第33話 自分のせい

 本当に、何をやっていたのだろうか、自分は。


 刹那に連れられた、日本ではない、渡航先の空港近くの高い高いホテルの最上階。いつの間に予約したのか、あっさりと刹那は伊吹を連れて、下手くそな発音でチェックインを済ませて伊吹を部屋に連れ込んだ。


 暴れる自分を強い力で、なぜか部屋に用意してあった拘束具で伊吹を拘束して、伊吹の荷物を全てぶち撒けて、スマホも奪われて調べられた。


 その間、ずっと刹那は伊吹と目を合わせようとしなかった。昔とは違って、人の視線を怖がらなくなったのに、どんな人間でも、真っ直ぐに見るようになったのに。伊吹を見ずに、ずっと伊吹の荷物やスマホや書類を見ていた。伊吹はここにいるのに。もう、動けないし逃げられないのに。今だって、視線が一つに定まっていない。


 ああ、でも。

 

 そうしてしまったのは、伊吹のせいだな。


 これだけ立派に成長した刹那を、また傷つけたのは、伊吹自身だ。


 再会した刹那と、最初にきちんと向き合わなかったのは、伊吹の方だった。


 自分の足りない所ばかり見て、勝手に卑屈になっていたのは、伊吹だった。

 

「せつ、な」


 首を絞められて苦しいが、なんとかまだ話せる範囲だった。だから、刹那の名前を呼んだ。それに、刹那は明らかに無理をして笑みを浮かべている。


「なに、伊吹?」

「その、笑み。止めろ」


 とりあえず、これは伝えておく事にした。


「……」

 

 刹那は、真顔になった。


「お前、昔は、愛想笑いもできない奴だっただろ。なのに、そんな無理して笑われるのは、嫌だ」


 お前、千秋じゃないんだから、と付け加える。なぜか、眉間に皺が寄った。


「伊吹、お前これから俺に何されるか察してるよな? そこまで察しの悪い方じゃないだろう」


 不機嫌そうな真顔になった刹那が、ちらりと背後を見る。1人掛けソファーが2つ。その間にあるテーブルの上には、何か筒のような物が入っているビニール袋とカメラが置いてあった。


「なのに、他の男の――しかも、千秋の名前を出すとか、もっと怒らせたいのか?」

「……今さっき、千秋と電話してたろ……」

「もう切った。この部屋には伊吹と俺しかいない」

 

 刹那は、伊吹の首から両手を離す。けれども腰の上からはどかないし、また、両手を縛られたままの伊吹の両手首を掴んで、体重を掛けている。


「千秋は、ヘテロなんじゃなかったのか」

「うん。でも、ちょっと伊吹に対して想いが強すぎる」


 流石に伊吹も否定できなかった。

 刹那はまだ恋愛感情、ということで納得できるかもしれないが、千秋はちょっと分からない。できたら確認しておいた方がいいかもしれない。千秋が素直に話すかは分からないが。


「……とにかく。これ以上痛い思いしたくなかったら、他の男の名前を出すな」


 刹那は、また、伊吹を睨んだ。


「俺の事だけ見てろ」

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