初遭遇
しかし靴もないのは不便極まりないな。何とかしたいところだがどうしよう。
正直、川の中州で靴がないって割と致命的な気がするんだが。
こういう時は日本のオタク知識を総動員すれば何とかなると相場が決まっている。
何だったかの漫画で読んだぞ。確か、木の皮が使えるんだったか。で、それを得るために石を割って簡単な刃物にする、と。
中州に石はあっても木がないな。仕方ない、川を渡るか。
幸いこの辺は石が豊富だ。そして結構下流なんだろう、尖った石は少ない。これなら何とかなるか?
しかし服を濡らすわけにはいかん。濡れた服を着続けるとあっという間に体力消耗して死ぬとかどっかで読んだ。とすると全裸か。そこにクズみたいな蔦があるからそれを取って紐にして、全裸になって服を畳み、頭の上に乗せて紐で固定して川に入る。結構ぬるいというか冷たくない。気温もちょうどいいし川も穏やかだ。これなら平気。渡れる。
足がつく程度の川でよかった。透明度も高いし、なるべく足元に注意してゆっくり渡ろう。
川の半ばに差し掛かった頃、林のほうが騒がしくなってくる。人の声とがちゃがちゃいう音が微かに聞こえる。
待て、このまま渡ったら、川から出てきた全裸変態と第一異世界人の邂逅になるのか?それはさすがに嫌だ。
いやでも、せっかくここまで来たのに引き返すのも嫌だ。急いで渡って木の陰で服を着ようそうしよう。
大慌てで川を渡り切り、木の陰に向かう。体をぶるぶる振って適当に水気を飛ばしたらすぐに服を着る。その頃には音はずいぶん大きくなり、姿が見えてきた。向こうもこちらを視認したようだ。
「正面!人影1!」
「横はだめだ、突っ込め!!」
叫びながら走ってくるのは、部分的な金属鎧を着た男が3人と、その間に守られるように走っている2人の少女。
少女は2人ともフードを被っており、顔も体も見えにくくしている。普通に考えたら小柄な男だと思っても何の不思議もない。だが、女神の力で身体強化された俺は、その視力で肩や胸や肘関節、足運びなど細部の特徴や動きから間違いなく少女だと確信していた。うち1人の年齢は15前後なのも間違いない。
なんだこの素晴らしい無駄性能。
ともあれ、追われている様子だし、さっきの石投げとモンスター使役に反応している事で気が大きくなっている俺は、この世界の足掛かりを得るためにも助けることにする。
「こっちに逃げて来い!敵は何だ?」
そう言いながら石が多いあたりに移動し数個拾う。反応によれば敵は10体ちょいか。大きく広がって追ってきている。
先頭の男は一瞬言葉に詰まったようだが、
「すまん、助かる!ゴブリン4と狼が何匹かだ!あんたも早めに逃げてくれ!」
叫びながらこっちに来る。
「川を渡れ!」
叫びつつ、まずは両脇から迫ってきている狼に石を投げ始める。さすがに人目のあるところでモンスター使役は試せん。
すげぇ、面白いように命中する。しかも当たったらかなりのダメージのようで一回「ギャン!」と鳴いたきり動かなくなる。
4匹を仕留めたところでゴブリンたちの追撃が止まったようだ。
目を凝らすと遠くにゴブリンらしき影が2体分、立っているのが見える。
さすがに遠いか?と思いながら全力で投げると、1体の肩に命中。頭狙ったんだけどなぁ。
それを機に、ゴブリンたちは逃げていった。
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