第202話 やっと始まる会議
殿下のお知恵には本当に驚いた。
殿下は正しく英邁な方だ。
殿下の示された方法なら不満は残るだろうが帝都が再び荒れることはないだろう。
ヤレヤレだ。
と心の中でつぶやいてサクラは身の回りを片付けて席を立とうとしていた。
寸でのところで隣に座っているレイラに腕を捕まれ体を椅子に戻された。
「どこに行くつもりだ」
サクラはハッとして周りを見渡した。
そうだ、殿下がご臨席の会議だった。
殿下の退場するまでの退出など失礼極まりないな。
「ありがと、助かったよ、レイラ。殿下の退出前だったな」
「は? ブル、何を考えている。会議は始まってもいないうちから敵前逃亡を決め込むつもりだったわけじゃないよな」
「何??始まっていない。だ、だってあいつの処遇は一応の結論が出たはずでは……」
「は~~~~、ブル、今日の議題を理解しているか?」
流石に隣に控えていた副官のマーガレットがサクラに今日の会議の式次第を見せ簡単に説明した。
「飛行機の中でも説明しましたが、今日は皇太子府の作戦方針の見直し及び、計画の再検討となっております。私も非常に残念には感じておりましたが、グラス中尉の処遇についての検討項目はありませんでした。会議前の雑談だったのでしょう」
サクラの後ろに控えていた秘書官のクリリンもサクラに対してさらに補足説明をしてくれた。
「先の騒動の影響は敵味方を問わずかなりのインパクトを持って影響を与えました。敵の出方が今後変わるかはまだ不明ですが、帝国においては作戦大綱の見直しまで検討されたようです。今のところ、作戦大綱の見直しまでの必要はないとの統合作戦本部の見解が昨日まとまりましたし、この件については殿下も同意見であるとの発表も同時になされました。しかし、大綱の見直しはなくとも皇太子府のかねてからの計画には再検討の必要が生じているのも事実です。そこで本日の会議の開催となったと事務局側から伺っております」
何、大綱の見直しだと。
そんな大事になっていたのか。
なればあいつの責任を問う声が上がっても不思議はないな。
以前の私なら射殺すらしたくなっただろう。
私も大人になったものだな、渋々ながら彼の弁護をする発言までして……それにしても粛々と法令と慣例に基づく扱いだと……サクラはシクシクと痛む胃の辺りを押さえながら考えてしまった。
「ブル、お前がいないと始まらないから、さすがにこの会議はブルを逃すわけにはいかないぞ」
レイラがまだサクラの腕を掴んで話さいない。
「色々と失念していただけだ。逃げるつもりはないから安心してくれ」
その後はおとなしく式次第に沿って会議がそれこそ粛々と進んでいった。
サクラたちについては今までとほとんど変わらずにジャングル内での勢力の拡大と現地勢力との協力関係の構築だった。
この会議の中で驚いたことにゴンドワナ大陸の将来展望まで話し合われた。
殿下のお気持ちは、帝国が戦争で勝ってもゴンドワナ大陸を占領すべきでないということを聞かされた。
帝国が占領するには大きすぎるので、かえって帝国に混乱をもたらすというのだ。
かと言って共和国に渡すわけにも行かない。
殿下のお考えの中で基本となっているのが、ゴンドワナ大陸に親帝国の新たな国を建国する計画があることをこの席で初めて聞いた。
サクラたちが受けている現地勢力との友好関係の構築にはそういう意味があることを初めて知らされた。
もっとも、このお考えは皇太子府内だけでの話で宮殿にも知る人はいないとのことで、今日話されたことは極秘扱いとされた。
そのお考えもあったためだろうが、サクラたちが今も抱えている問題の亡命希望者の扱いについてだが、今現在の状況では帝国には到底受け入れられないとの結論だった。
殿下からは同時に彼女たちの共和国への返還もするつもりはないことも聞いた。
幸い亡命関係についてはまだ帝都内ではあまり知られていないので、殿下が一つの決断を示した。
彼女たちは現地勢力の保護した人達とほぼ同様に扱うというのだ。
要はグラス中隊が抱えているサリーと同様に必要があれば支援をするし、また、軍属としてサクラたちが雇用しても問題ないというものだった。
「では殿下、あの者たちは、このままジャングル内で保護せよというのですね」
「レイラ大佐、正しくその通りだ。また、軍令にもあるように現地勢力の者の雇用も妨げるつもりもない。あの者たちの雇用は、今のところサクラ師団内だけにしてもらいたいが、ローカルと同様に扱って欲しい」
「了解しました。幸い、現在ジャングル内の奥地に居留地を建設中だと聞いております。当分はそこでの支援をしていきます」
「ほ~~、もう既に居留地を準備しているのか。相変わらず仕事が早いな。そのままどんどん仕事を進めて欲しい。期待しているぞサクラ少将」
会議の最後に殿下のありがたいお言葉をいただいた。
それにしても長い会議だった。
会議を始めた時間が遅かったこともあったのだが、会議が終わる頃には夜が白みかけていた。
「今日も徹夜だったな」
「殿下ですら徹夜しておりましたしね。戦争が終わらない限り私たち軍人にはゆっくりとした時間などないのかもしれませんね」
「まさにその通りだな。私は何日徹夜したって構わないが、1日だけでいい、あいつの話の出ない日が欲しい」
「私には閣下のおっしゃる意味がよくわかりませんが。それでこのあとのご予定ですが、どうしますか。帝都で休まれてからお戻りになりますか。海軍情報部の分析では、まだ当分敵のほうからの攻撃はなさそうということでしたから、連絡が付くところなら数日帝都で過ごせますが」
「やめてくれ、我々の監視のないところであいつを1日だって放置したくない。すぐに帰るぞ。レイラはどうする」
「私はしばらく帝都だ。犯罪者どもの尋問に立ち会わなくてはならないからな」
「わかった、せめてレイラだけでも帝都でゆっくりとできればいいのだが」
「ワハハハハ、それができればありがたいがね。睡眠時間だけでも確保できるようにはしておくよ。できるだけ早く帰るから、ブルも頑張ってくれ」
ふたりの会話を聞いていたマーガレットやクリリンはややがっかりといった表情は見せたが、何ら不満はない。
彼女たちも優秀で忠誠心の溢れた立派な帝国軍人だ。
自分の使命については理解している。
すぐに帰還の手配を始めた。
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