第17話 底辺配信者、荷物持ちの大変さを知る。

「荷物持ちにそんな仕事ねぇよ!」


 星野さんが大きな声で叫ぶ。


〈俺も聞いたことねぇよww〉


〈荷物持ちって荷物持つだけだから!レッドドラゴンのファイヤーボールに立ち向かう仕事なんてないから!〉


〈てか、なんでキャリーバッグ燃えてないの!?レッドドラゴンの攻撃に耐えるキャリーバッグとか頑丈すぎだろww〉


〈俺、このキャリーバッグ買お〉


〈私もー!S級モンスターの攻撃に耐えれるキャリーバッグなら、もし盗まれても壊されることなんてないからね!〉


〈いや、絶対おかしいから!この商品にS級モンスターの攻撃に耐えられるスペックないから!〉


 俺は星野さんの発言の意味がわからず、首を傾げながら言う。


「なに言ってるんですか。荷物持ちって荷物持ちながら時折戦う仕事ですよ?」


「ちげぇよ!荷物持ちってのは荷物を運ぶ仕事だ!緊急時以外、戦闘には一切参加しねぇの!」


「え?まさか俺はキャリーバッグを持って皆さんが戦ってるところを見るだけですか?」


「そうだ!」


「いやいや!荷物を持つだけで戦闘を丸投げするなんて皆さんに申し訳ないですよ!なにより、荷物を持つだけで突っ立ってるなんて、俺自身が許しません!」


「荷物持ちの鑑かよ!」


〈荷物持ちをする全ての冒険者に聞かせてやりたい言葉だなww〉


〈変なところでしっかりしてるなww〉


〈言ってることは正しいから訂正できねぇぞww〉


「喋ってる場合じゃないわ!レッドドラゴンが来るわよ!」


 園田さんの言葉に俺と星野さんは会話を中断し、『空飛ぶトカゲ』を見る。


 すると、ファイヤーボールを諦めてコチラへ突っ込んでいた。


「っ!アタシが奴の攻撃を防ぐ!その間に千春と芽吹は魔法の準備を……」


「待ってください、星野さん」


 俺は指示を出す星野さんの言葉を遮る。


「奴の攻撃を防ぐだけなら荷物持ちの出番です。なんのためにキャリーバッグを持って来たと思ってるんですか」


「荷物を運搬するためだよ!」


 とか叫んでいたが、俺は星野さんの言葉を無視して、『空飛ぶトカゲ』の目の前に立つ。


 そして、弱点である『空飛ぶトカゲ』の顔目掛けてキャリーバッグをフルスイングする。


「グゥッ!」


“ドゴッ!”という鈍い音と共に、『空飛ぶトカゲ』が数100メートル吹っ飛び、ダンジョンの壁に激突する。


「「「………」」」


〈キャリーバッグ強すぎっ!〉


〈え!?キャリーバッグってレッドドラゴンを吹っ飛ばせんの!?〉


〈俺、明日から剣じゃなくてキャリーバッグでダンジョン探索しよ〉


〈それは自殺行為ww〉


〈キャリーバッグがへし折れるわww〉


「奴の防御は荷物持ちである俺に任せて、みんなは攻撃をお願いします!」


「防御じゃなくてガッツリダメージ与えてるわ!」


「ものすごいカウンター攻撃が炸裂しましたね」


「そうね。荷物持ちってすごいわ」


〈もはや荷物持ちと呼ばなくてよくね!?〉


〈荷物振り回して攻撃してるぞww〉


〈「奴の防御は荷物持ちである俺に任せて」という言葉に違和感しかないんだがww〉


 俺のカウンター攻撃で遠くの方に吹っ飛ばされた『空飛ぶトカゲ』が起き上がろうとしている。


「どうやって倒しますか?」


「そうだな………なぁ、裕哉くん。お願いする形になるんだが、レッドドラゴンの討伐、お願いしてもいいか?」


「もちろんです!時折戦闘するのが荷物持ちの仕事です!荷物持ちとしての仕事を全うしてきます!」


「それは荷物持ちの仕事じゃない気がするんだが……」


「じゃあ、倒しに行ってきます!」


「あ、荷物はアタシらが預かっておくから、裕哉くんは腰にぶら下げてる剣で………っておらんし!」


「あそこよ!キャリーバッグ持ってレッドドラゴンに向かって走ってるわ!」


「ちょっ!腰にぶら下げてる剣を引き抜く気配ないんですけど!」


〈なんでキャリーバッグ持ってレッドドラゴンに特攻してんの!?剣は!?腰にぶら下げてる剣は飾りなのか!?〉


〈どんな時でも荷物を手放さないという意志を感じるぜ〉


〈だから荷物持ちの鑑かよ!〉


〈キャリーバッグでS級モンスターを無双してる奴がいるとのSNSを見た。マジか?〉


〈マジだ。なんならソイツが今、キャリーバッグ持ってレッドドラゴンに特攻してる〉


〈自殺志願者かよww〉


 俺はキャリーバッグを両手に持ち、ダッシュで『空飛ぶトカゲ』に特攻する。


 すると、立ち上がり、体勢の整った『空飛ぶトカゲ』がブレスを放つ体勢となる。


「っ!ブレスが来ます!避けてください!」


「無理よ!距離を詰めすぎてるわ!」


「裕哉くん!」


 後ろの方では3人から心配する声が聞こえてくる。


「大丈夫ですよ、雑魚のブレスなんて喰らいませんから」


 俺はそう呟き、キャリーバッグを両手で振り上げる。


 そのタイミングで、『空飛ぶトカゲ』がブレスを放つ。


“ゴォォォォォォッ!!!”と視界いっぱいに広がる巨大なブレス。


〈やべぇ!避けれねぇ!〉


〈逃げろ!〉


 俺は迫り来るブレスめがけ、振りあげていたキャリーバッグを目にも止まらぬスピードで振りおろす。


「はぁーっ!」


 するとキャリーバッグから突風が生まれ、トカゲのブレスを無効化する。


〈はぁ!?なんだあの突風は!ブレスが消えたぞ!〉


〈キャリーバッグを振り下ろすだけであの突風は無理だろ!〉


〈キャリーバッグ万能かよ!〉


 俺にブレスを無効化されるとは思っていなかったようで、硬直している『空飛ぶトカゲ』の顔面にキャリーバッグで攻撃する。


“ドゴッ!”


「グゥッ!」


 俺のフルスイングにより、近くの壁にぶつかったトカゲは、起きあがろうとするが、俺が一瞬で距離を詰めて、キャリーバッグで追撃をする。


“ドゴッ!”“ドゴッ!”“ドカッ!”


〈キャリーバッグ強すぎぃぃぃぃっ!〉


〈いや、装備してる剣で攻撃しろよ!〉


〈知らんかった。キャリーバッグって殴る道具だったんだ〉


〈違うわww〉


〈Wow!japanese berserkerバーサーカー!〉


〈いや狂戦士ではない……とはいえねぇなww〉


〈キャリーバッグでひたすらレッドドラゴンを殴り続けてるからなww〉


〈そして当たり前のように外人が視聴してるなww〉


 しばらく俺はキャリーバックで『空飛ぶトカゲ』を殴り続けると「ガ……ウゥ……」との力無い呟きと共に魔石を残して消える。


「ふぅ、終わった」


 俺は魔石を拾い、星野さんたちの下へ向かう。


 そして思ったことを口にする。


「いやー、荷物持ちって大変な仕事ですね」


「そんなわけあるかぁぁぁぁ!!!!」


 またしても星野さんの声が響き渡った。

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