サクラ大隊という名のグラス大隊、出発

第288話 大隊の編成作業

 とりあえず俺の預かる大隊全員を集めた。

 千名に少し欠けるが一か所に集めると壮観だ。

「一か所に集まると大隊ってすごいな」

「何がすごいのですか」

「何がって、ほら見てごらんよ。こんなに人が大勢いるんだよ。ジャングルに来てからあまり大勢の人を見ていなかったからちょっと感動」

「バカ言っていないで仕事をしてください」

 俺が感動に浸っていたらアプリコットに窘められた。

 言われるまでもない。

 今の俺の仕事は時間つぶし……もとい、彼らの訓練だ。

 もとから俺の下に居る兵士たちを使って新たに集まった彼らの訓練をしていく。

 作りかけの施設もほとんど出来上がるが、それの増設もしていく。

 そうして時間をかけているうちに、俺の頼もしい部下たちが自分たちの部下となる兵士の選別を行っていくという訳だ。

 だからこの場には士官は一人もいない。

 下士官も士官に昇進予定の者はいない。

 どこにいるかというと、あのたまり場……俺の本部事務所を置いているサリーちゃんのお家だ。

 今全員で一生懸命に中隊を作るべく頭を使っていることだろう。

 俺が訓練を見始めてから1週間が過ぎた頃に師団本部からサクラ閣下がやってきた。

 俺のところから要求している部下の昇進辞令を持ってきたのだ。

 普通なら辞令だけ部下に渡して終わる内容でも、正規な昇進ではなく戦地特別昇進という奴で、現場指揮をしている将官のみに与えられた権利の一つである士官への登用がある、その権利の行使のためだ。

 尤も尉官までの昇進しかできないそうだが、それでも下士官を含めて将官の一存で昇進させることのできる制度を使っての昇進だ。

 だからなのだろう。

 将官であるサクラ閣下が副官のマーガレットさんを引き連れてやってきた。

 新兵たちの訓練を近くにいたシバ大尉に任せて俺は士官が集まる所にサクラ閣下を連れて行った。

 俺がシバ大尉に新兵の訓練を頼んだ行為については、後でシノブ少佐から怒られたが、俺には彼らに十分な貸しがある。

 シバ大尉もブツブツと入っていたが、なんだかんだと言いながら協力してくれた。

 シノブ少佐にしても役目上抗議しただけで、後は愚痴のようなことを俺に言っただけで、本心から怒った訳では無さそうだった。

 なんでも部隊の違う士官に部隊を任すことなんかあり得ないとか。

 それを聞いたけど、俺は本当かと疑った。

 だって、今までさんざん俺はシノブ少佐やシバ大尉の部下を使って色々と工事をしていたので、当たり前のように頼んだだけだが、どうも常識ではありえないとか。

 頼むのは許されるが、頼まれることは常識からずれるのでありえないってそんなの有りか……そう言えば社畜時代ではそんなことばかりだった。

 うん、常識だ。

 要は頼まれる方が悪い。

 この場合、頼まれると言っているが実際には押し付けられると普通の人は感じるようだが、思い出してきて悲しくなってきたので、これ以上この件には触れない。

 俺はサクラ閣下と一緒に部下たちの昇進に立ち会った。

 下士官への昇進を含めると50名近くの人に昇進を伝える。

 帝国本土からの辞令ではない。

 一応師団本部で作った書類はあるが、それをもって昇進としてある。

 まあ、これでやっと大隊が出来上がる。

 サクラ閣下たちは辞令を渡すと逃げるようにここから去って行った。

 何も逃げなくとも良いのだろうが、俺から散々嫌味を言われるのが嫌なだけだろう。

 部下の嫌味くらい受け止めろよ。

 あんな命令書を作るくらいならそれくらいは上司の役目だろう。

 ここから立ち去る車に向かって俺は叫んだが、どうせ聞こえても聞こえないふりをされるだけで意味はない。

 サクラ閣下がこちらに来た頃には兵士の割り振りも終えており、これで正式に中隊を編成できる。

 俺はもう一度全員を集めて中隊ごとに兵士を並ばせて、大隊の発足を宣言した。

「え~、君たちには、ここの集まった全員で大隊を形成してもらう。大隊長はあの有名なサクラ閣下だが、あいにくここにはいない。俺が大隊長の代わりをする副大隊長のグラスだ。多分、ひょっとしなくとも君たちは一度も大隊長を大隊長として見ることなく過ごすことになるだろうが、俺が君たちを面倒見ることになるだろうからそのつもりでいてくれ。これからは前に居る中隊長たちが中隊ごとに面倒を見ることになる。当分は中隊ごとに訓練をしていくことになるから、今日で大隊全体での訓練は終わる。後は中隊ごとに分かれて中隊長の判断で解散してくれ。俺からは以上だ」

 俺が全員に向かって挨拶を終えると、それぞれの中隊長が中隊ごとに指示を出している。

 俺も第一中隊を率いることになっているが、俺の中隊は前からいる兵士だけで編成されているので、そろそろ俺のやり方に慣れた連中だ。

 アプリコットが適当に……訂正、適正な命令を出して解散させていた。

 明日から俺は、あの中隊だけを見ていれば当分は大丈夫だそうだ。

 それから2週間は俺にとっていたって平和な時間だった。

 今までと同様に俺の中隊には簡単な訓練を課したり、足りなくなった営舎建設をしたり、集会場や訓練施設の増設などルーチン作業だけをしていればよかった。

 あ、時々おやっさんからの依頼で道路の敷設などもした。

 俺の中隊は今では一人前になったこともあり、訓練以外では何ら不足なく働いていた。

 たまに見学に来るアート大佐からは「帝国のレベルから言えば十分に使えると評価できるがな~。工事での精鋭ぶりから見たら不満が残るな。もう少し重点的に訓練させればどうだ」などと言われるが、忙しいこともあり、そのままとなっている。

 決して俺が訓練を嫌ったわけではない。

 確かに訓練って俺がする訳では無いが、つまらないことは否定しないけど……

 決して工事関係の仕事が面白いからではないぞ。

 俺は俺の仕事をしているからな。

 練度の不足も、全く訓練をさせていない訳では無いからこのまま半年も過ぎれば問題無いだろう。

 何より今が楽しいし、楽だ。

 俺の部下は中隊ばかりでないので、本当にたまに他の中隊も気にはかけている。

 実際戦闘になるときに頼りにできるのは陸戦中隊だけであろう。

 それについていけるとすればメーリカ少尉率いる第三中隊だ。

 実際にこの二つの中隊はジャングル戦の訓練のために以前造った居留地まで移動しては訓練をしている。

 おやっさんのところでトラックに余裕ができると必ず陸戦中隊か第三中隊のいずれかがあそこまで移動して数日間の訓練をしている。

 第二中隊は辛うじて学校を卒業したばかりの准尉を4人回してはあるが、下士官までは配属できておらず、未だにこの付近での訓練に従事している。

 実際に作戦が命じられても補給などの後方任務ができれば御の字くらいだろう。

 それに比べて俺の第一中隊は士官下士官こそかなり抜かれたが、兵士についてはあの増員された700名からは誰も入れずに、今まで中隊に所属していた者たちで構成している。

 尤もその者も実戦には参加しておらず、メリル中尉に任せきりで、訓練ばかりさせていた。

 俺が直接面倒を見るようになってやっと工事には使えるレベルになったと自負している。


 そんなこんなで、今日も居留地と呼んでいる村の隣に作った場所まで訓練に来た。

 たまたまおやっさんのところでトラックが空荷で帰ると聞いたことから、今日は攻撃を想定して陸戦中隊とメーリカさん率いる第三中隊、それに俺の第一中隊を連れてきた。

 合同でジャングル内の移動訓練をするためだ。

 この中で一番心配するのが俺のところの中隊だ。

 何せ訓練はしていたが、実戦の経験が全くない。

 だが俺の心配は空振りで、ジャングル内での移動については何ら心配ないレベルで二つの中隊についていっている。

 「これなら問題ないじゃないか」

 ここで軍隊を整備中のマリーさんが俺の声をかけてきた。

 どうも俺のうわさを聞いたらしい。




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