クラスメイトの配信者を救って大バズりしたバ美肉高校生探索者、うっかり身バレして炎上したら性癖歪ませたファンが大量発生してしまいました

紙村 滝

第1話 身バレ対策にはバ美肉が最適じゃない?

「またゴブリンか……めんどくさいわね」


 俺、橘六花たちばな りつかに飛びかかってきたゴブリンをスキル「反転」によって群れの最後尾のゴブリンと同士討ちさせる。

 敵の死亡を確認して、地面に落ちたゴブリンのドロップ品を拾い、さらにダンジョンの奥に足を進める。

 閑散とした地方の田舎ダンジョンの上層から中層へと下っていく。


 ドロップ品以外の部位は放置。金にもならないし処理しなくても死体がアンデッドになることはないから端に避けるだけしてそのままにするのが探索者としての常識になっている。

 縦穴の壁に沿うように坂を下って中層に到達するとおもむろにカバンからドローン型のカメラを取り出し起動させた。

 配信サイト『Sウォッチ』の自分のチャンネルを開きもろもろの配信の準備を手際よく行っていく。

 ちなみに登録者は200人もいない。やる気がないのとサムネもタイトルも何も工夫していない上、配信中は魔物討伐に集中してほとんど話さないこともあるため、その程度の視聴者になっている。むしろ200人も登録してくれていることが驚きだ。


 ではなぜ配信をしているのかというと生存確認だそうだ。まだ高校生である俺をダンジョンに行かせる代わりにと母に頼まれたからこうしてやる気のない配信を続けている。


 探索者であった父が失踪してからというものの女手一つで俺を育ててくれた母への親孝行にと始めたダンジョン探索が母の心配の種になっているのは正直複雑ではある。

 今は未成年のため換金できるドロップ品に上限がある。そのため家が豊かになるほどの額は稼げないがその枷も高校を卒業したら外れる。あと少しの辛抱でようやく母に楽をさせられるのだ。


 今は日々配信しながらソロ探索を繰り返し、少し稼いで、命をつないでいく。

 いつか魔物で死ぬかもしれないけどそれまではこの暮らしを続けていくのだろう。


「よし」


 配信の準備をすませると仕上げに「反転」を発動する。

 俺のスキル「反転」は発動した対象の性質、位置をあべこべにするというもの。


 俺自身に発動すると?


「ふう……やっていきましょうかねぇ」


 性別が反転し女になるのだ。鏡で見た感じ、長髪のクールビューティーといった感じの姿に変わっているはずだ。

 いわゆるリアル「バ美肉」である。

 スタイルも顔も世間一般では美人と分類されると思う。

 反転させた結果美人になっていることはつまり元の俺が不細工だと暗に証明してしまっているようでなんとも言えない悲しい気持ちになるが、ネットの海に顔をさらすよりはましだ。


 それに俺が身バレを嫌う理由はもう一つある。

 父親が偉大過ぎたのだ。

 今いるダンジョン初の踏破者にして日本最大のダンジョン『アビス』の最高到達者。

 そんな男の息子ともなれば、存在するだけでネットの海に嫌というほどアンチが湧く。

 アンチ対策のためにも身バレの原因は極力排除したい。


「はぁい。こんにちは~リツカです。今日も中層から魔物討伐していきま~す」


 デビュー当時から変わらない口上を述べ、得物の拳銃を手に中層の奥へと向かっていった。

 むき出しの岩肌の間を曲がり角に行きつくまで進んでいく。

 曲がってすぐにビッグスライムが待ち構えていた。

 すぐさま「反転」を発動させスライムの核と小石の位置を反転させる。核を失ったスライムは内側から溶けていき何もできないまま地面に吸い込まれていった。


 カメラの画角を確認してさらに奥へと足を進めた。


「ここから次の縦穴まで魔物が出ることはめったにないですねぇ」


 一応の説明を口にしながら淡々と配信状況を確認する。


 同時接続者はいつも通り十数人程度。たった一人「すごい!」、「美しい立ち回りだ」とかのコメントを書き込んでくれているだけでコメント欄にも活気がない。

 一切視聴者と交流せず淡々と魔物を討伐しているだけのそんなものだろう。


 念のために言うと母ではない。母も母で仕事が忙しく俺の配信を見ることができていないらしい。見ていないなら配信している意味がないと思うけど。


「ここから魔物が生息しているエリアとなりますぅ。ほらもう私に向かってきてる」


 視聴者に向けてそれだけ言うと、向かってくるゴーレム兵部隊に突っ込んでいく。

 群れの中に入り込み位置を反転させながら撹乱し同士討ちを誘発させ、最後の一体になったところで「反転」でとどめを刺す。これが俺の戦闘スタイル。


 配信映えのする大技も美しい技術もない。


 配信者としては失格レベルの戦闘スタイル。だが無駄な体力を消費しないためには自分のスキルにあった戦闘スタイルが一番だ。


 最後のゴーレムを倒し、縦穴へと向かっていく。


 今日は日曜日だ。明日の学校のためにも早めに中層の魔物を狩って帰らないと。平日は中層まで行く体力も時間もないため次中層まで来れるのは土曜日。それまでに1週間分のお金を稼がないといけない。


 途中に出会った魔物を素早く葬り去りながらコメントを見るといつものように一言だけコメントが増えている。


『お見事です! お姉様!』


 なぜかお姉さま呼びしてくるコメントに苦笑しているのを隠すように走るスピードを速めた。

 実際は男であっても正直お姉様と慕ってくれる視聴者がいるのはうれしい反面、少し申し訳なくなる。


 そのお姉様は幻想なんだ。本当は陰キャ高校生なんだよと罪悪感から告白してしまいそうになるのをこらえていると天井から地底までを貫く縦穴の縁に到着した。


 さて、今日はどこまで潜ろうかしらと縦穴を覗いた瞬間だった。


 とっさに顔面目掛けて飛んできた物体を、体全体を使って避ける。


 岩壁に突き刺さったそれは……


 一本の剣であった。

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