第301話 戦果の確認

 結局、合流地点に到着したのは俺たちが最後だった。

 付近を警戒中の陸戦中隊が俺たちを気持ちよく出迎えてくれる。

 その中を中央付近まで俺はアプリコットを連れて進む。

 中央付近に野戦テントが設置してあり、今日の本部がここに置かれているようだ。

 そのテントの中に入ると、今度は連邦軍のトップであるキャスター幕僚長が俺たちを出迎えてくれた。

 え??

 何で、ここに居るんだ。

「キャスター幕僚長。出迎え感謝します。感謝しますが……何であなたがここに」

「ああ、作戦通りに村民の避難が完了してな。マリー幕僚たちに連邦まで連れて行ってもらっている。とりあえず全員とまではいかなかったが、それでも女子供はほぼ全員で、男どもも約半数は避難できた。大尉には感謝する」

「え、私たちはまだ敵の遅延行為はしておりませんよ。敵さんが勝手にゆっくりしていたので、それよりもこの後どうしますか。まさか作戦通りに遠回りする必要も無くなったような……」

「ああ、その件もあってここに来たのだが…… 戦果の方は分からなかったようだな」

「ええ、流石にあそこまで辺りが暗くなりますと。まだ、燃えているところもあり、全く見えないという訳ではありませんが、流石に戦果の確認のために部下を危険にさらすわけにもいかず、全員でここに移動してきました」

「ああ、それは分かっている。私は大尉のそんな慎重な姿勢は嫌いではない。が、しかし、戦果を確認しないという訳にもいかないと考えているんだが、どうだろうか」

「そうですね。

 流石に大砲連れて敵情視察とも行かないでしょうから、野戦砲は第三中隊が駐屯している村まで明日戻しますが、それ以外でこっそり覗きに行くには賛成です」

「覗きか。言い得て妙だな」

「大尉。もう少しお言葉を考えて発言してください。軍では覗きはしません。犯罪行為です」

 真面目なアプリコットがすかさずお小言弾を俺にぶつけて来る。

 その場で作戦の変更について話し合った。

 当初の目的である二つの村の住民の避難に関して、時間を稼ぐ意味で俺たちが攻撃に出張ってきたが、攻撃する前にその目的は達した。

 攻撃せずに俺たちも引き返すこともできたが、俺に対する命令である敵基地への威力偵察があったので、そのまま敵を待って攻撃することにしたのだが、それもさっき終わったばかりだ。

 後は、その成果の確認をして終わりという訳なので、話し合った結果、連邦軍からはキャスター幕僚長が連れて来た旧共和国軍の精鋭部隊で構成された一個小隊と、うちからはメーリカ少尉率いる第二中隊を連れて明日朝から視察に行くことになった。

 明朝、俺たちは村に帰る野戦砲部隊とその護衛として付けてある陸戦中隊を見送ってから、ひとまず第二中隊や陸戦中隊が陣を置いた場所まで向かった。


「ここに誰か来た形跡はありませんね」

 旧山猫

 敵でもここから攻撃されたことくらい分かっているだろうから、敵がここを調べに来たかどうかをまず調べた。

 しかし、その形跡が全くない。

 当初の作戦では敵にここを調べさせて、俺たちの居る方へ敵を誘導することだったが、もし、その作戦が今でも生きていたならこの段階で作戦が失敗したことが決まったようなものだった。

 敵がここを調べていないと俺たちの方に誘導できないのだ。

 正直、今回の敵さんには感謝しかない。

 勝手に時間を潰してくれ、俺たちにも威力偵察の機会まで与えてくれたことは、本当に助かった。

 だが、作戦が破綻していたことは今後に影響も出るから、この件は十分に考慮する必要がある。

「大尉。正直村民の避難が完了していてよかったですね。でないと、この段階で作戦が破綻したことになりました」

 アプリコットも同様のことに気が付いて俺に言ってきた。

「ああ、そうだな。なかなか俺たちの思惑通りに敵は動いてはくれないな。だから次は、どうして俺たちの思惑が外れたかを検証しないとな。こういう時に大事なのが基本に帰ることだよ。PDCAを回していくことは社会人の基本だな」

「何ですか、そのPDCAって」

 あ、しまった。

 この世界の話では無かったか。

 まあ良いか。

 俺はごまかすようにここから辛うじて見える800m先の攻撃ポイントを見ながらアプリコットに話した。

「ああ、こっちの話だ。それよりもここに居ても埒もあかない。皆を集めて気を付けながら進むとしよう」

 俺たちはゆっくりと警戒をしながら戦場に向かって進んでいった。

 残り100mを切ったころだろうか。

 急に戦場の方から熱気が襲ってくる。

「やけに熱いですね。前に来た時にはこんなことは無かったのですが」

「ああ、あれだけの弾薬を分撒いたのだ。多分その熱がまだ冷めていないのだろう。今度はやけどにも気を付けながら進むとしよう」

 もうここまで来れば戦場の様子が肉眼でも確認できる。

 周り一面真っ黒に焼けただれたような跡が散見される。

 どこからどう見ても戦車の蒸し焼きが多数ある。

「キャスター幕僚長。これはひょっとして……」

「ああ、大尉。君は凄いな。これなら全滅と判断してもいいだろう」

 敵機甲化中隊はほとんどが昨日の攻撃で無力化されていた。

 無力化なんてやわな状況ではない。

 相当の高熱で戦車の砲塔すら変形をしていたくらいだ。

 人が死んでいてもその原型すら残っていないだろう。

「隊長。私初めて見ました。砲撃だけで地形って変わるんですね」

 そう、確かにそうだ。

 ここが既に俺たちが知っている地形では無かった。

「隊長、あれなんですか」

 一人の兵士が俺に聞いてくる。

「ああ、多分岩が溶けて変形したののだろうな」

「え、岩って溶けるのですか」

「ああ、溶岩は高温で溶けた岩のことだ。昨日の攻撃で辺り一面相当な高温になったのだろう。敵を潰せたのはその高温のおかげかな」

 よく周りを見渡せば、ここらあたりが窪地になっており、熱が逃げにくい地形が幸いしたのだろう。

 最初の数分の攻撃で相当な熱がこもり、それでまず人がやられて、俺たちは反撃されずに済んだようだ。

 しかし、物量に勝る戦略は無いな。

 とにかく撃ち尽くしたのが幸いしたのだろう。

「大尉。戦果の確認でここまで来たが、これ以上の確認は要らないだろう」

「ええ、そうですね。ここの確認は要らないでしょうね」

「ここの確認?」

「ええ、私には別の命令がありました。基地に対する威力偵察です」

「ああ、あの話か。でもこれで済んだだろう」

「ええ、ですがこのまま帰れば私たちは基地に攻撃していないことになってしまいます。それに昨日、野戦砲から基地に対しても攻撃をしております。できればその確認をして帰りたいと考えております」

「危険ではないか。何もこれ以上の危険を課す必要があるのか」

「ですから、遠目で確認できる場所を知っております。そこに行って、とりあえず基地攻撃の確認だけでもしたことにしておきたいのです。そこまですれば、あの参謀も文句も言いますまい」

「大尉。大尉のとこも大変だな。前のうち《共和国軍》ほどではないだろうが苦労しているんだな」

「ええ、軍に放り込まれてから今まで苦労しかしておりませんよ。本当に軍人って因果な職業商売ですね」

 周りにいる俺のこの言葉を聞いた部下たちが一斉に反応する。

『どの口がそんなことを言うのだ』と。

『いつ苦労したというのだ』とも心の声が聞こえてきそうだった。

 人って、自分以外の苦悩は見えないものだな。

「まあ、ここまで来たんだ。最後まで大尉に付き合うよ。案内してくれるかな」

「ええ、ですが私は場所を知りませんから部下に案内させます。アプリコット。悪いが休憩後手配してくれ。全員で向かう」

「了解しました」

 そう言い残してアプリコットはメーリカ少尉の元に向かった。






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