第21話
七海の病室では親子喧嘩が夜を明けてもなお続いていた。
「ねぇ、お母さんの話を聞いて。」
それに返事をすることはない。
再び母がため息をついて声を掛ける。
「あなたはいつもそうやって。自分の都合が悪いと、だんまり。お母さんの気持ちも知らないで。」
「わかってないのはそっちでしょ!私は死ぬの!死がわかってないお母さんには私のことなんか分かるはずない!分かってほしくもない!」
10代、反抗期、青春
大切な成長の時間を病気という悪魔に苛まれてしまった七海は反発することでしか自分を守る方法が分からなかった。
「なんでそういうことになるの?確かにあなたの死への恐怖は私には到底分かり知れない。でもお母さんもあなたが死ぬことはとても怖いのよ。」
「じゃあ、生かしてよ。」
それは誰もが願った叶わない願い。
「 私だってそうしたいわよ。あなたには生
きてほしい。何としても。」
「治してよ。私の病気。」
母は何も言えなくなる。
娘が死んでしまう。そのことを一番受け止めきれていないのは母だった。
助けたい。何かの奇跡で助かるんじゃないのかと根拠のない何かに必死に縋りついて、娘の前でもなんとか乱れることなく振る舞っていた。
「無理なんでしょ。私は学校に行きたい。友達を作りたい。文化祭の準備にも参加したい。今からでももう一回病院を抜け出しちゃいたいぐらいだよ。」
「それは駄目。」
寿命を縮める行為、母が許すはずがなかった。
「なんで?」
「悪化したらどうするの?」
「それでもいい。」
それでもよかった。本来ならばそらとともに教室でトリックアート展の創作に取り組んで、普通に授業を受けて、普通の人生を送るはずだった。
それが出来ずに病室に閉じこもる。
治りもしないのに。
それは彼女にとって死同然だった。
「駄目。」
「ねぇ、おねが、「駄目!」」
「結局お母さんも私の味方じゃないんだ。」
「だからなんでいつもあなたはでそういう考えになるの?」
どうせ死ぬんだったら全力で最後を高校生らしく、みんなと同じように過ごしたい娘。
できるだけ安静に過ごして一日、一時間、一分一秒でも長生きして欲しい母。
どちらも正解で、どちらも不正解だった。
「私がいつも会ってる子なら駄目なんか言わない。私の意見をちゃんと聞いてくれる!」
そうやって思い浮かべるのはそらの姿。
頼りないけど、誰よりも彼女の気持ちをわかってくれていた。
正直あの喧嘩した日、そらから言われた言葉は全て的を射た発言だった。
本当は自分も弱虫だった。
そらが思い描いている七海は自分の本心を隠すための偽物に過ぎなかった。
それに気づいてくれたそらが、七海にとっては一番の理解者になっていた。
「いつも病院を抜け出すのはその子に会っていたからなの?」
「ほっといて!」
其の儘七海は母の静止の言葉を無視して病室から出ていく
呆れたようなため息を吐きつつも、娘がそういう性格であることを母は理解していた。
私の言うことを素直に「はい」と認めるような年頃ではないことも。
進んだ方向の先に出入り口はない。
きっと飲み物でも自販機へ買いに行ったのだろう。
病院内にいることは確かであることからひとまず安心して息をつく。そのとき、
コンコン、
病室のドアが叩かれた。
ドアが開くとそこには、娘と同年齢ほどの一人の少年が立っていた。
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