第227話 引っ越し命令
基地を作り始めて2週間もすればとりあえずそれなりの物はできた。
昨日にはサカイ連隊からローラ少尉率いる1個小隊もここにやってきた。
彼女たちは要求していた重機関銃3丁を持ってきている。
今日は朝からその重機関銃をこの基地にセットをしている。
来週には師団本部にいるアート連隊からもう一個小隊派遣されてくることが決まっていた。
ここに居る俺らの中隊(約半分だが)はまだ足りない営舎造りをしている。
俺とローリー軍曹は相変わらずお気に入りのパワーショベルを使って、今では敷地内の切り株の処理を延々と行っている。
なにせ、突貫工事のため、敷地内の木は切り倒しているが、建屋周辺のみしか整地が済んでいない。
そのため車両すら基地に入れることができていないのだ。
当分は整地作業が続く。
しかし、基地の機能としては飲料用のタンクも、燃料用のタンクも無事設置が終わり、昨日には発電機の設置も済んで、一昨日からここに詰めているシバ中尉のチームが朝から発電機の試運転中だ。
午後にはおやっさんもここで使っているパワーショベルを視察に来るそうだと聞いている。
あのおやっさんの事だから絶対に気に入るはずだ。
そうなると当面の注意事項としておやっさんに取られないようにしないといけない。
なにせこいつの所有権は非常にあいまいだ。
正統なる所有権は多分敵さんにあるだろう。
敵さんの輸送中にうちの海軍さんが分捕ったのだから。
しかし、分捕った多分輸送船から見つけたのは俺だし、海軍さんの云うところではこういった新兵器に関するものは帝都の技術部あたりに持っていかれるのが慣例だとか。
となると帝都の技術部にも所有権を主張される恐れもある。
少なくとも俺が飽きるまではここから取られないように、運用試験とでも言って時間を稼ぐことにする。
海軍から来ている軍曹も楽しい物だから、いまだに報告書を基地に上げていないようだ。
しかし大丈夫なのかな。
俺が言うのも変だが少しばかり心配だ。
いつものように二人で交代しながらパワーショベルを使っていると、アプリコットが広場の方からやってきた。
後ろにサクラ閣下の秘書官のレッドベリー大尉を連れているのが非常に気になる。
こういった場合俺の悪い予感はまず100%外れない。
「中尉、司令部から秘書官がお見えです。こちらにいらしてください」
言下に遊んでいないで、きちんと仕事をしろと言わんばかりのニュアンスを含んでいたと感じたのは俺だけだろうか。
俺はパワーショベルの運転をローリー軍曹に代わって、急いでレッドベリー大尉の元に向かった。
基地中央付近に作った事務棟の前でアプリコットたちと落ち合い、そのまま事務棟の中に入っていった。
中ではまだ引っ越してきたばかりのローラ少尉たちの部隊数人が片づけをしていたが、俺は構わずテーブルの前に秘書官を案内した。
地図などを広げるための大き目なテーブルに近くにあった椅子を持ってきて座り、秘書官の話を聞くことにした。
秘書官は持ってきたアタッシュケースから一通の命令書を取り出しその場で読み上げた。
読み上げられたのだから当然近くにいた者は全員その命令内容を聞くことができたが、その内容を聞いてもほとんど反応を示さずに全員が仕事をつづけた。
唯一反応を示したのは案内してきたアプリコットだけだ。
彼女は優秀だけれど、いかんせん経験が足りない。
意にそぐわない命令を聞いても顔に出さないくらいの芸当は早急に身に付けないといけない。
その指導位なら俺でもできるし、俺がやらないといけないことだ。
「中尉、君たちくらいだよ、これだけ頻繁に所在地を変えるのは」
「好きで変えているわけじゃありません、大尉。なぜだか知りませんが基地を作るたびに作った基地に追いやられるのですからね。まあ、司令部から好かれていないことくらいは理解しておりますが」
「おいおい。司令部は君に他意はないはずだぞ。少なくとも私は君の事を尊敬しているしな」
「そうですね、私の評価は不思議なことに海軍さんにはなぜか高いのですよ。その代わり私が所属する陸軍では芳しくありません。うちの司令部では最低の様です。なにせサクラ閣下やレイラ大佐は私の事をよくゴミムシでも見る目で睨みつけておりますからね」
「ゴミムシはないでしょう。確かに作るたびに引っ越しの命令を出されているようですが、それだけ期待されているようですね。実績も充分に上げておりますから、今回も期待しておりますよ。閣下からも十分に周りの意見を聞いて活躍してほしいと伝言を預かっております」
周りの意見を聞いてだと、要は一人で突っ走るなと言う事か。
それならメーリカさんとよく相談しながら行動するか。
でも、これっていつもと変りないような。
「判りました。一つお聞きしたいのですが、あなた方司令部の方が居留地と呼んでいた我々の基地の件ですが、半数があそこに残る予定なのですが、全員を引き上げないといけませんか」
「その件は聞いておりません。帰り次第確認しますが、あそこは軍を離れ外交執行部の預かりとなるとか。アンリさんが責任者となると聞いております。アンリさんから何か聞いておりませんか」
「イエ、何も聞いておりません。今度戻った時にでも聞いてみます」
秘書官との話も簡単に終わり、我々だけここに残っていた。
話をどこで聞いたのかメーリカさんがやってきて俺に話してきた。
「隊長、また引っ越しだって。本当になかなか尻が落ち着かないね」
「そのようだな。しょうがないよ。泣く子とお偉いさんには逆らえないからね」
「そりゃそうだ。でも、初めからそのつもりだったのだろう」
「確かにそうだ。さしずめ今いるところは別荘と言った感じかな。アンリさん預かりだと聞いたので、アンリさんに頼んでみるよ。でないとこの狭いところで窮屈になってしまうからね」
「慣れないのをここに呼んでも仕事にならないからね。その方がいいかも。まあなるようしかならないかな」
諦めと言うか、なんというか、いつまでたってもなかなかきちんと扱って貰えない連中ばかりなので、今回の話も割とすんなり受け止めているようだ。
唯一心配とするなら、エリート教育されてきたうちの新米士官たちがふて腐れなければいいのだが。
午後からのおやっさんのアテンドを頑張るぞと、心を切り替えみんなで昼食をとった。
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