デスです! — フルダイブ型VR・RPGでデスゲームに巻き込まれたので実況配信しちゃいます! なおR18タイトルなのですでに社会的に死亡Death —
笠本
第1話 【デスゲーム】実況プレイ 始まるよー!
Starring Saki Hosikawa
2029年4月1日17時30分
「さっきーチャンネル! 始まるよー!」
中世ヨーロッパ風の石壁に囲まれた大きな街。その中央に位置する広場でセミロングの髪をなびかせた少女が声をあげます。
ミニスカートの魔法使いファッションの少女は目元にはレンズの大きなメガネをかけています。メガネのツルの部分にはいくつかのボタンが並び、赤と青の小さなライトが点滅しているメカニカルなデザイン。アンバランスですが活発な雰囲気がそれもありかと思わせる女の子です。
彼女の声に周囲を歩くネコミミ少女が、日本刀を持った和装の少年が、三角帽子を深く被ったエルフの魔女がなにごとかと立ち止まり。
リザードマンの行商人が、
「さあ今日は星河サキ、18歳の誕生日記念。世界初のフルダイブ型VR・MMORPG『エレメンタル・ロード・オンライン』を実況配信しちゃいます!」
星河サキと名乗った少女は片脚を高く上げると膝からプラプラとさせて言います。
「見てこの動き。普通のVRはコントローラーで操作するから単純な動きしかできないけど、このゲームはなんと脳からの神経信号で
そのまま少女はスカートをひるがえして回転。右に左にステップを入れながら手にした杖をくるくる振り回します。
まるでライブのマイクパフォーマンスのように。
そしてビシッと杖を前方に向けて言います。
「いでよファイヤーボウル! って、まだここは街中だから出せないけど、フィールドに出たらド派手な魔法も披露しちゃうから、チャンネルはそのまま!ね」
そう、ここはゲームの中。量子コンピュータ上に構築された剣と魔法のファンタジー世界。
プレイヤーは新開発された専用のヘッドギアを通して自身の身体を動かすかのように
脳が肉体を動かそうとする際の神経信号をヘッドギアがバイパスさせ、ゲーム中の
そして少女は中堅アイドルの星河サキ。今日は新作ゲームの紹介という定番の配信ネタをお送りしていました。
彼女のゲーム世界での冒険は専用ツールを通して現実世界のネット上に配信されます。
:待ってました!
:いまダイブすればさっきーと冒険できるってことか!
:これ気になってたんよな【Bronze-coin×5】
:eスポーツのリアル版ってこと?
:くっそ本体どこも売り切れじゃねえか
:↓↘→+P 【Bronze-coin×5】
:5万人同接可能って本体が1万も生産してないんじゃ!
:これでドレスアーマーに着替えてください【Silver-coin×10】
同時接続数5853人。
ファンたちのコメントはサキがかけたメガネを通してゲームの中に届けられます。銀フレームにはまった大きなレンズには透過処理されたコメントがリアルタイムで流れているのです。
そうしてファンとのやり取りをしながらサキはゲーム世界をガイドしていきます。
「ログインしたらまずはこの街からスタート。いま周りにいるうちの半分くらいがプレイヤーかな」
「NPCはみんな美男美女ばっかだから、ネタ系の外見だとプレイヤー確定。そう、あそこの半裸パン一おじさんとか」
「私は去年のデジフェスタに出演したときの生身の実測モデルを使ってるよー。見よこの脚線美…………あー、オッケー、ネコミミね。次の配信にこうご期待!」
「道具屋の店員さんはカワイイ系の眼鏡っ娘ってのは抑えてるよね」
「ちなみにNPCは個別に生活パターンのアルゴリズム設定されてるから、もうちょいすると隣の花屋の娘と食事休憩するはず。互いにあーんってしあってたりで尊みよ。…………はあ? 営業言うなし」
そんなふうにサキが街中を歩いている最中――――
ビシッ!
突然満天の快晴だった空が黒一色に塗りつぶされました。
さらに上空に人の姿が大きく投影されます。
映画や絵画ならば神や魔王が降臨したシーンの演出でしょうが、ここに現れたのはサラリーマンスーツを着た不健康そうな男。
彼はどこか病的な目で眼下を見回すと言いました。
「初めまして4946人のプレイヤーたちよ。私はこの『エレメンタル・オブ・ロード』の開発者、久地沢だ」
「ええっと、どーも、楽しませていただいてまーす」
その姿は街だけでなく、周辺部にいるプレイヤー全員に届いているでしょうが、サキが代表するかのように返答します。
:おっ、盛り上げるじゃん
:さっきー、仕込み?
:開発者出るなら村人かモンスターの姿使うのが伝統だぞ
リスナーも突然の展開に期待するコメントを寄せます。サキの周囲のプレイヤーからも同じような言葉が発せられています。
しかし背広の男は嘆かわしいとばかりに天を仰いで言いました。
「気楽なものだな。だがあいにくと私はこの世界を君たちの暇つぶしのおもちゃにするつもりはない。そう、私がこの世界を創造したのは人の精神の覚醒を見たかったからだ。これよりこの世界は試練の場となる。君たちは自身の全てを賭し、ここでいのちの冠を手に入れるがよい。
ああ、こう言っても君たちには伝わらないだろうか。分かりやすく言えば…………デスゲームの開始だよ」
そうして告げられたのは。
・この時点よりログアウト不可
・ヘッドギアに細工をしてあり、HPが0になりキャラの死亡判定がされた時点でプレイヤー本人も命を落とす
・外部からヘッドギアを外そうとした場合も死亡
・開放されるのは誰かがゲームをクリアすることができたときだけ
・クリア条件は全50のエリアを踏破し、最終エリアたる精霊宮でラスボスを打ち果たすことのみ
そんな非情なルールの数々。
「ちょっと待ったー!!!」
ですがサキのアイドルらしい甲高い声が割って入ります。
「これ、エロゲーなんですけどーーー!?」
そう、実はこの『エレメンタル・ロード・オンライン』はR18タイトルです。本体パッケージには『大人のファンタジーゲームが登場!』というコピーが謳われていますが、これはリアルで本格的な世界観という訳ではなくて、まあ、そういう意味です。
技術的な問題で実際の性的快感を得ることこそできませんが、エロス業界のレジェンド達をスタッフに迎え、多彩な性癖に応えるグラフィックとシナリオを実現。目と心を存分に満足させる、まさに新世代のエロゲーなのです。
「そうだぞ、てめえそういうのはもっとガチなファンタジーゲームでやれや!」
「だいたいタイトル間違えてんじゃねえぞ!」
「言っちゃなんだけど俺たちデスっても映えねえからな!」
:ほんとそれですわ
:特撮の幼稚園バス襲う怪人の方がまだ標的選んでるぞ
:陽キャリア充を絶望に落とすことがデスゲームの本質と知れ
:休日にエロゲやってるやつなんて社会的弱者ばっかだろ
:エレメンタル・オブ・ロードって開発時のタイトルじゃね?
当然プレイヤーからもリスナーたちからもツッコミが入ります。
「だ、黙れ! 人が生涯をかけて極秘に進めた
それまでは陰気な雰囲気で淡々と口を開いていた男が、激昂して叫びました。
「そういやこれ一回開発頓挫してるよな。開発会社ごと倒産しかけて」
「こんなん仕込むから開発費がかさんだんじゃねーの!」
「アダルト総合メーカーに買収された時点でデスゲームなんて諦めとけやー!」
「エロゲなんだから
:これ本人も薄々無理筋って分かってんじゃね?
:最初にデスゲームやるって目標で動いちゃって計画修正できてない感じ
:技術的にはすごいのにな
:あらゆる意味で日本社会の縮図なんよね
「ええい、黙れ! とにかくお前たちには私の計画に従ってもらう! まずはそのふざけた格好を正してもらおうか!」
男が何かを押す仕草をするとサキを含むプレイヤー全員の姿が光に包まれました。
その光は数秒で消えましたが、残るのはそれまでのゲームらしい派手目な美男美女の外見ではなく、どこにでもいそうな現実的な普通の顔と身体の人々。
「はあ!? なんだよこれー!」
「ふざけんな! 戻せよ!」
エルフの中性的美少年という理想の肉体を失った中年男性が嘆きます。
サキも自分のお腹や太ももに触れて驚きの表情です。
「えっ!?…………って、うん!?」
:これまさか医療用3Dデータぶっこ抜いてる!?
:本人と病院と行政の三段階認証ないと取れないデータじゃないの?
:なに普通にプロテクト破ってんの
:マジで技術力だけはあるよなコイツ
:先ほどのパンツおじさん美女化してませんか?
:それよりさっきーが微妙に太まってね?
:ライブは常に最前線の私から見ても今のモデリングは怪しかった
:当たり前でしょサキ様のダンスアクションがさっきの細い太ももでできるわけがないでしょ!
:デジフェスタん時の生身のデータとか言って太ももがオリジナル出てますよ
一部のファンから心無い言葉が投げられましたがサキは無視しました。
実は彼女は実測した体型データを使用したと言いつつお腹周りと太ももをほんの3%ほど細めにモデリングしていました。ですがこんなのはグラビア撮影では当然の加工率です。これはもうアイドルとしてまったく嘘偽りのない姿と胸を張って言い切れます。
何より彼女は少し離れた位置の少年に目を奪われていました。スタイリッシュな冒険者服を着込んだ彼に駆け寄り、肩をつかんで言います。
「
「お姉!?」
振り返った少年がサキを見て固まりました。
そう、サキはゲームの中で自分の弟と遭遇したのです。
:さっきー弟いたんだ
:あんま似てないね
:古参はみんな知ってる
:雑談枠で毎回ネタにしてるからな
:ライブん時めっちゃサイリウム振ってる子じゃん
:よかった、弟って男のフェイクじゃなかったんだ
:んっ? 18歳になったさっきーの弟ってことは?
「あんた高校生の癖になにエロゲーに手ぇ出してんの!」
そう、サキの弟は当然ながら18歳の彼女よりも年下。つまりエロゲーをプレイすることはできないはずの未成年なのです。
「や、違くて。俺はただ、お姉の部屋に見慣れないゲーム機が置いてあったからこれ何だろなって……探究心を刺激されて、その……」
「どうやってアカウントとった!? あっ、あんた私のメイン垢使ってんな!?」
そう、元々サキは個人的な興味でこのE・R・Oを予約購入していたのでした(彼女の実際の18歳の誕生日はもっと前でしたから法的な問題はありません)。直後に企業案件としてゲーム紹介の仕事を受けたため、メーカーから新たにヘッドギアが提供されました。
アイドルとして名前を出す以上、アカウントを芸名で作り直してヘッドギアも提供品を使用しているわけですが、つまり自宅には個人用のヘッドギアとアカウントがもう一組あったというわけです。
「違うんだお姉、俺はただフルダイブ型のVRがどんなものか興味あって、あの、ゲーマーとしてこれは見逃せないから、あの、その……」
:あっ
:なるほどね
:理解した
:俺も学生の頃に親のカードでAVレンタルしたのがバレたことあるわ
:男子高校生の手の届くとこにそんなエロスなもの置いといたら危ないでしょ!
:さっきーが悪いな
いつものように漫画の貸し借りで姉の部屋に入った男子高校生が大人のファンタジーゲームと出会ってしまったら? こっそりダイブしてしまったのは必然と言えましょう。
「はーん、んなこと抜かすか」
:さっきー地声になってんぞ
:カメラ回ってますよ!
:あらあら 死んだわこいつ
「ああああああああ!」
サキに締め上げられ悲鳴を上げる少年。そんな彼らにデスゲーム主催者の無慈悲な声が降り注ぎます。
「さあ諸君、それではデスゲームをスタートしてもらおうか!」
デスゲーム最初の被害者:
(姉に名前と顔を全国公開されて死亡)
※まず結成編として11話まで随時公開。数ヶ月後にデビュー編を公開する予定です。
※星河サキの芸名はレトロなアイドルゲームの主人公に由来しています。
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