第二十七話 巨騎士、現る。
『「アヴェスタ!(…?)」』
受付嬢の言葉に反応して、ほぼ同時、2種類の声が私のうちで響く。
墓地で出会った、太陽教会の【司祭】のあのアヴェスタか!…って
モラグ?もう起きたの?…それに、
『うむ、そも寝ていた訳では無いのだが…。そんな話はどうでもよかろうて。』
『後半の質問は────…そうよな、あぁ、言うなれば、名は聞いたことがある。』
『太陽教会の司祭の名。…それは、余の知っている時代────そうじゃな、今より大体数世紀前の司祭と同じ名前よ。』
────それはつまり、彼女はそんな、数百年も前から生きているってこと?
心の中で、そう口にする。
だが、驚愕の色はあまり無い。と言うよりも、彼女の魔力を、力をその肌で感じた私からしてみれば、それもおかしくは無いと────
『……。いや、そうとも言いきれんじゃろ。その名が襲名性である可能性もあるしな。』
『ま、そんな話はどうでもいいとして、太陽教会の司祭などというけったいな…そのような奴と何処で知り合ったんじゃ?』
あぁ、そういえば、モラグはまだ起きていなかったっけ
彼女────アヴェスタとはあの墓地で知り合って、友達になったんだ。
見た時は驚いたよね、私よりも、確実に数段も強くて─────
そう言ったところで、私は二つの違和感を感じた。
アヴェスタは、何のためにあんな場所にいたのか。
そしてもうひとつは──────。
「アンリ様…?」
思考の海に篭もり始めていた私に冷水を浴びせるような、そんな声が響く。
その正体は、目の前の受付嬢だ。
私の心の声は当然として、モラグの言葉も彼女には聞こえていない。
だからこそ、彼女からしてみれば名を聞いた途端私が黙りこくっていただけなのだ。
そんな私を心配して彼女は声をかけたのだろう。
これ以上待たせるのは悪いな、そう思って、私は思考を中断する。
「────指名依頼ですね。勿論、ありがたく受けさせていただきます。」
1度咳払いをしてから、にこやかに笑みを作り、私はそう答える。
受付嬢は一瞬驚いたような、目を見開いたような顔をするも、すぐに表情を取り戻し
「…なるほど、了解しました。ありがとうございます。」
と口にした。恐らく、今の表情の些細な変化は、私が報酬どころか、依頼内容すら聞かずに、それを承諾したからだろう。
だが、
この即断即決の理由を聞く意味も、ましてや私の事情に踏み込んだり、止めたりする理由もないとして、何も言わなかった。
…因みにだが、私は元々指名依頼を受けるつもりはなかった。
【英雄になる】というボクの夢を手っ取り早く果たすためなら受けるべきなのだろうが、私は、それ以上に復讐がしたい。
だからこそ、この
────あの【新秩序】の尻尾を、掴むことなのだ。
私は噂の【黒い屍人】の正体を、あの日村を襲ったあの謎の不死者だと睨んでいる。
魔熊の様な害獣、害虫レベルから、古代死者・王種の様な神話レベルまでの怪物や魔物、生物の情報を揃えていたあのスカイの持つ情報と私の知識。
そこに、【黒い屍人】という情報から推測できる存在や、それに類似した存在はひとつもなかった。
【あの不死】を除いて。
────では、なぜこの依頼を受けることにしたのか。その黒い屍人に関する依頼を手に取った方がいいのではないかと思うかもしれないが、そうでもない。
考えてみれば当然だろう。冒険者ギルドで集められる情報なら、その大本の【太陽教会】も必ず知っている。
だからこそ、どのような依頼かはまだ知らないが、この依頼を果たすためだとか何とか理由をつけて、その情報を引き出す。
そして教会から情報を手に入れた後、【黒い屍人】の問題も解決する。
新たな情報となろうとも、ならなかろうと、英雄と復讐、どちらか、あるいはどちらもの理想に近づける。
不意にグッと握り拳を作って、私は本心を隠したような表情をした顔をあげる。
「───依頼者さん…アヴェスタさんと連絡を取り合いたいのですが、可能でしょうか。」
「勿論でございます。 ではこちらへ。」
───────しめた。その言葉を聞けば、私は小さくガッツポーズを…
────ではこちらへ?
思いもよらない言葉に私が一瞬瞠目した所、酒場のホールとバックヤードを繋ぐ扉を開け、そのまま私を誘導するように、バックヤード内の廊下を先々に進んでいく。
───待って、もしかして…既に
などとそんなことを考える私を一切待つこともせず、受付嬢はそのまま廊下の突き当たりに存在する【来客室】と書かれた扉をノックし、「アンリ様がいらっしゃいました。失礼します。」と声をかけ、そのままドアノブを傾け、押していく。
────…っ!何を焦っているんだ、気を引き締めろ。情報を引き出すんだろ…!
“ ギ ィ ”と音を立てながら濃い木の扉は開き─────。
「フーッハッハッハッ!!ようやっと来たか!偉大なる戦士!!偉大なるお司祭様が友!
───扉が開けられ、いやでも目に飛び込んできて、そして私を出迎えたのは、地に根を張る世界樹のような巨大な体。
目測で縦に2.5m、横に2mはありそうな巨躯は、更にその存在を主張させるように、分厚い、光を反射させるかのような白亜の全身鎧と、峻烈なまでの赤と金色の装飾品の数々によって彩られている。
そんな大男が、肌の一片も見せぬような兜をしていてもなお爆音と言えるような声を上げていた。
───いや、というか!!そんなことよりも─────!!!
『「誰(じゃあ)っ!?」』
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