第七話ー大丈夫ー

海里は、彼女の一瞬の揺らぎをもう一度与えたいと考えていた。

(与えても大丈夫かな?これでもう一回彼女が悪い方向に動く可能性もある。あーどうしよう…)

何度も何度も考えた結果、心子や他の友達…由菜と席の近い「千聖」に相談した。千聖は由菜が以前打ち解けて話していた友達だ。

千聖にメッセージを送ったが、全く返信が来ない。既読すらつかないので心子にも相談することにした。

「心子ー由菜にもう一回なんか揺らぎをかけたいんやけど、どうしたらいい?」

メッセージはこれだけだった。でも、心子には十分伝わった。昔から通じ合っていた仲間は、誰とでも意思疎通ができた。

「そうだなあ…今なら「大丈夫」とか言ってもよさそうじゃない?」

「確かに!心子ナイス!」

「でしょー?w」

海里は、この言葉で考えた。

(どうやろう俺にこれできるかな?由菜に届くかな?)

「なー心子ー」

「んー?」

「由菜に大丈夫って言ってくれへん?」

「なんで?海里でもできそうやん」

「俺多分そういうの無理ゲー」

「あーわかったわ」

「ありがとう!」

(よし、決行だ!)


次の日。由菜はいつも通り、心子と海里は少し早めに登校した。

「由菜ー!おはよー」

「…心子おはよ」

この言葉に心子はひっくり返るほどびっくりした。

(えちょっと待って名前呼んでくれた!)

目で海里に嬉しさを分かち合うと、海里は少し苦笑しながら

(よかったな)

と伝えてくれた。

「ねー由菜。」

「何?」

最近は即答してくれることも少しづつ増えてきた。

「由菜は一人じゃないよ。私たちは見捨てないか…」

「信じられないから」

遮った。この世のものとは思えないほどの冷たく、心に響く声。

「お、おいなんで…」

海里が思わず口を挟んでしまった。これが火蓋を切ってしまったのだ。

「それで私は傷ついた。だからそんな言葉信じられない。」

「…っ!」

海里と心子は思わず息を呑んだ。彼女の声のトーンが明らかにおかしい。

「な、なあ由菜。俺らは…見捨てるかもしれないけどそばには居るよ」

「そうだよ!」

「……そっか」

今回はどちらも見ていた。一度だけ彼女の目に光が見えた後、真っ黒になった。希望と疑問を持った時の目だ。この目を向けている、それは信頼を置いた証拠だと憶測した。二人は、もう一度考え直そうと思った。

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