第八話 この野郎…

オルペ「​──君、"呪術師"なんだね。」


 …まぁ、バレるよね。


 と言うより、バレていない方がおかしいから、こうして面と向かって、直球ちょくで言ってくれる方がありがたい。


 ​───というのも、先に言った通り、魔法使いには区分ごとに魔力の"色"が分かれている。

 魔術師ならば孔雀石青色、神官ならば黄金黄色…などと言った具合で。


 そしてオルペは、"私の魔力を見て"、そうであると判断したと言った。


 ならば知っていなければ、寧ろおかしい。という訳だ。


 ​───さて、ならば何故私は魔力を隠す努力をしないのか?という話になる。


 これも前述したが、呪術師は嫌われ者。普通に考えれば、ひけらかす価値の無い称号レッテルだ。


 魔法使いの数は世界的に多いと言えないが、それでも、オルペやお爺ちゃんスカイ

 後は、それこそ私のように、街中で見ないことも無く、"少ない"とは、まぁ言えない。


 そして、少なくないそんな魔術師に一目見られた途端、当然私の素性はバレる。


 そして其れを、彼らが隣人達に黙っておいてくれるかと言うと…

 まぁ、そんな事は無いだろう。


 そして、その結果どうなるかと言うと

 アーテナイト王国この国内の町や村では、表立って迫害や嫌がらせを受ける事は無いものの

 絶対に歓迎はされないし、それどころか早く出ていけ…なんて思われる事が大半だ。

 (だからと言って、それが悪い事だとも思わないが。)


 ともかく、呪術師と仲良くしよう…なんて思う人種は、この世界には多くはない。


 其れは絶対的な不利益のように思えるが…​───




 ​────私に限っては、そうではない。


 私の最終目的は、セイルを、村を、未来を…​────私から全てを奪い去った【新秩序】の打倒。ただそれだけだ。


 『英雄になる』というセイルから継いだ目的はあるものの、其れは私が勝手に言い始めたものだし、「新秩序打倒のために捨てろ」と言われれば

 躊躇いなく、私はそれを捨てる。


 そして、その為に『他の人間との交友』は足枷になり得てしまう。


 敵は【新秩序】。何の目的があったかは知らないが、私の村を残虐に、軽率に、何の躊躇いもなく​…!



 ────あんなにも楽しげに奪い去った、血も涙も無い鬼畜共。


 もし、私の刃が新秩序あれ中枢に届きかけたとして、そうして知り合った人達の命が、故郷が​────


 ​─────私の故郷むらの様に奪いさられないだなんて、どうして言えようか。


 だから、私の旅路に人との関わりなど不要。


 関わるとしても必要最低限、新秩序奴らから見て、『利用してるだけだ』と思わせられる程度にしなければならない。


 (それだけの理由では無いとはいえ)だからこそ、私は呪術これを選んだ。



 だからこそ私は​─────……


 …それに、復讐を主とする私の旅路は、他人に嫌悪されるべき物語。


 他人に嫌悪される呪術を覚えたのは、そういう理由も含まれていたのかもしれない。


***


アンリ「…否定はしないよ、する意味も無い。その通りだ。」


 そう淡々と告げて、私は首肯する。


 その上で、私は「ならばどうする?」と言った目で、オルペを見つめる。


 そんな私の目線に対して、オルペは【パチン】と指鳴らしを行っては、声を鳴らす。


オルペ「……いいや!だからどうしたという訳でもないのさ!!…ただね、確認がしたかったんだ。」


オルペ「別に、僕的には魔術師だの呪術師だのには、それほど関心は無くてね。」


 フフッ。と笑ってオルペはくるりと巻いた前髪をかき上げる。


 ​───珍しい。と言った様子でオルペを見ていれば、彼は更に補足するようにして言葉を続かせる。


オルペ「ほら、僕はどちらかと言えば魔術師と言うより、"吟遊詩人"…って感じだろ?​──────つまり、そういう事なのさ!」


 どういう事だ。


アンリ「…まぁ、それは分かったけれど、ならばどうしてそんな事を聞いたの?」


アンリ「隠すのを忘れていただけだったり、或いは​───…そうだな、魔術師に恨みがあるとかで、炙り出すためだったり」


アンリ「そんな感じの理由で、呪術師である事がバレたボクに、オルペは殺されていたかもしれない。」


アンリ「…実力差もわかっているんだ。こんな挑発するような真似、ハッキリ言って危険で無意味だ。」


オルペ「​…そうだね。危険…というのはその通りだ。君は僕よりも圧倒的に強いし、こんな人目のない場所、殺そうと思えば、君は直ぐに僕を殺せるだろうね。」


 そこまで言って、一呼吸。


 勿体ぶるように、目を閉じて一拍置いては、彼は再び口を開く。


オルペ「でも、無価値等ではないとも。​────と言うよりも、僕の狙いはこの問答の結果、そのものだったのさ…。」


オルペ「​───君が彼女スヴェッタと何を話したか、それを僕は知らない。でも、君の​───その大荷物だったり、後はその様子から、きっと彼女も…ついでに彼女の親父さんも、君を信頼したんだろう。」


アンリ「ついで…。」


 「でもね」とオルペは言葉を続ける。


オルペ「もしそれで、君が裏切るつもりなのだとしたら、もし君が、世間一般的な印象での"呪術師"なのだとしたら…!」


オルペ「きっと、彼女は心に深い傷を負ってしまう​────!!」


オルペ「…あぁ!何と哀しく、憐れな事か!…さながら、神話に語られる悲劇の少女の様に!!……彼女のそんな姿を見るのは、僕には忍びなかったのさ。」


オルペ「だから、こうして確かめた。君が、自身の保身のために躊躇いなく他人を切り捨てられる人間なのか。」


オルペ「君が、本当に信用にたる人物なのかをね。」


 演劇的なおどけた口調はそのままだ。

 けれど、彼の瞳には、確かな決意が見て取れた。


 "自身を囮にしてでも、彼女スヴェッタを害させはしない。"


 そんな決意が。


 …巫山戯た人だとは思っているけど、そう少し見直した私は、気になる事を質問する。


アンリ「…判断するのはいいけど、ここで殺されちゃったら伝える手段もないだろ?」


オルペ「それは心配いらないさ。ここに来る前に、酒場の机に二つの魔術を仕掛けておいたからね。」



オルペ「魔術とはつまり"透明化"!」


オルペ「僕の命が尽きて、魔術それの効果が切れた時、君が呪術師である事、そして僕が殺されてしまった事!」


「其れが遺書ダイイングメッセージとして!白日の元に晒されていたのさ​────!!」



 "パチン☆"とウィンクをしては、「抜かりはないよ!」と、今までで1番元気ハツラツなんじゃないかという声でオルペは言う。


 あっはっは。さっきのはそういうことかー!納得ーっ!


 ​───って、はぁぁぁぁぁああ!!!??


 嫌われるべきだとは言ったけど、冤罪で犯罪者人殺しになるつもりはないぞ!?


アンリ「​───随分な事を本人の前にして言うねぇ!?」


「もし君が!今!!!何かを理由に死んじゃったらボクはとんでもない冤罪を被る事になるじゃないか!!!」


 旅に出て一番の音量で声を荒らげながら、これでもかと彼を睨みつける。


 そんな私に対して、コノヤロウオルペはと言うと…


オルペ「それもまた抜かりはないさ!"二つの魔術"だって言ったろ?手紙として残していた訳だけれど、透明化の魔術と一緒に残していた発火の魔術を今起動して、その手紙はもう燃えカスのカッスカスだからね!」


オルペ「そう!それこそ僕のこの燃える恋心のように…!」


 煩いわ!!お前のそのよく回る舌を燃やしてやろうか!?


 もしこの山道で古代死者ドラウグとかに殺されてたらどうするつもりだったんだよ!!


 というか、これ自身の命を囮にしたってより、自分が死ぬと思ってないだけなんじゃないか───!!


 あ゛ーっ!!見直して損した!私の感心を返せ!ふざけてんのかこの野郎!


 コイツ、また似たような事やらかしそうな気がする​───!


 ───ちなみに!!私は今苛立っているように見えるが…!いや、実際苛立ってはいるんだけど!


 それでも、自らの名誉の為に言っておけば

 今の私に沸きあがる苛立これの正体は義憤だ!!



 ​────私は生まれも育ちも辺境の村アンファング村だ。故に、そこまで世俗の常識を知らぬ。


 だが、次の被害者が出る前に、少し常識ってものを分からせてやらねばならぬと、アンリは決意した​─────!!

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