第30話 底辺配信者、千春さんとダンジョンデートをする。1

 芽吹ちゃんとのダンジョン探索を終了する。


 視聴者に挨拶をして男物の服に着替えた俺は芽吹ちゃんと一緒に帰路につく。


「芽吹ちゃんは多彩な魔法を持ってるな」


「はい!たくさん魔法を持ってることが取り柄ですので!」


 元気いっぱいに芽吹ちゃんが答える。


「ですが、たくさん魔法を持っていても守られないと戦えないので、ウチは今も先輩たちの足を引っ張り続けてます。そのことが申し訳ないです」


 今度は一転、表情を暗くしながら呟く。


(きっと、星野さんたちの足を引っ張り続けていることをずっと気にしてるんだ)


 芽吹ちゃんの表情から、そんなことを思う。


 そのため、俺は小さくて可愛い後輩の頭に優しく手を置く。


「あっ……」


「芽吹ちゃんは気にしすぎなんだよ。星野さんや園田さん、美柑の3人が芽吹ちゃんのことを足手纏いと言ったことがあるのか?」


「い、いえ、ありません」


「なら芽吹ちゃんはみんなの足を引っ張ってないってことだ。だから気にしなくていいんだよ」


 俺は芽吹ちゃんを励ましつつ、頭を優しく撫でる。


「そうですね。どうやらウチは気にしすぎのようです」


 芽吹ちゃんの表情が徐々に柔らかくなる。


「ウチ、裕哉先輩のようなお兄ちゃんが欲しかったです」


「え?」


「あっ!そ、その……い、今のは忘れてください!」


 真っ赤な顔で忘れるようお願いする芽吹ちゃん。


 そんな芽吹ちゃんをもっと近くで見たいと思ったので…


「俺でよければいつでも芽吹ちゃんのお兄ちゃんになるよ。俺には可愛げのない妹がいるから芽吹ちゃんのような優しい妹が欲しかったし」


 できるなら美月と芽吹ちゃんを交換したいと思っていたことは内緒にしておく。


「ほ、ほんとですか?」


 可愛らしく上目遣いで聞いてくる芽吹ちゃんにノックアウトされそうになるが、グッと耐えて返事をする。


「あぁ。だから困ったことがあれば相談してくれ」


「はい!裕哉お兄ちゃんっ!」


「っ!」


 眩しい笑顔で返事をする芽吹ちゃんを直視できず、俺は視線を逸らす。


「あっ!ウチはこっちの方なので!今日はありがとうございました!また一緒にダンジョン探索をしましょう!今度も2人きりで!」


 そう言って芽吹ちゃんが走り去る。


「………2人きりで?」


 その言葉が引っかかり、発言の意味を考えつつ帰宅するも、一向に分からなかった。


 そして、今日も家では美月と紗枝から女装してダンジョン探索した件をひたすら話された。


 美月と芽吹ちゃんを交換したいと切に願った。




 あれから数日後、今日も俺は2人きりでダンジョンデートをすることとなった。


 相手は俺の2つ年上で、芽吹ちゃん並の巨乳を持っており年上の色気が半端ない園田千春さん。


 美柑と芽吹ちゃんの時は俺の方が遅く到着したため、その反省を活かして集合時間の10分前に到着する。


 もちろん、女装なんてする気はないので男物の服を着て集合場所へ向かう。


 しかし、俺よりも先に配信の準備をしている園田さんが集合場所にいた。


「あら、おはよう。裕哉さん」


「おはようございます、園田さん。すみません、遅くなってしまいました」


「いえ、私の方が早く着きすぎたのよ。集合時間前に来てくれたのだから謝る必要なんてないわ。むしろ早く来すぎなくらいよ。ギリギリでもよかったのに」


「いえ、年下である俺が年上の園田さんを待たせるわけにはいきません!」


「そんなことしなくてもいいのだけど……あ、もしかして、少しでも早く私に会いたかったの?」


「そ、そんなことはありません!」


 まさかの切り返しに俺は慌てて否定する。


「あら、ハッキリ言われると悲しくなるわね」


「ご、ごめんなさい!園田さんには会いたかったですが、えーっと……」


「ふふっ、冗談よ」


 そう言って何事もなかったかのように配信の準備に取り掛かる園田さん。


「………」


(もてあそばれたぁぁぁ!!!)


 年上の余裕というものを見せつけられる。


「さて、もう少しで配信の準備が終わるのだけど、配信を始める前に裕哉さんにお願いがあるわ」


「なんでしょうか?」


「私のことを『園田さん』と名字で呼ばなくていいわ」


「え?じゃあ、なんと呼べばいいんですか?」


「そうね。『千春お姉ちゃん』なんてのはどうかしら?」


「恥ずかしいので却下でお願いします」


「あら残念」


 少しも残念と思ってない様子の園田さん。


「千春さんでよろしいでしょうか?」


「えぇ。名字で呼ばなければなんでもいいわ」


 とのことなので「千春さん」と呼ばせてもらう。


「っと、配信の準備ができたわ。さっそくだけど配信を始めるわよ」


「はい!」


 俺は千春さんの言葉に返事をして、カメラの前に移動する。


「配信スタートよ」


 千春さんの声で配信が始まった。




「こんにちは。今日もダンジョン探索を配信しようと思います。さっそくですが、今日は裕哉さんと一緒にダンジョンに潜ります」


「こんにちは。今日もよろしくお願いします」


〈ん?なんか知らない男が千春ちゃんの隣にいるんだが〉


〈俺も見たことねぇぞ。新人か?〉


〈おそらく新人だろう。でもこの男、最近『閃光』ギルドに加入した裕哉ちゃんに似てる気がするんだよな。特に目元が〉


〈あ、お前もそう思ったのか。俺も裕哉ちゃんに似てると思ったんだよ〉


〈きっと裕哉ちゃんが男装してるんだろう〉


〈〈〈〈あー!なるほど!〉〉〉〉


「お前らいい加減にしろよっ!」


『閃光』ギルドの配信を見る視聴者はバカしかいないらしい。


「ついに男装じゃ認識されなくなったようね」


「男装じゃ認識されないってどゆこと!?俺、男装なんかしてないんだけど!」


「いつもの格好に戻ってということよ」


「これがいつもの格好だから!視聴者の目がおかしいだけだから!って、無言で紙袋を押し付けないでください!」


 ということで、本日も女装してダンジョンを探索することとなった。

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