第18話 底辺配信者、休憩をする。

「そんなわけあるかぁぁぁぁ!!!!」


 またしても星野さんの声が響き渡る。


「荷物持ちって何をするか知ってる!?」


「荷物を運び、守ることです。もちろん知ってますよ」


〈知ってるんかい。俺、荷物を武器にして戦う人と勘違いしてるかと思ったわ〉


〈それなww〉


「アタシの目には守るべき荷物を武器として使ってるように見えたんだけど!」


「致し方なくです。俺も荷物を武器にすることに抵抗はありましたが、荷物を守るためには荷物を武器として使うしかありませんでした」


「なんでその考えに至ったの!?普通は迷うことなく荷物を手放して武器を握るんだよ!」


「なら荷物を手放さなかった俺は、荷物持ちの仕事を真っ当できる素晴らしい荷物持ちということですね。星野さんから褒められて嬉しいです」


「褒めてねぇよ!」


「なるほど。これくらいのこと、荷物持ちならできて当たり前。褒めるほどのことでもないということですね。俺、これからも荷物持ちとして頑張ります!」


「誰かアタシの代わりにコイツと会話して!」


〈あ、遂に愛菜ちゃんが投げた〉


〈よく頑張った。愛菜ちゃんは悪くないぞ〉


〈俺たちはずっと愛菜ちゃんの頑張りを見てきた。少しは休憩してもいいんだよ〉


〈えー、今日までアホな『yu-ya』の相手を頑張ってきた愛菜ちゃんを讃え、俺からスパチャを贈らせていただきます。これで最高級のサロンにでも行ってください〉


〈私からもプレゼントします。これで最高級の焼肉を食べてください〉


〈俺も贈るぜ!〉


〈私もー!〉


〈スパチャ贈る人、多すぎっ!一瞬でスパチャ額が100万超えたんだけどww〉


〈『yu-ya』の相手するだけで100万貰えんのかよww〉


〈『yu-ya』ヤバすぎww〉


 なぜか俺との会話を放棄する星野さん。


 すると、園田さんと足立さんが星野さんの肩に手を置く。


「ごめんね、今まで任せきりにして。ここからは私と芽吹ちゃんに任せて」


「ごめんなさい、愛菜先輩。ここからはウチらが代わりますので、少し体力と喉を休めてください」


「ありがとう、2人とも。後は頼む」


「任せて」


「任せてください!」


 そして、ものすごく良い感じの雰囲気となる。


〈お、バトンタッチしたか〉


〈さて、星野さんというS級のツッコミがいなくなった今、どのようなコントが繰り広げられるんだろう。非常に楽しみだな〉


〈俺、毎回この配信で行われるコント楽しみにしてるからな〉


〈実は俺もなんだよ。ダンジョンの探索中に面白くない会話をする冒険者が多い中、『yu-ya』の加わったこの配信には面白い時間しかない。いつも笑わせてもらってる〉


〈そういえば、いつから『雪月花』はお笑い配信を始めたんだ?〉


〈始めてねぇよww〉


「いろいろと聞きたいことや言いたいことはあるけど、とりあえずモンスターのいない1階に戻りましょう」


「です!ここにいるとレッドドラゴンに襲われる可能性がありますので!」


「そうですね。星野さんが疲れてるようなので1度戻ったほうが良いと思います。いきなり『空飛ぶトカゲ』に襲われて疲れたらしいので」


〈違うわww〉


〈お前のせいで疲れてるんだけどなww〉


〈特に喉がww〉


 そんな会話をした後、俺たちは1階へ戻る。


 そして腰を下ろせる場所で円になるように座る。


 星野さんは疲れ切ってるようで、俺たちの隣にいるだけで、ずっと黙っている。


「とりあえず、今後のことを相談しましょう」


「そうですね。まさか2階層からS級モンスターが出るとは思いませんでしたから」


「なら休憩しながら話しましょう。俺、キャリーバッグから何か食べ物と飲み物を準備します!」


「あ、そういえば、キャリーバッグは大丈夫なの?」


「もちろんです!皆さんの大事な荷物が入ってるキャリーバッグなんです!たとえ振り回したとしても傷一つありませんよ!」


「………そう、それは良かったわ」


〈大事な荷物を武器にしたらダメだろ!〉


〈傷一つなければ武器にしても良いってわけじゃないからww〉


〈千春ちゃん!聞き流しちゃダメなヤツだから!〉


「じゃあ、食べ物と飲み物を……って!なんじゃこりゃ!ぐちゃぐちゃになっとる!」


「そりゃそうですよ。あんなことしたら、ぐちゃぐちゃになりますよ」


「そうか。さすがに振り回しすぎたか」


〈あ、振り回したことによって、ぐちゃぐちゃになってることには気づいたか〉


〈むしろ、バックを開けるまで、ぐちゃぐちゃになってることに気づかなかったことが驚きだわ〉


「ということは、荷物持ちには荷物を振り回しても中身がぐちゃぐちゃにならない技術が必要になりますね」


「いえ、そんな技術要らない……」


「俺、どんだけキャリーバッグを振り回しても中身がぐちゃぐちゃにならない技術を身につけてきます!もしできるようになったら皆さんにお見せしますので!」


「………はい。頑張ってください」


〈要らんわ!そんな技術!〉


〈コイツ、暇なのか!?キャリーバッグを振り回す時間があるなら剣の素振りでもしろよ!〉


〈芽吹ちゃん!今の適当に返事しちゃダメだから!『yu-ya』の奴、本気でバカな技術を身につけようとするから!〉


 俺は足立さんから応援の言葉をもらい、空き時間にキャリーバッグを振り回そうと決める。


 そんなことを思いつつ、10秒チャージのゼリーや飲み物を3人に配る。


「じゃあ、これからの方針なのだけど、私は1度帰還しようと思うわ。きっとレッドドラゴン以外にもS級モンスターがいると思うから」


「ですね。ウチも賛成です」


 園田さんの発言に足立さんが賛同する。


 しかし、俺は帰還しなくても良いと思ってるため、否定する。


「俺はまだ帰還しなくて良いと思いますよ」


「それはなぜかしら?」


「雑魚モンスターしかいないからです」


「「………」」


「そう思ってるのはお前だけだぁぁぁぁ!!!!」


 隣で黙ってた星野さんが突然大きな声を出す。


〈あ、おかえり。愛菜ちゃん〉


〈やっぱりアホの相手は愛菜ちゃんしかできねぇ〉


〈おかえり記念にスパチャ贈ります〉


〈俺も〜!おかえり!愛菜ちゃん!〉


〈声が枯れない程度に頑張って!このお金で喉を休ませてね!〉


〈おい。またしても一瞬でスパチャ額が100万超えたんだけど〉


〈いずれ『yu-ya』と一言交わす度にスパチャ贈りそうだなww〉


「さっき戦ったモンスターはS級モンスターのレッドドラゴンだ!アタシたちじゃ勝てないんだよ!」


「いえ、あれは雑魚モンスターの『空飛ぶトカゲ』です。星野さんたちが言う、レッドドラゴンではありません」


「違う!あれはマジでレッドドラゴンなんだ!」


「またまた〜。仮にさっきのモンスターがS級モンスターのレッドドラゴンだったら、俺がキャリーバッグでS級モンスターを倒したことになりますよ?」


「そうなってんの!お前はキャリーバッグでS級モンスターを倒してんの!」


「ははっ!そんなことできるわけないじゃないですか。そんな話、今時の幼稚園児でも信じませんよ?」


「頼むから自分の実力を把握してぇぇぇ!!!」


 星野さんが本日何度目かの大声をあげた。

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