第55話 底辺配信者、ギルド対抗戦に参加する。16

 俺はライ⚪︎ーキックで龍馬さんをリタイアさせる。


「よし!まずは美柑を回復させるために、千春さんの援護にまわるぞ!その次に芽吹ちゃんだ!」


 俺はお姫様抱っこしている美柑に話しかけ、千春さんのもとへ向かうよう提案する。


「待って!千春さんよりも先に芽吹ちゃんの方に行かないとマズイわ!」


 そう言われて芽吹ちゃんの方を見ると、千春さんよりもボロボロな状態の芽吹ちゃんがいた。


 俺たちが龍馬さんと対峙している間、千春さんと芽吹ちゃんは1対2という不利な状況で敵を2人も引きつけていた。


 そのため、千春さんと芽吹ちゃんは満身創痍となっている。


 だが、遠距離攻撃が得意ということで前線でほとんど戦ったことのない芽吹ちゃんは、敵の攻撃を防ぐことが難しかったようで、千春さんよりも怪我が激しい。


「だから今すぐ私を下ろして!裕哉のおかげで動ける程度には回復したから、私が千春さんの援護に回るわ!」


「いいんだな?」


「えぇ。この体勢だと裕哉の足を引っ張る……ことはなさそうだけど、裕哉には万全の状態で芽吹ちゃんを助けてほしいから」


「分かった」


 俺はお姫様抱っこしている美柑を下ろす。


 地面に立たせた時に倒れないか不安だったが、そんなことはないようだ。


〈美柑ちゃん、少しは回復したようだな〉


〈今までは美柑ちゃんをお姫様抱っこしてたから本気の裕哉ちゃんを見れなかった。ここから裕哉ちゃん無双が始まるぞ〉


「少しは動けそうね。激しい動きは難しいそうだから弓で千春さんの援護をしてくるわ」


「頼む!俺は芽吹ちゃんの援護をして、終わり次第、芽吹ちゃんと向かうから!」


 そう言って俺と美柑は別れる。


 そして俺は急いで芽吹ちゃんのもとへ向かう。


 徐々に芽吹ちゃんの戦っている姿が見えるようになり、援護しようと剣の柄を握ると…


「きゃぁぁっ!」


 芽吹ちゃんが敵からの魔法攻撃で杖を弾かれ、体勢を崩す。


 そんな芽吹ちゃんへ、無数の魔法が飛んでくる。


「っ!」


 芽吹ちゃんの体勢から無数の魔法を防ぐことはできない。


 喰らえばリタイアは確実だろう。


〈ヤバいっ!あの量の魔法はマズイぞ!〉


〈芽吹ちゃん!避けろーっ!〉


 俺は全速力で芽吹ちゃんのもとへ向かう。


(間に合えっ!次こそは守るっ!)


 その決意に応えるように、俺はトップスピードとなる。


 “ドゴっ!”


 芽吹ちゃんがいた場所に無数の魔法が着弾する。


 しかし、無数の魔法は地面に着弾しただけで、芽吹ちゃんに着弾することはなかった。


「はへ?」


 そんな可愛らしい声が俺の腕の中から聞こえる。


「ふぅ、今度は守ることができた」


 俺はお姫様抱っこしている芽吹ちゃんに声をかける。


 無数の魔法が芽吹ちゃんへ着弾する瞬間、俺は芽吹ちゃんをお姫様抱っこで救い出した。


〈うぉぉぉっ!あの攻撃から芽吹ちゃんを助けるのかよ!〉


〈正直、芽吹ちゃんはリタイアかと思った!すげぇぞ、裕哉ちゃん!〉


〈ってか、またお姫様抱っこかよ!変なところ触ったらぶっ殺すぞ!〉


〈大会を利用して美少女たちの身体を堪能するとは……死ねばいいのに〉


〈なんで裕哉ちゃんにヘイトが集まってんのww。アイツ、芽吹ちゃんを救ったヒーローだろww〉


「ごめん、遅くなった。怖くなかったか?」


「はいっ!だって裕哉お兄ちゃんが助けに来てくれるって信じてましたから!」


〈〈〈〈裕哉お兄ちゃん?〉〉〉〉


〈そこツッコむところじゃなくね?ww〉


〈相変わらず、ここにコメントする奴らは仲が良いよなww〉


〈ちょっと!お兄ちゃんの妹は私しかいないんだよ!見境なく妹を作るなんて許さないからね!〉


〈あ、本物の妹は怒っていいぞ〉


〈裕哉ちゃん、帰ったらお仕置きが待ってるらしいな〉


〈みんなの妹、芽吹ちゃんを奪った罪は重い。せいぜい、本物の妹から殺されてこい〉


〈〈〈そうだそうだー!〉〉〉


〈ホント団結力が半端ないなww〉


「こ、ここでお兄ちゃんはやめろ。恥ずかしいだろ」


「あ、そうでした!裕哉先輩に助けられたのが嬉しくてつい……えへへ」


 芽吹ちゃんが照れながら言う。


〈はい、可愛い〉


〈なんで裕哉だけモテモテなんだよ!〉


〈死ねばいいのに〉


〈裕哉ちゃん、この大会が終わったら殺されるんじゃないかなww〉


 芽吹ちゃんが可愛く照れたところを見て、俺は芽吹ちゃんから目を逸らしながら言う。


「と、とにかく、今の攻撃で怪我は無さそうだからおろす……」


 と言って芽吹ちゃんを地面におろそうとするが、俺たちに向けて魔法が飛んできたことで、すぐに回避行動をとる。


 “ドゴっ!”と俺が立っていた場所の地面に魔法が着弾する。


「ごめんな、芽吹ちゃん。俺からお姫様抱っこなんかされても嬉しくないだろうが、少しの間、我慢してくれ」


「いえ!ウチ、裕哉先輩からのお姫様抱っこが嬉しいので、謝らなくていいですよ!」


「………え、嬉しいの?」


「はい!だって妹はお兄ちゃんからお姫様抱っこされる生き物らしいので!」


「そ、そうか……それは初めて聞いたなぁ」


 多分……というか絶対違うだろうが、とりあえず美柑のように芽吹ちゃんが怒ってないようで安心する。


「とりあえず、まずは芽吹ちゃんの杖を回収するぞ」


「わかりました!」


 俺は芽吹ちゃんをお姫様抱っこした状態で転がっている杖まで移動する。


 もちろん、敵が簡単に杖を拾わせてくれるわけもなく、ひたすら魔法を放ってくる。


 しかし、モンスターよりも遅い魔法攻撃に当たるはずもなく、俺は全ての攻撃を回避しつつ芽吹ちゃんの杖まで移動する。


〈いや凄すぎww〉


〈無数の魔法が飛んでる中を、芽吹ちゃんをお姫様抱っこした状態で躱すなんて!〉


〈しかも杖までの距離を縮めてるし!〉


 杖が落ちている場所に到着した俺は、芽吹ちゃんに杖を拾わせる。


 目一杯、地面に手を伸ばした芽吹ちゃんは無事に杖を拾うことに成功する。


「拾いました!」


「よしっ!俺がこのまま回避し続けるから、芽吹ちゃんは特大魔法で敵をリタイアさせて!」


「はい!」


 芽吹ちゃんが元気に返事をすると、詠唱に入る。


「さて、芽吹ちゃんが詠唱に集中できるように、しっかりと攻撃を避けるか」


 俺は芽吹ちゃんに負担がかからないよう、敵の攻撃を回避し続ける。


 そして「いつでも攻撃できます!」という言葉を聞き、俺はその場でジャンプをする。


 威力を落とした攻撃をしなければならないため、詠唱時間が短かったようだ。


「いきます!エクスプロージョンっ!」


 俺の腕の中で放った言葉と共に、杖から放たれる魔法。


 その魔法は地面に着弾すると同時に爆発し、“ドゴゴゴゴッ!!”という音が響き渡る。


「………」


(え、俺のライ⚪︎ーキックより威力あるだろ……敵さん、死んだんじゃね?)


 俺のライ⚪︎ーキックよりも大きな爆発音と威力を感じつつ 「『霧雨』ギルド2名の気絶を確認。リタイアします」というアナウンスを聞いた。



 残り『閃光』ギルド5名、『牙狼』ギルド2名、『霧雨』ギルド1名。

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