初任務7
「下水道か?」
すると穴を覗き込むリサとエバの通信機にシェーンの声が届いた。
「どうしたの?」
「地面に開けた穴から逃走した」
「穴? ちょっと待って。――あったこれだ。リサ、ダロン警部にも通信機を」
シェーンに言われた通りリサはダロンにポケットから取り出した通信機を手渡した。依然にも付けたことがあるのかダロンは疑問を口にせず、すぐに通信機を耳へ。
「いいぞ。――お、おいっ!」
それはダロンが通信機を耳へ付け終えた直後の事だった。エバは何の躊躇いもなく穴に飛び込み、それに続きリサも穴へ。
「とりあえずあたしたちは奴らを追う」
「ったく。気を付けろよ。シェーン、リロリツェファミリーのベック・タガールという男の写真を送っておけ」
「分かりました」
下水道の中は当然と言えばそうだが光は無く真っ暗。そんな暗闇をカチッというスイッチの音の後、眩い光が照らした。光源はリサの手に持ったライト。
それで一度前方を確認すると彼女は後ろを振り返り間接的にエバを照らした。
「ライトは?」
「置いてきた」
その返答に何か言いたげな表情を浮かべるリサ。
「なんだよ」
「どのくらい見えてるか分からないけど離れないで」
「大丈夫っての」
ライトが前を向き暗闇に包まれたエバの声はその闇に容易に吞み込まれそうなほど小さかった。
そしてライトで前方を照らし進み始めようとしたリサだったが、その前に地面へライト共に視線を落とした。
「血ね」
「ならそれであとは追えそうだな」
まるでパン屑のように中央寄りに一定間隔で残された血痕を道標に二人は下水道を進み始めた。
「シェーン続けて」
「分かった。今その倉庫の事を調べてみたんだけど、どうやら所有会社は架空のもので本当はリロリツェファミリーが所有している倉庫だったの。そしてその倉庫の下には下水道が通ってて、つまり今二人が通ってるそれの事なんだけど、もしかしたらその穴はもしもの場合の備えだったかもしれない」
「奴らここに追い詰められたわけじゃなくてここまで逃げてきたって訳か」
今にも舌打ちが聞こえてきそうなダロンの声は溜息交じり。
「恐らく」
「どうにか出口を予測できんか?」
「難しいとは思いますけど各出口と周辺の建物から可能性を考えてみます」
「それとその水路図を送ってくれ。お前たちは何かあれば連絡を頼む」
「分かった」
それからエバとリサは警戒しながらも足早にその血痕を追った。暫くの間、血痕を頼りに走り続ける二人。
すると一歩前を走るリサが曲がり角に差し掛かったその時。
「うらぁぁぁ」
死角からタイミングを見計らい紺鼠色の肌をした男が棒状の武器を両手で振り下ろし襲い掛かってきた。完璧な不意打ちかと思われたが、それをリサはライトを手放し鞘に収まったままの刀で受け止める。ライトは一度バウンドすると転がり通路ギリギリで止まった。
一方、一度武器同士のぶつかり合う音が響き渡るとその二つはまるで完璧なシンメトリーを描くように力の均衡を保ち始めた。どちらも押さず引かずの完璧な静止状態。
するとその鍔迫り合いを横からのひと蹴りが終わらせた。当然ながらそれはエバ。彼女の振り上げた足は男の手から武器を宙へ舞わせ、透かさずリサは(抜かずそのままの状態で)下から上へ刀を振った。下から顎を突き上げるその強烈な衝撃はさながらボクサーのアッパーカット。男は後方へ引っ張られるように倒れた。
だがその男の後ろにはもう一人(同じ種族の)男がナイフを構え立っており仲間が倒れるとその陰から飛び出しリサに襲い掛かる。リサはその男に気が付いていたのか、顔色一つ変えず下がりながらその連撃を躱した。
しかしここは下水道のあまり道幅のない道。すぐに際へと追いやられ彼女の靴底は半分ほど水面に顔を覗かせた。その状況に優位性を感じたのか男はニヤリと口角を片方上げた嫌な笑みを見せる。
そしてナイフをリサの腹部目掛け鋭く突き出した。が、それが彼女の滑らかな肌を傷つける事は無く、それどころか服にすら触れる事すら叶わず手首を掴まれ止められた。直後、鈍器と化した刀に横顔を殴り飛ばされるが意地か忠誠心か倒れずに踏ん張る男。
だがそうしたところで結果が変わる事は無く、間髪入れずリサは男の金的へ容赦のないひと蹴り。苦痛に顔を歪ませながら両手両膝を地面に着けると追い打ちとして彼女のブーツは男の顔を蹴り上げた。鼻の折れる生々しい音、それに加え男の微かな声が下水道内へ反響してゆく。
「容赦ねーな」
その光景に若干ながら顔を引き攣らせたエバは重なり倒れる男から無表情でライトを拾い上げるリサへと視線を移した。
「行くわよ」
「そつらは部下が回収しに行く」
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