第十六話 【悪魔憑き】
「───【悪魔憑き】か!?」
────そして、その回答はYESだ。
自分も今でも疑ってしまうような話だが、私はあの【悪魔憑き】なのだ。
***
【悪魔憑き】
またの名を【原初の残り火】。
その名の通り、その身に悪魔と呼ばれる存在を宿した存在ではあるのだが…。
それの説明をするには、まず【太陽教会】と、その教会に伝わる始まりの
───彼が言うに、始まりには三つの物があった。
肉を持ち、葉を持ち、鱗を持ち、羽を持ち、自己を持ち、何者にだってなれる、あらゆる可能性に愛された【神族】。
その神族を見守り、その行動が正しければ褒美を与え、間違っていれば裁きを下す【天使族】。
そして天使族と対照的に、間違った神族を褒め称え、正しき神族を間違いに誘う【悪魔族】。
神族は世界の表側に、天使族は世界の裏側に、悪魔族はその間に暮らしていた。
多くの天使族が神族を導き、多くの悪魔族が神族を堕落させ…
そして堕落した多くの神族が、自らの間違いを後悔した。
そうしたある時、堕落した一人の神族が、もう誰も後悔せぬようにと、こう声を出した。
「もう二度と、誰も後悔しないように、悪魔族から逃げ出そう。」
「でも、私達が可能性に満ちた神族である内は、きっと彼らから逃げられはしない、邪なる道を、選ばざるを得ない。」
「だから、我らは全ての可能性を切り離して、その中の"邪な可能性"だけを廃する。────その結果残る、新たな子らに、我らの望んだ未来を託し、消えゆくのだ。」
「きっと、彼らの中のある1匹は肉しか持たないし、ある1匹は羽しか持たない、またある1匹も鱗しか持たない。でもきっと、彼らは皆、"正しい道"だけを持っている。」
「その世界こそ、きっと、この虚しいだけの後悔が存在しない世界となっているだろう。」
しかし、この呼び掛けによって未来に生きる事を、未来を残す事を許されたのは、未だ可能性を選んでいない神族と、正しき道を選んだ神族だけ。
呼び掛けを行った彼自身は何も残せず、ただ消えていく。
そんな、とんだ自己犠牲。
───だからこそ、その呼び掛けは多くの神族の心を打ち、そして賛同させた。
ある神は自らから父なる【大地】を切り離し、ある神は自らから母なる【大海】を切り離し、またある神は自らから【牛】を、【豚】を…────。
そうして作られた後悔の無い、真に幸福な世界。
邪な道へ堕ちた神族は、そのあまりの光に消えることを選び、堕落させる者の居なくなった悪魔族は、殆どがその身を飢えさせ死んでいった。
それを見て、天使族は満足気に頷き、最後の一人を除いて、何処かへ去っていった。
天使の中の最後の一人、天使族の総意である其れは、あの宣言を行った、堕落した神族に語り掛ける。
「素晴らしき偉業、感服致しました。貴方はもう、邪なる者などではございません。」
「さぁ、どうぞ、貴方もその可能性を残し、そして新たな世界を見守るのです。」
そうして認められたあの神族、【黄金の神】として現代にまで伝わる神族は、この世界に最後の1ピース─────。
私たち、【人間】を生み出し、今は世界の中心で、私たちを見守ってくださっている──────。
これが、田舎者の私ですら知っている、この世界に伝わる創世神話。
歴史の勉強で出てくるような、大昔の出来事にでさえ、「【黄金の神】の加護が与えられた神殿〜〜」だったり、「【○○○の神】が最後に生み出した山〜〜」だったりが出てくるので、きっと、ミノス王の時代からですら、ずっと語り継がれてきた内容なのだろう。
そして、【太陽教会】はこれを聖典とする巨大な教会組織。
この聖典を一人にでも多くに広め、そして「その身を犠牲にした神族の方々に報いるために正しき事を成すのだ。」と諭して回る事を目的としている。
この教会もかなり昔───それこそ、人間が石器で動物を狩っている様な時代からでもその名前が散見できる。
そんなだから、利権狙いで虫のように湧いて出てきた新たな宗教組織も即座に潰される。
当然と言えば当然だが、どんな人間も生まれながらに【太陽教徒】。
広められる無垢なる無宗教者がどこにも居ない。
石器時代からの教えは人々に広く浸透し、親から子供へ、先祖から子孫へ、子々孫々へと連綿に受け継がれて強固な【常識】へと変わっていたのだから。
***
───そんな太陽教会が注意を呼びかけるものたちがいる。
それは生き残りの僅かな悪魔達によって唆された動物や人間である【魔物】や、魔王を代表とした【魔族】。
それ等は今でもなお、森であったり洞窟であったり、人目の届かぬ所や、人族の領域外ではよく見かける事が出来る存在するものだ。
然し、それとは異なり、神話や伝説によってしか見られず、今では絶滅した。
若しくは、そもそも存在しなかったと呼ばれるものたちがいる。
それこそが、悪魔そのものと共謀することを選び、その身に悪魔を宿す事を代償としてはその力を自らの為に行使する邪な物───────。
そう、満を持しての登場、【悪魔憑き】だ。
神話に語られる力としては
一つ、悪魔族のみが持っていたとされる【権能】の行使。
二つ、内側に住まう悪魔族の持つ、太古伝来の【知識】。
三つ、悪魔族と
私はこれらの力を、(【知識】だけは少し首を傾げてしまうかもしれないが)確かに行使することが出来る。
その内の【復活】の力。
幸いにも賭けには勝ったが、これがあるから、この賭けは分が悪くとも、負けてたとしても取り返しのつく、ローリスクハイリターンの賭けになっていて、そのパーティテーブルに着くことを選べたのだ───────。
「───沈黙、か。…肯定と取るぞ。小娘───いや、【悪魔憑き】。」
「その腕の急速な再生も悪魔の仕──ッ…───ふゥ…仕業…恐らくは、【権能】だな?」
「──ふ、ん…っ、まさ、か…───、私を倒しに来た人間、が…それも小娘が…、まさかの呪術師で【悪魔憑き】…、私…以上の…人類の敵だったとはな…!」
私より、より神話に近しく、また今までの様子から力を貪欲に求めているであろうミノスとしては、どうしても確かめたかったのだろう。
傷口から滝のように流れ落としている血(に見えるが、彼は不死者の為、液状化した魔力かもしれない。)
傷口が大きくなったりして、秒間の消費量が増えたりしている訳では無いだろうが、それでも時間と共にその量は無視出来ぬ程にまで増加しているようで、既に、その失血量は、喋るのすらままならず、太古から磨きかけてきたであろう皮肉にもキレがない。
…とはいえ、私の込めた魔力が少なかったからか、轟々と燃えたぎっていた炎は嘘のように消えており、漆黒の魔力を直上に立ち上らせながら、再生を行っているようだ。
あの一撃で終いにさせてくれるつもりは無いらしい。
───とはいえ、私の疲労も既に回復した。
スヴェッタの回復薬と悪魔の権能で、既に傷はない。
剣先を地面に突き立てていた剣を引き抜いては、静かに構え直す。
「───そりゃどーも。伝説の
「───そんな朗報な所に、もう一つ朗報。」
「もうボクの作戦は終わり。今からは呪術も
「───全身全霊を使って、君に挑めるよ。」
チリ、と私から静かに巻き上がる紫色の魔力によって、地面の砂が水面のごとく流されていく。
それを聞けば、青かった顔を更に青くさせた死に体の顔で、ミノスは不敵に笑う。
「───そうか、…そうか。…すまない、謝ろう。お前はや、…はり、素晴らしき…至強の戦士であった。」
「…繰り返すぞ、詫びよう。そんなお前、に…あ、れだけで…終わらせようと、したことを───────。」
蝋燭の最後の煌めきか、或いは、ここからがついぞの本領発揮とでも言うのか。
古代の覇王は、再び漆黒の魔の気を吹き荒れさせる。
私から遠ざかるように流れて行っていた地上の砂が再びUターンし、そして私と彼の、ちょうど中間の位置に辿り着いては宙へぶわりと舞い上がり。
────そんな木っ端など気にせずと、二人は視線を交差させる。
「───…お前も、ようやっと全てを使ってくれると言ったのだ。」
「この俺も、全てを出し切っては貴様を打ち倒し───ッ!」
「─────
「───させないよ!君はここでもういっぺんブッ殺す!!」
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