第290話 Gの発生

 翌日、事件は起こる。

 もはや定番となったあのGのお出ましだ。

 警戒に出ていた山猫さんの一人が慌てて俺のところまで戻って来た。

 彼女たちが慌てているなんで珍しいを通り越して、俺は初めて見た。

「何があった?」

「それが一緒に来ていた現地の人が……殺しました……」

俺の横で報告を聞いていた幕僚長のキャスターさんが横から報告を中断させて思わず聞いている。

 そりゃ心配もするだろう。

 自分たちの勢力にないとはいえ、このあたりの人たちを殺したと聞いては穏やかでない。

 しかも、自分の部下と聞いては……部下?

 まだ、だれがだれを殺したとも聞いていないことに俺が気が付いたが、俺よりも早くマリーさんが正確な情報を欲しているようだ。

 「すまない、私が聞いていいのか分からないけど、急を要するようなので聞かせてもらうが、殺したというのは誰が誰を殺したというのだ。

 私の部下が地元民を殺したとでも?」

「いえ、マリー幕僚。

 確かに殺したのは連邦の兵士の一人ですが、殺されたのは共和国の『あれ』です」

もう『あれ』呼ばわりされるGだ。

 一匹見るとというから、少なくとも30人はいるということか。

「もう少し状況を訊かせてほしいが、『あれ』が殺されたとなると、やはり……」

「はい、隊長。

 私たちですと、玉をつぶす案件です」

「となると、被害者はどうなった」

「今、連邦の兵士たちがこちらに連れてきています。

 私は急ぎ戻り判断を仰ごうかと」

「ああ、助かったよ。

 なら、現場に行こうか」

「副大隊長!」

俺の言葉を聞いたアプリコットさんがすかさず反対の意見を出してきた。

「メーリカさんは現場にいるのだろう」

「はい、他がいたら面倒になりますから、現場で警戒に当たっております」

「なら、急ごう。悪いが陸戦隊に出動の準備をさせておいてくれ」

「どうしても行かれるので」

「ああ、メーリカさんがいるから大丈夫だとは思うが」

「なら、私も行こう」

「私もご一緒いたします」

連邦のお偉いさんになったキャスターさんとマリーさんが俺と一緒に現場に行くという。

 お二人とも、腹心と見える部下たちがそばに控えているかそう悪いことにはならないだろう。

 俺たちがすぐに現場に向かう。

 現場までは車で行けたので、俺でも足手纏いにはならなかった。

 よかったよ。

 で、現場にいるメーリカさんは数人の部下とともに、死体となったGを検分している。

「すごいことになったんだって?」

「あ、隊長。荒事が決定しましたね」

「そりゃ、困ったね。で、何かわかったの」

「これ見てください」

 メーリカさんそう言ってGの襟章を指さす。

 髑髏を意匠に使った不気味な襟章だ。

「あれ……これって……」

「あの村で見つけた襟章と同じですよ」

「え! じゃあ……」

 あとから来たマリーさんたちは連邦の兵士が取り囲んでいる犯人?の方にいたが、俺たちの方にやって来た。

「グラス大尉。すみませんでした。まだ興奮が収まらないようで状況が判別しておりません」

「マリーさん。気になさらないでください。おおよそのことは想像がつきます。それよりもって、これはマリーさんよりも幕僚長」

「どうしましたか?」

「あの、大変聞きにくいことなのですが、古巣についてお聞きいたします」

「古巣? 共和国についてですか」

「はい、この襟章についてわかる範囲で教えてほしいのですが」

 俺はそう言って、躯になったGを指さす。

「え、これは……」

「やはり、御存じのようですね」

「はい、直接は知りませんが国では、あ、いや、共和国では有名な屑です。大統領直轄の兵士ですが、その中でも最悪の連中で『悪魔』の中隊と呼ばれておりましたね」

「ということですと、敵の規模は中隊と考えてよろしいのですか」

「ええ、こいつらはあまりに行状が酷いので他のとはいっしょに作戦行動はしておりません……できないといった方が正確なのですが」

「規模は中隊となると、我々よりも小規模か、それが目的の村にいるとなると……駆除しかないか」

「大尉、ですが、荒くれで手が付けられない連中ですが、それだけに戦闘力にも定評があるという噂です」

「噂?」

「はい、噂です。何せ誰も見たことがないものですから。ですが連中の後を行くと悲惨な状況しかないので……」

「ああ、わかります。私たちもその後始末をしたことがありますからね」

「後始末?」

「ええ、以前村があった場所がそのようでしたね。片付けの最中にこれと同じ襟章を見つけたものですから」

「それは……災難でしたね」

「しかし、そうなると……被害が出るかな。出したくないのだが」

 俺は少し考えながら周りの木の枝をつかんでいた。




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