第17話 〜桁違いの力〜

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」


 傍受した<思念通信>から、ルングたちの悲鳴が聞こえてくる。


 ……ふむ。少々、手加減がすぎたか。

 思ったよりはまだまだ余裕がありそうだな。

 地面に叩きつけてやった魔王城も半壊したといったところか。


 だが……まだ戦えるダメージとはいえ、どう出るのか楽しみだ……。


 魔王城へ向かい……私がゆっくりと歩いていくと、<思念通信>を通して決意したような声が聞こえてきた。


「……『竜蒼の息吹バースト・エンド』を使うわ!!」


 ほう……。面白いことを言ったな?


 竜蒼の息吹とは、原初魔法以外では火属性最上級魔法で……《竜王》が扱う炎を改良した魔法だ。


 ただ、ややこしいのは……加減を失敗すると街一つ燃やし尽くしてしまう危険な魔法である。


「し……しかし、ルング様。『竜蒼の息吹』は魔王城の加護と……魔導士メイジ隊の魔力を結集しても、成功率は二割もありませんっ!」


「それに失敗すれば、今の状態の魔王城は確実に崩壊しますっ!」


「ふざけないで!! 怖じ気づいている場合ではないわっ! 敵の力を認めなさい!! いくら雑種、いくら落伍者と言えども、アリスは城を投げるような化け物よ! 生半可な魔法で撃退できると思って?」


 ルングの指摘に、弱音を吐いていた班員どもが押し黙る。

 やはり、なかなかのカリスマだ。まだまだ未熟ではあるが、敵にしておくには惜しいな……。ますます、欲しくなった。


「火属性最上級魔法『竜蒼の息吹』でもなければ、エリザベス・アリスは倒せない。そうでしょ?!」


 班員どもの声はない……。だが、<思念通信>から伝わる魔力の微妙な流れが、私に彼らの決意を教えてくれる。


「向こうは一人、こっちは五○人もいるのよっ! これで負けたら、恥もいいところだわ。死力を尽くして臨みなさい!! あなたたちの生涯最高の魔法を、皇族の誇りをあの雑種に見せつけてあげなさいっ!」


 その叱咤に、班員たちは声をあげた。


「「「了解っ!!」」」


 その瞬間、魔王城に魔力の粒子が立ち上る。立体魔法陣だ。魔王城そのものを巨大な魔法陣と化し、大魔法を行使するつもりなのだろう。


 築城主十人が発動困難な立体型魔法陣を構築、維持し、魔導士 何人かがそこにありったけの魔力を注ぎ込む。

 残りの呪術師たちは照準を制御する役割を担っている。


 肝心要の大魔法の術式を組んでいるのは、ルングだった。

 蒼き破滅の魔女と呼ばれるだけのことはあり、その才能は希有なものがある。


 仲間の力を借りたとはいえ、これだけ大がかりな魔法を展開するのは決して簡単なことではない。


 リスクをバネに膨大な力を得られる起源魔法などと違い、火属性最上級魔法『竜蒼の息吹』は純粋に魔法技術の積み重ねがあってこそ成せる技だ。


 ルング一人の魔力では到底不可能。つまり、<魔王軍>を教わった後、約一週間の間に修練を積み、実戦で魔法行使が可能なレベルまで練り上げてきたのだろう。


「覚悟はいい? みんなの力、みんなの心、わたしに預けて」


「はい」


「信じています、ルング様」


「俺たちのありったけの魔力を使ってください」


「勝ちましょう……」


「俺たち、皇族の力を」


 皆の心が、魔力が一点に集中する。

 これが、これこそが……<魔王軍>の真骨頂だ。


 それぞれのクラス特性を生かし、発動する集団魔法は各々の魔力を足し、百倍以上に引き上げる。


 格上の相手にさえ、一矢報いることができるであろう。


 しん、と空気が張りつめた。

 次の瞬間、ルングは声を上げた。


「あなた達の意思、借りるわ!! 行くわよぉぉっ!! 『竜蒼の息吹バースト・エンド』っっっ!!!」


 魔王城の正面に砲門のような魔法陣が浮かび上がり、そこに魔力が集中する。極限まで溜められた魔力が一気に爆発するように、それは黒い太陽と化し、彗星のように俺めがけて降り注いだ。


 ふむ。成功率二割と言っていたが、この土壇場でここまで完璧な『竜蒼の息吹』を放つとはな。


「……見事だ。褒美をくれてやろう」


 襲いくる『竜蒼の息吹』に向かって私は手をかざす。

 魔法陣が浮かび上がり、そこに小さな赤い炎が現れた。


 思えば、この時代で攻撃魔法らしい攻撃魔法を使うのは初めてだな。


「……行け!!」


 私が放った小さな炎は、『竜蒼の息吹』に衝突する。

 次の瞬間、漆黒の太陽に穴が空き、それがみるみる炎に包まれ、飲まれていった。


 一瞬の出来事だ。巨大な『竜蒼の息吹』が跡形もなく燃やし尽くされていた。


「……嘘……でしょ……。『竜蒼の息吹』が相殺された……」


「る、ルング様っ! 相殺ではありませんっ! 向こうの『竜蒼の息吹』はまだ……!!」


 私の放った火炎はそのまま魔王城へ突っ込んでいき、そして弾けた。


 城が炎に包まれ、焼け落ちる。壁や天井が崩れ、ガラガラとけたたましい音を立てながら、瞬く間に崩壊していった。


 間一髪、<飛行魔法>の魔法で城から脱出したルングと、魔導士の二人は、もう魔力が底をついたか、ふらふらと私の目の前に不時着した。


「……まさか、たった一人で『竜蒼の息吹』を使えるなんてね……」


 ふむ。神話の時代では、『竜蒼の息吹』は一人で使うのが当然だったのだが、そこは指摘しても仕方あるまい……。


 ただ、今……言うべきことは一つだ。


「術式をちゃんと見ておくんだったな……。私が使用したのは……『竜蒼の息吹』ではないぞ?」


「……は……え……?」


 驚いたようにルングが目を丸くする。


「だけど、『竜蒼の息吹』より上の火属性魔法なんて原初の魔法以外にないはずだわ……」


 そして続けて、魔導士が言った。


「まさか……き、起源魔法かっ!? 皇族のみに伝わる命懸けで行使する禁呪、確かにあれなら、『竜蒼の息吹』に対抗することもできるっ!?」


 ……はぁ、やれやれ、まるでわかっていない。


「残念だが……、今のは起源魔法でもない」


 ルングたちはじっと俺を見つめている。


「『血紅炎ブラッド・グレン』だ」


「なぁ……!? ブラッ……ド……グレ……ン……って……!?」


 そう……この世界の現状の火属性最上位魔法は……『竜蒼の息吹』だが……その逆で、火属性最低位魔法は……『血紅炎』なのだ。


「…………そ、そんな…………炎属性の最低位魔法で、俺たちの……ルング様の『竜蒼の息吹』を焼き尽くし、魔王城を炎上させたというのか……!?」


 ……凄く、絶望的な声が上がる。


「あ、ありえない! そんなことはありえないぞ……! なにか秘密があるはずだ……『血紅炎』を進化させた秘密がぁ!!」


 隠すほどのことではないので、私は教えてやることにする。


「その秘密は……魔力の差だ。俺とお前たち五○人そこらの魔力にそれだけの差があるというだけのことだ……。」


 魔導士はガツンと頭に衝撃を受けたような顔をした。


「な……ん……だと……?」


「そんなことが……。」


「別におかしな話ではないだろう? 魔力に差があることによって、強い魔力で撃つ『竜蒼の息吹』と弱い原初の火の魔法の拮抗するところぐらいは見たことが必ず、あるはずだ。その魔力の差がとんでもなく大きく開けば、こういうこともあるというわけだ」


 そう言って一歩足を踏み出すと、魔導士たちはびくっと体を震わせた。


 絶望に打ちひしがれ、すっかり戦意を喪失した彼らは放っておき、私はルングのそばまで歩いていく。


「……桁違いだ…………化け物め……!!」


 背中から、そんな呟きが聞こえた。


「……ルングよ。約束は覚えているか?」


 そうルングに私は話しかける。


「…………」


 ぐっと唇を噛み、ルングは屈辱に染まった表情を浮かべた。


「どうして……殺さなかったの?」


 そう言われてもな。なにも戦争しているわけではないのだ。

 たかだか授業で殺す必要もないし、大体生き返らせるのが面倒ではないか。


 とはいえ、そんなことを言っても締まらぬしな。


「お前は見込みがある。殺すのは惜しい。」


 そう言って、ルングに私は手を差し出す。


「私の配下に加われ……な?」


 ルングはしばらく考えた後、怖ず怖ずと私の手を取ろうとし、寸前でキッと睨んだ。


 彼女はその<滅びの魔眼>を全力で叩きつけてきた。


「死になさいっ!!」


「断る」


 ルングの<破滅の魔眼>を、私は真っ向から見返す。


「だったら……殺しなさいっ!」


「断る」


 ルングに差し出した手を更に突き出す。


「強情な奴だな。いいから、私の配下に加われ……。」


「……こんな屈辱、絶対に忘れないわ。いつか強くなって、そうしたら、きっとあなたを殺すわよ……」


 ふっと私は笑った。


「言っておくが、ルングよ。殺したぐらいで死ぬなら、私は一万年前にとうに死んでいるぞ?」


 ルングは呆気にとられたような顔になった。

 そうして、どこか諦めたように言った。


「変な雑種だわ……。」


 はあぁぁぁぁあーー。と彼女はクソデカため息をつく。


「……いいわ。今のわたしじゃ、あなたに敵いそうもないし、かといって、<契約魔法>には逆らえないものね」


 そう言い訳をしてから、ルングは私の手にちょこんと指先を置いた。


「でも、覚えていてちょうだい。これは契約……。あなたに心まで売った覚えはないわ」


「あぁ……よろしくな? ルングよ」


 そう笑いかけると、ルングは目を丸くした。


「ねぇ……。もう一つ聞くわ。」


「なんだ? 言ってみろ。」


「わたしを誘ったのは、あの子のため?」


「まあ、そうだな。クルミがお前と仲良くしたそうにしていた。」


「あ、そ。ふーん。」


 興味がなさそうに彼女は私から手を放した。


「あぁ……それともう一つ。」


「なによ?」


「お前の魔眼が綺麗だった……。」


 途端に、ルングの顔が真っ赤に染まった。

 彼女は逃げるようにくるりと身を翻す。


「言っておくが、本当だぞ……? そんな綺麗な魔眼は見たことがない。」


 神話の時代においても、ここまで静謐で穢れのない魔眼の持ち主はいなかった。


 私の目が確かなら、彼女は相当な魔力の才能を秘めているだろう。


 まあ、今はまだ未熟にもほどがあるがな。


「……おーい。聞いているのか?」


 そっぽを向いたままのルングにそう言うと、彼女はまたこっちを向いた。


「……き、聞こえないわよ、馬鹿……!!」


 私に褒められて照れたのか……。ルングは弱々しく言うばかりだった。

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転生した元魔王はTSの熾天使幼女で魔王学院生活を過ごす件。〜前世は歴代最強の魔王で、前世の【魔王の力】と、現世の力である【断罪者】と【開闢(光)魔法】と【聖天使】を駆使してチート無双になります!?〜 白咲焰夜 @sirosakienya_124

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