第4話
「君、よくここの公園にいるよね。窓から見えるんだ〜」
彼女はなんとでもないように別の話題を振る。学校に行っていない、そんなワードをスルーできるほど僕は単純じゃないけど、わざわざ会話を変えてまで問いただすような勇気は僕にはなかった。逸らされた話題を繰り返すのは野暮だと自分の中で勝手に説得して彼女の会話に乗る。
「家、学校から近いんだね」
「家っていうか…うん、そうだね。近いよ。」
歯切れが悪いのは聞かなかったことにしよう。何かを深掘りするには僕たちの関係はまだ浅すぎる。
「そんなことよりさ!それ!何してたの?」
再び明るくなった彼女を見上げる。
第一、僕が公園でこの習慣を始めたのも専業主婦で毎日僕の部屋を掃除しにくる母に突っかかれるが嫌だったからだ。この公園ならたとえ見られても声を掛けられることはなく、内容を知られることもないだろう。そう思っていたのに。
僕は苦し紛れの言い訳を溢す。
「…折り紙。」
「うそだぁ。じゃあさそれ見せてよ。」
彼女の表情はコロコロ変わる。
笑顔かと思えばすぐに怒ったような拗ねたような表情になる。
そんな彼女につい乗せられて折り紙に書いた内容を見せそうになるけどそれこれとは別だ。ここで内容を知られたら終わってしまう。何もかも。初対面にする態度じゃないが許してほしい。そう願いながら僕は首を振り続ける。
「えー!なんでよー!見たい!!」
そんなことで彼女は食い下がらない。うん。なんとなくそんな気はしてた。
「と、とにかく無理なものは無理!」
僕も負けじと声を出す。
でも好奇心というものは恐ろしい。
弱い僕が強い好奇心に勝てるはずがなかった。それは彼女と出会った時から決まっていたようなものだ。
ふと彼女が遠くを見つめた。
僕は気になってついそこに目を向ける。
その隙に、
「えい!」
しまった。油断した。
よくある主人公が相手に隙を突かれた時のようなセリフを心の中で思い浮かべるが実際僕は隙なんてなくてもいつかはこうなっていたのであろう。思わず顔を手で覆う。
彼女は何も気にしない様子で僕の文字を読み上げた。
「僕はやっぱり友達ができない。こんなに時間が経ってもよそよそしい。死にたい。_何これ?」
あぁ、終わった。僕は本気でそう思った。
よりによってこんなに僕の人生とは無縁な人生を歩んでそうな彼女に見つかるなんて。
今日はもう一度折り紙とペンに用事ができそうだ。
「別に、なんでもないよ。」
言い訳を口に出す。僕の人生は言い訳ばかりだ。都合の悪いこと全てから目を背ける。
彼女は僕を馬鹿にするだろうか。そう思うと今まで向けられた笑顔も全ていじめっ子のような悪い笑顔に即座に脳内変換された。
でも彼女はそんな人じゃなかった。
「なんでもないわけないでしょう!?ね、これどういうことなの?…もしかしてうちのクラス、イジメとかあるの!?知らなかったぁ…」
彼女は底抜けに明るい声を出してまるで僕を心配しているような顔をした。それに一瞬動揺をする。でもすぐに否定しなければ、いくらよそよそしいとはいえクラスの人はみんな優しい。僕のせいで悪者になってほしくない。慌てて口を開く。
「イジメられてる訳じゃない。僕たちのクラスは優しい人ばかりだよ。」
「そうなの?じゃあ尚更気になっちゃうよ。君が書くこの文が誰かに向けられたSOSじゃないのなら、これはなんのために書いてるの?」
もうここまできたんだ。全て話してしまおう。今日の僕は疑ったり、気を許したり、感情が忙しい。それに彼女に誤魔化しは通用しないことはこの短時間で十分分かった。
僕は覚悟を決め息を吸ってこう言った。
「死にたい貯金。」
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