第246話 秘密の情報とその漏洩

「話し合いですが、この場所でよろしいでしょうか」

「私たちには異存は有りません」

 直ぐにマリーさんが連れて来た町長との話し合いが始まった。

 先ほどマリー隊長との話し合いで取り決めた内容は、俺から説明するだけで、反対や質問などなくそのまま認めてもらえた。

 これなら一々話し合う必要がなかったと、町長との会議を終えようかとしていたら、町長から質問が入った。

「今までの内容は、そこのマリーから聞いていたから、こちらとしても何も言うことは無い。むしろ寛大な処置についてお礼を申し上げたいところだ。しかし、話し合いの最中に全く触れていなかったことについて、改めて質問したい」

 町長が一番気にしていたのは、この町の今後についてだった。

 その件についても、先にマリーさんに俺の立場も含めて質問しておいたのだが、意思の疎通ができていない。

「その件につきましては、外交案件になりますので、私には発言する資格が全くありません。町長が御不安に思われるかもしれませんがお許しください」

「しかし、何もないでは町民を納得させられるものじゃない。確約とはいかないが、あなたの言質を取っておきたかったというのも、私の正直な気持ちだ」

「確かに、お気持ちは分かります。私が上から命じられているのは、あなたのお気持ちをきちんと受け止めてもらえる資格を有する外交官との話し合う場を設けることだけなのです。私からお約束できるのは、直ぐにでも基地に戻り、その外交官を連れてくることだけなのです」

「そこを何とかならないかな。あなたのお立場はよく理解できました。が、あえてすがる気持ちで再度お願い申し上げたい」

 アプリコットは会議の雰囲気が変わった事に心配そうにこちらを見ている。

 メーリカさんは、『うまくまとめてね。』といった感じも気持ちを込めた目を向けてくる。

 やれやれ、どうしたものかな。

「私は徹夜明けで疲れておりますので、失言があっても見逃してほしいのですが」

 俺がここまで言うと、周りは何を言い出すのかという目を向けてきた。

 町長の息子さんに至っては、こちらを無視する気か、ごまかされないぞといった感情をこめて怒りの目を向けてきた。

 しかし、流石は年の功なのか、町長だけは私の意図を察したようだ。

 済まなそうに頭を下げてきた。

「アプリコット少尉。確か殿下のお気持ちとしては、この辺りの現地勢力との友好的な外交関係を結びたかったんだよな」

 アプリコットは非常に驚いた顔を俺に向けてきた。

 そんなことを言い出してもいいのかと言わんばかりだ。

 アプリコットが何かを言い出す前に、俺は続けた。

「アンリ外交官はその交渉をするために連れてこないといけないな。もし、現地に十分な勢力が無ければ帝国が協力して国を作ってもらうようなことまで言っていたし、そこの町長さんが首班にでもなって国を作ってもらえればこちらとしても都合がよさそうだな。帰ったらアンリさんに伝えておこう」

 そこまで話すと町長は俺の言葉を遮った。

「隊長さん。もうそこまででいいです。あなたのお気持ちも、帝国の思惑も良く分かりました。私としてもあなた方に救われたご恩もありますし、今後もあなたたちとは良い関係を続けていきたいとも思っております。外交官の方によろしくお伝えください。ご訪問をお待ちしております」

 良かった。

 俺の思惑を正確に受け取ってもらえたようだ。

 アプリコットは終始心配そうにこちらを見ている。

 少しフォローをしておこう。

「あれ、俺って失言したか」

「隊長。こんなことを他の人に聞かせて大丈夫ですか。秘密情報漏洩なんかで捕まりませんか」

「俺って、秘密なんか洩らしたか。それに、俺は現地勢力に対しては、アンリさんとの外交の場を設けることしか話し合っていないぞ。あ、捕虜の扱いについても話したか。でも、それって、軍事だろう。問題無いよな」

「は~~~~」

 アプリコットは、悟ったかのように大きなため息を漏らした。

「私たちは、何も聞いていないし、そもそも何もありませんでした」

 メーリカさんはアプリコットの話に頷いているだけだ。

 こちらは片付いたが、町長さんの息子さんだけが取り残されたようだ。

 まだこちらを睨んでいる。

 その息子さんを、町長さんが叱るように説明していた。

「隊長さん。そちらの話し合いは終わりましたか。何を言っているのかよくわかりませんが、私からの話はこれ以上ありません」

 町長さんが、気を利かして、先に漏らした情報は聞いていないことにしてくれた。

 しかし、まだ息子さんは理解していないようだ。

 これは経験がいる腹芸だし、まだ若い息子さんには無理だったかもしれない。

「そうですか。私どもは準備ができ次第、一度基地に戻ります。話し合いで決まった敵の捕虜も連れて行くつもりですが、戦車や自走砲などの重火器までは移動速度が遅くなるので、こちらに一部隊を残して、管理させたいと思っております。蔵にある敵の火器についてもこちらに残しますが、管理は残る部隊に任せます。それでよろしいでしょうか」

「こちらに異存はありません」

「町長。グラス中尉が移動する際に、私も付いて行ってよろしいでしょうか。一度帝国の基地を見てみたいと思っております」

 マリーさんの発言に一同が驚いている。

 しかし、ある意味妙案かもしれない。

 サリーちゃんやポロンさんの件もあるし、マリーさんが来てくれるのなら話が早い。

「それは良いですね。こちらからも少数で良いので、マリーさんの部下をお借りしたいのですが。なにせ沢山の捕虜を移動させませんといけないので、護衛が増える分には歓迎です」

「父さん。俺もマリーと一緒に行くぞ。マリーが一緒なら安心だしな」

 空気が読めない息子さんが言い出した。

 俺としては大人しくしてもらえるのなら別に構わないし、何より外を知らない経験の浅い息子さんには色々と経験を積んでもらうことは、帝国にとっても良い事だろうと思ってもいる。

「隊長さん、息子も頼めますかな」

「移動中、私の指示に従って頂けるのならという条件は付きますが」

 途端にいやそうな顔をしだした息子さんをマリーさんがたしなめた。

「移動中は私の管理下に置きます。それでお許しください」

「分かりました。準備ができ次第移動を開始しますので、準備をお急ぎください。1週間くらいで、戻ってくるつもりです」

 現地勢力との1stコンタクトは大成功だと言いたい。

 こちらの町長とも、意思の疎通もでき、かつ、キャスター少佐の部下も救えた。

 後は移動だけだ。

 幸い、かなりの台数のトラックはある。

 尤もほとんどが敵さんのだが、まずは問題ないだろう。

 俺のここでの仕事の残りは、キャスター少佐の部下を完全に管理下に置くことだけだ。

 キャスター少佐もかなり協力的なので問題は無さそうだ。

 一応捕虜になることについて、キャスター少佐から聞いてもらい、不満の残る連中についてはこちらの町長さんに身柄を預ける。

 これはほとんど脅しだな。

 こちらに残れば生き残れる保証がない。

 2択のようだが、生死のかかる選択なので答えは一択だけだ。

 まあ、俺から聞く訳じゃないので俺が直接連中から恨まれる事は無いだろう。

 恨まれないよな、ちょっと心配だ。

 キャスター少佐、お任せしますので、うまくまとめてください。

 俺はアプリコットと一緒にキャスター少佐を連れて、彼女の部下が駐屯しているという河原に向かった。

 メーリカさんには、山猫さんたちを使って、ここに有るトラックを河原に移動させるように頼んだし、ローラ少尉の部下を捕まえたので、彼女に後方に残したうちのトラック隊をこちらに呼んで来てもらった。

 とにかく現在あるトラック全てを使って移動を開始したい。

 食料を除く物資はとりあえずおいていけるので、例の機甲部隊が乗ってきたトラックも使える。

 中に積んである弾薬類はここに全て降ろしてだが。

 後は居残り組について命令を出すだけだ。

 町長の配慮から、この屋敷は引き続き俺らが使用できることになった。

 日中は、ここに町長をはじめ町の主だったものも詰めてくれるそうだ。

 この一両日で町の人たちともかなり協力関係は結べたのは僥倖だった。

 少なくとも居残り組の安全だけは確保できそうだ。

 なにせ戦車をはじめ重火器も残すのだし、共和国が攻めてきてもしばらくは時間が稼げる。

 とにかく、帰ってからサクラ閣下に怒られないようにきちんと命令だけは伝え、必要な事務処理を急ぎ済ませおくことだけは忘れていない。







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