第五話ー信頼ー

冷え切った心に気づいた彼は、どうしたら良いのか考えた。彼が出した結論は、「ノートを取り返す」だった。しかし、その作戦は彼女がいないとできなかった。だから、まずは彼女と話し合いをすることが大切。そのために、彼女と話せる環境、つまり信頼を築くことが大切だと考えた。

(まずは由菜と話してみよう)

この判断で、彼女の心を少しづつ温めていく一歩となる。

彼は、彼が信頼しているものにこのことを話した。「必ず漏らすなよ」と添えて。彼女たちは協力した。その中には彼女の手を握った者もいた。この2人がいなかったら、由菜は救われていなかっただろう。


次の日、早速話してみることにした。

「おはよ!」

手を握った彼女…心子が明るく話しかけた。

「…おはよ」

冷え切った言葉で、冷めた声で返ってきた。由菜の返事は、こわばっていた。

「ねぇ、新しくイベント始まったやん?あれ、めっちゃストーリーよくない⁉︎」

「……そうだね。まだ全話解放してないけど」

作戦は雑談、そして趣味の話をすることでテンションを上げ、秘密を打ち明けさせるということだった。それをするためには、仕掛け人が秘密を言い、お互いの信頼を築く必要があった。そこでまずは彼女の好きなゲームの話をしよう、ということだ。

「いやーもう3話のさ!あの中盤で出てくるセリフ、めっちゃ好きやねんけど〜‼︎推しが言ってるからさ〜」

「…そっか。私は推しがあの人たちじゃないから」

毎回返ってくる答えは冷え切り、温かみがない。でも、折れずに彼女らは話し続けた。孤独を感じさせないように、何度も何度も。

「ねぇ、秘密教えるから絶対内緒にしてね?」

「信頼できない人間に教えないほうがいいよ」

この言葉だけに、由菜は即答した。彼女が経験したからだ。警鐘を鳴らしていた。

「でも、信頼できるから!」

「それはあなたがそう思ってるだけ。私が誰かに言いふらす可能性もあるよ」

「うーん、由菜はぜっっっっったいにそんなことしないと思う!信頼してるから!」

一瞬、由菜の目が揺らいだ。SOSに気づいた彼…海里は「ほんの少し」の進歩を感じた。

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