外は皆殺しにされ、ヒト種でもその多くが奴隷とされた。


 だが、侵攻の開始から一ヶ月が経った頃、両国はそのスピードを緩め、そして止めなければならなかった。これ以上の活動に必要な資源の確保が必要となったからである。


 特に人的資源の不足は深刻であり、ゾディアティア帝国は新たな部隊編成のための将官確保に追われ、ラテニア共和国は徴兵制の布告に踏み切った。この一時停止は数少ない人々のノルマンディア大陸への脱出に使われ、数万もの人々が安住の地を求めたのである。


・・・


王国暦501年1月6日 スロビア王国王都ベイオブルグ


 世界のほぼ中央に位置するノルマンディア大陸。その南西部に位置する小国スロビア王国は、西の大国ゲルマニア帝国や、東の大国ドラキア連合王国との協調政策によって安定した状態を得ていた。だが世界情勢は安寧を容易く崩壊させていた。


「現在、帝国と共和国は南洋のヘレニジア大陸に軍を進め、同時に属領の拡大を進めております」


 王宮の謁見の間にて、宰相が報告を述べ、国王は頭を抱える。魔法を用いた連絡手段によって遠方で起きている悲劇は瞬く間に知れ渡っており、スロビア王国の早急にして困難な課題を鮮明に表していたのだ。


「このままでは、我が国は蹂躙されてしまう…どうすればよいのか…」


 その呟きに対し、答えられる者はいない。しかし一人の女性が沈黙を破った。


「では、最も栄える国に助けを求めてみましょう」


 彼女、マリア・フォン・アートワネトは、ゲルマニア帝国よりスロビア王家に降嫁してきた皇族であり、王太子夫人として影響力を持っていた。


「無論、私の故国ではなく、今のところは敵とされている国です。以前マケドナを下した国の諺によりますと、『目には目を、歯には歯を』というものが御座います」


 マリアの言葉に、国王らは眉を顰める。


「まず、我が国にとって最も脅威となりますのは、世界の仕組みそのものを破壊し、自らの定義へと作り変えようとしているラテニアで御座います。対してゾディアティア帝国は、支配を受け入れればある程度寛大な処置をしてくれます。どのみちゾディアティアとラテニアの衝突は免れないでしょう。そこで、東の帝国に恩を売るのです」


「…つまりは、帝国を味方につける、と?」


「ええ。そのための交渉は私が行いましょう。世界そのものの危機に対し、男女の区別など無意味です。全身全霊で、国として生き残るための方策を編み出していきましょう」


 斯くして、マリアをリーダーとする外交交渉団は、王太子との間に生まれた子供や、王国の官僚及び軍人とともに出発。ゾディアティア帝国の支配領域へと赴いたのである。そしてこの決断はスロビア王国の未来をも左右する事となる。

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