第20話 黄風大王
あれほどに騒々しかった寺の
口笛のような音を立てて、風が吹き始めた。不自然な流れ方だった。寺の敷地内をぐるぐると回っているのである。木々や草木の揺れる
風は徐々に勢いを増す。
八戒が、衣を必至に合わせながら、「あいやあ、
「さっそく吹かしてきやがったな」
顎を上げた悟空が鼻を上下させ、風の匂いを嗅ぐ。
「イタチ臭ぇ。毛まで混じってやがるぜ」
そう言うと、小さなくしゃみを一つした。
「怪風が来ますぞ師父! 目を守らねば」
「目を閉じちゃ駄目よ! 煙の動きをしっかり見なさい!」
沙悟浄が発した警告を、沙羅が
袈裟を燃やしている煙の動きで
黄風大王が使う『
成程。袈裟を集めたのはこういう理由だったのか。玄奘は納得した。
けして、
風向きが変わった。渦巻く強風に散らされていた煙が、一本の筋となり、やがて一つの方向へ引き延ばされる。煙の先は、小さな仏堂を指し示していた。
「悟空、壊せ!」「はい喜んで!」
沙羅が古びた
暴れん坊がおみまいした渾身の一撃。六角堂は、こっぱみじんになった。
そこから現れたのは仏像ではなく、頭をおさえてしゃがみ込んでいる一人の老人だった。長い髭をたくわえ黄色い衣を羽織り、
「見つけたぜ
「あいやぁ見つかってしまった!」
「『見つかってしまった』じゃねえだろ!
「やかましい! ワシにも事情があるのだわい!」
二人は面識があるらしい。悟空と口論した黄風大王は、ぷっとフグのように頬を膨らませた。
「おっとそうはいくか!」
悟空が老いた
しばかれた頬を手で
「痛いではないか乱暴者め!」
「やかましい! 今、風吹かそうとしただろうが!」
言い合っている様子は、もはや子供同士の喧嘩にしか見えない。
玄奘は、八戒と悟浄をちらりと見た。妙に静かだったからである。
なるほど、二人はこれでもかというほど冷めきった目で、老人と猿の喧嘩を眺めていた。完全にやる気を失くしている顔である。
「
迷子になった子供が母親を呼ぶように、
「ボケてんじゃねえよ。虎なら八戒のまぐわ受けて死んだじゃねえか」
「
黄風大王が唾を飛ばす。
牛魔王は今この瞬間も精力的に、あちらの世界の闘いで命を落とした妖魔や、
それがまた生き返ったのだと言うが――――
「しっかしなぁ。お前の妖群なら今さっき、まとめて送り返しちまったぞ」
その中に
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