第二話 吟遊詩人オルペ
「────その歳で魔法を扱えるって!?…最近の子は進んでるんだなぁ…。」
「多分アンリちゃんが特別なだけかと思いますよ…?」
こちらに目を見開いて、驚嘆する御者さんとレオン。
正直、この人数の負傷兵を連れて
それから、赤黒い血で染まったボクを見て、初めは理解出来ずにフリーズをしていたけど
外の古代死者の死体の山と、ボクが倒したということを伝えると、顎が外れるほどに口を開いて驚愕しながらも、その職の都合上色々な人に会うせいだろうか、直接見たレオンと比べても、比較的直ぐに理解していたようだった。
そして
「取り乱してしまって悪い…。本来この道に古代死者なんて出ないんだ…。でも、二度目の襲撃は無いなんて保証もない。だから───」
と、正式に馬車の護衛を頼まれた。
当然ボクはそれを快諾し、現在も御者さんの隣に座って辺りに目を配らせている。
正直、この馬車を守らないとボクが目的地に辿り着けないし、お金もついでに貰えるなら断る理由もない。
頼まれた時、「正気か!?」とレオンが横から言ったけど、さっきのカッコイイ名乗り…じゃない、古代死者を楽々倒したボクを思い出しては、その口を噤んだ。
…いやまぁ、分かるけども。自分で言うのもなんだけど、ボクの見た目はそんなに強そうじゃないどころか、その辺に居そうな小娘だもんね…。
それから御者さんとレオン────そして負傷兵のみんなから、色々な話を聞いてボクは目的地へと近づいていった。
長く、暇だった道中を華で彩ってくれるとは…報酬金も入れて考えれば、一石二鳥で得をしたと言えるだろう。
御者さんやレオン達からは、長い道のりなだけに色々な事を聞いて話した。
例えばだけど、レオンはこんな話をしていた。
─────
4年前の関係悪化からアーテナイトとペルセイアは、枯渇しかけた備蓄など知らぬと再戦。
国の「北での戦いは快勝続き」等という報道に反して、前線は既にボロボロ。
普段から戦える様に訓練されていた騎士や軍人はもう殆どが屍となって残っておらず、指揮官クラスは数人を残しておずおずと
国庫から出せる金ももうなく、兵士に支給される者はアーテナイトの軍人であることを示す青布を被せられた、薄い皮鎧のみ。
「素手で戦えとでも言うのか?」と自嘲するように言うレオンやみんなの姿は…なんというか、同情を禁じえなかった。
そんな様子だから補給も満足に行かず、マトモな飯を食べることも、負傷兵を治療することも出来ない。
ただの義勇兵として志願したレオン達ですら前線に駆り出され、無為な命の奪い合いの末に、四肢を失うほどの重傷を負わされては、戦線復帰は難しいとして家に帰らされたという。
ただ国民を兵士として集めて、その命を無為に削らせては、「もう大丈夫だ」と帰らせる。
…そんな戦いに意味はあるのだろうか。
ボクはそんな事情を話しても大丈夫なの…?と思って聞いていたけれど
それを神妙な顔つきで、そして「知っていた」というように頷く御者さんを見るに、どうやらそれは公然の秘密の様だ。
田舎娘のボクは知らなかったけれど、中々残念な国家として国民に認識されてるらしい…。
哀れなり…
御者さんからもまた、色々な話を聞いた。
例えばさっきの話に関連する話なら、無能な現王家を討ち滅ぼす為、東の方の領地で反乱軍を募っているとか。
王都近くの古都で、邪教が幅を利かせて住民の子供や財を強盗紛いの手段で奪っているのだとか。
眉唾物の話だが、最強かつ孤高の種族である筈のドラゴンが、とある一匹の竜を王として徒党を組み始めているのだとか…。
何となく察していたが、最近のアーテナイト帝国は穏やかでは無いらしい。
もう五年ほども、この不穏な空気は続いているのだ。早く終わって欲しい─────。と御者さんは言っていた。
─────そう、五年前。…口には出さなかったものの、ボクはそれが
だから───。という訳でもないが、ボクは彼らにも一応『新秩序』について何か知らないかを聞いておいた。
結果はナニソレというような、困った顔を浮かべるのみ。
分かりきっていたことだが、簡単に尻尾を掴ませてくれる訳には行かないないらしい。
────そして、当然だが、ボクにも話が振られた。
「その歳で何故旅に?」と聞かれた私はこう答える。
「英雄になるために。」
と、それを聞いた皆は顔を向かい合わせ、少しの間呆然としていたものの、直ぐにきっとなれるさ。と笑って応援してくれた。
─────…分かりきっている事だが、これはセイルの夢だ。…でも、私の夢というのも嘘じゃない。
とは言うものの、スカイのおじいちゃんが旅の為の鍛錬をしてくれる条件のうちの一つにこれがあったのだ。
というのも、復讐だけを生き甲斐に生きていては、いつか自壊する。
其れが情報の尻尾すら掴ませてくれない謎まみれの組織『新秩序』とあらば尚更。
だからこそ、別の目的を作れ。というのだ。
────未来を、家族を、皆を。
全てを壊された私に、最早夢なんて残っていなかった。
私に残っていたのは罪だけ…。
…でも、この残った罪の中には。
…あの燃える故郷の中には。
…私を救ってくれた…私が死なせたあの子が居て。
そしてあの子は、輝かんばかりの夢を持っていた。
だから。という訳じゃない、私のこれは…夢を受け継ぐというにはあまりにも一方的だ。
それでも、あの子が居たという事実をこの世に残すために、私は決心した。
復讐はする。でも、英雄にもなる。
前者は
─────後者は
***
古代死者の襲撃から二度夜を明かして、ちょうど太陽が中天に至る頃合い。
馬車は止まり、そして新たな土地へと辿り着く。
活発とは言えないながらも、
鍛冶屋や道具屋、薬屋に酒場を兼ねた宿屋。
旅人にとって必要な場所の数々は揃っており、二、三人ほどだが、傭兵地味た格好の旅人の姿も見える。
総括すれば、ボクの
村の名前を『ラムイー村』
王都『スパルティア』に至るまでの、中継地点の一つだ。
そして、馬に餌をやったり、車輪の調整を行ったりと、慌ただしく動いている御者さんにボクは近づいていく。
「あ、御者さん。ボクはここで降りるよ。」
そういうと、御者さんは目を丸くし
「良いのかい?スパルティアまで乗っていくって予定だったろうに」
「あ〜…まぁ元々はそのつもりだったのだけども、ちょっと用事が出来てね。」
そう暈すように言えば、御者さんは「なるほどなぁ」と頭をかいて、そして「あいわかった!」と快活に言えば、此方へと振り返った。
「それで、代金はどのくらい必要かな?」
「いや!別にいいぜ。ただの乗り合わせだって言うのに護衛をしてもらって、わりぃと思ってたからな!」
「────えぇ…、それは別で報酬を貰ったし、そういう訳には…」
「じゃあそん中から運賃は引いといた!それでも納得しないならおっさんからのお小遣いって思っといてくれ!」
手のひらを此方に向けて両腕をぴんと伸ばし、あからさまな「No」という意思表示を示す御者さんに、「流石にそれは…」と粘るも
五分ほどして、取り付く島がない事をボクは理解し、渋々銭袋を懐に納めて何度も謝ってその場を後にした。
「こっちこそ無理言って悪いな!でも意地的にな。流石に娘程の子供に頼ってばっかで金もとる!…なんて言う程恥晒しにゃなれねぇわ!」
謝るボクを止めるように御者さんはそう笑って、ボクの背中を押してくれた。
***
馬車を離れて、ボクが向かう先は酒場。
─────別にお酒を飲もう!って訳では無い。
まだ未成年だし、何よりまだ昼間だ。さすがにそんなダメ人間ではないし、そんなダメ人間になるつもりもない!
え?
一人で言い訳をしながらボクは木製の扉をゆっくりと開ける。
そんなボクを出迎えたのは暖色の灯りと、街中よりも熱気に溢れた複数人の老若男女。
こんな時間だからか、お酒を口にしてる人は少ないが
後は、単純な談笑が目的だったり、吟遊詩人の歌を目的に来ている人もいるのだろか。
そんな人々を突っ切りながら、カウンターの筋骨隆々の壮年男性の店員の元へと近づいていく。
「ちょっと良いかな。…この辺りでなにか…──────いや、そうだな。"村の近郊で古代死者を見た"とかそんな噂は無い?」
────そう、この村に来た理由、それは
あまり知られていないが、そもそも古代死者というものは、
彼らはアーテナイトの古代の王に仕え、その死後すら国を守るために、理性を失ってでも不死となった過去の戦士達。
然し、王は死に、守るべき国を失った戦士達は、アーテナイト各所の墓地に祀られ、そして訪れた哀れな墓荒らしを狩る墓守としての任を果たしている。
故に、古代死者が墓を出て現れるなどありえない。
────墓荒らしを無我夢中に追いかけてきた。とかでもない限りね。
だからこそ、最寄りの村に立ち寄って、最近の墓地の様子を聞きたかった。
もし
今更
だからこそ、もし彼らの御霊が未だ荒ぶっているというのなら───────
────今を生きるボク達の安全のために、ただ墓を守っていただけの彼らを、殲滅しなければならない。
店員の男は、そんなピンポイントの事柄を聞いてきた私を訝しげに見ながらも
「そうだな…」と考えるように顎髭をしごいている。
そのまま少しの時間が経過したその時、横から耳がキーンとする様な声が響いた。
「────やぁやぁお嬢さん!お小遣い稼ぎかな!?」
「もし仕事を探しているって言うなら、僕の頼みを聞いて欲しいっ!!」
声に反応して振り返ると、そこには楽器を持つ、金色の髪と顎髭を蓄えた、"伊達男"と言えるような吟遊詩人がそこに立っていた。
「えぇ…いや、別に仕事を探しているわけじゃ…」
と困惑するボクを他所に、吟遊詩人は大袈裟な身振り手振りをつけて話を続ける。
「…いや!待って!良い!言わずとも!いいっ!」
────あ、これ話を聞いてくれないタイプの人種だ。
そう察したボクは、大人しく話を聞く体勢に入る。
…さっきまで話していた店員の人の、可哀想なものを見る目が痛い。
「────んッん♪静かに聞き入る体勢。嬉しいね!」
「では、語ろうか…!僕の──────吟遊詩人オルペの…熱く燃えるような、スヴェッタとの恋愛をっ!」
不意に発生した頭痛を和らげるため、眉間を撫でながら、ボクはただ思った。
良いから、簡潔に話してほしいな…。
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