第6話

「そんな深刻そうな顔しないでよ。」


笑いながらそう僕に言う。

まるで死ぬことを覚悟しているかのような、

でも僕とは違う。死を受け入れるんじゃなくて、生を諦めているように彼女は笑った。


「案外平気なんだよ。そらくんの死にたい貯金は生きるための、死へのストッパーでしょ」


彼女は僕が説明を省略した分まで汲み取ってそういった。


「うん。大げさかもしれないけれど、精神安定剤みたいな…」


「私の生きたい貯金はね、生きないためにしているの。」


死なないための僕と生きないための彼女

手段は同じといえど目的が違う


でも似たようなことをしてるって思うだけで少し心を開けた気がした。まぁ心を開けなくても彼女は無理矢理こじあげてくるだろうけど


「どんなことが書いてるの?」

単純に中身が気になって聞いてみた。




「生きたい貯金にはあって嬉しかったこと、幸せだったことを貯めてるの。で、貯まった瓶を見て思うんだ『あぁこんなに幸せなことがあったんならもう死んでもいいかな』って。私がもう死んじゃうっていうことは変えられない事実だから。」


やっぱり彼女は明るい。そうやって僕は生を諦める彼女のしょうがないでしか割り切ることのできなかった感情に気付かないふりをした。


「もう全部貯まったの?」

「いやまだ全然。そらくんは?」

「僕も、全然」


彼女はつぶやいた。


「じゃあお互いの貯金が貯まる時期、一

緒ぐらいかもね。そしたらさ、死ぬ時期も一

緒なのかな。また、天国で会えるといいね」


彼女は少し変わっているのかも知れない。

でも、それに賛同してしまった僕も、もうすでに彼女の世界に入り込んでしまって



「そうだといいね。」


と返事をしてしまった。



「でも君はさ、貯金が貯まっても生きるんだよ。」

付け足したような善意の言葉。僕は自分の言ったことに少し嫌気がさした。


「貯まったらきっとすぐに死んじゃうよ。ううん、貯まるのを待つこともなく死んじゃうかも知れない。」


一瞬顔に影が入ったかと思うと悪戯っぽく笑顔になって僕にこう言った。


「でもそらくんは、自殺だから地獄かもね。しょうがないなー、その時は一緒に地獄まで着いていってあげるよ。」



そこで僕は一つ疑問に思った。


「どうして君はそこまで一緒にいたがるの?まだ出会ったばかりなのに。」


「だってさ、生きてる前に知ってた人と同じ時期に死ぬなんて考えてなかった。一人じゃないんだよ。嬉しくない?」


「君ってさ変わってるよね。」


「え?何それ褒め言葉?」


「一緒に死ねて喜ぶなんて…。」


彼女は顔を見せてくれない。


「1人は怖いよ。」


それは彼女の本音のような気がした。

それを本音を受け止めようとする前に、彼女はいつもの笑顔に戻った。


「もうこの話は終わり!暗い話は苦手なの。今日は話せて嬉しかった。また会おうね。」


僕は思わず走り去る彼女を止めそうになる。でも止める理由が思い当たらずそのまま伸ばした手は空を切る。


彼女が何かを思い出したように振り返ってこう言った。



「今日君と会えたこと、貯金に入れとくね。」


やっぱり彼女の笑顔は僕には眩しすぎるぐらい輝いていた。

それが余計に彼女がいつか死んでしまうことを際立たせていた。

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