第197話  日常

 翌日の昼過ぎになって、セリーヌさんが保護している18名を連れて俺のところまでやってきた。

「おはようございます」

「おはようって時間じゃないか、こんにちわ、セリーヌさん」

「こんにちは、中尉とお会いするのはなんだか久しぶりですね」

「そうですね、本当にいつ以来だろう。あ、ポロンさんを預けた時にもお会いしているのでそんなに時間は経っていませんよ」

「あら、そうでしたっけ。私の勘違いですね。あ~それでですね、早速お仕事の件ですが、お預かりしていたポロンさんはすっかり元気になっておりますのでジャングルに連れて行っても大丈夫ですよ。それと昨日診察しました女性たちですが、目立った外傷はないのはご存知でしたよね。診察した結果もこれといって別状はありませんでした。ただ……」

「ただ、何ですか」

「怖いのは、妊娠なんですよ。なんでもね~、あれをされた訳だからね~」

「とりあえず出来ることはできるだけ早く妊娠の兆候を捕まえてからの……」

「あ~アレですね。こればかりは本人の同意を取らないといけませんから何とも言えませんがね。とにかく兆候がありましたらすぐに本人に確認をとります。で、この件は彼女たちには」

「え~、伝えております。彼女たちはこちらの判断に任せると言っておりましたよ」

「こちらの判断?あ~現状の身分の件もありますからね。産みたくともこちらが認めないと産めないというやつですか。しかし、強姦されて出来た子供でも産みたいという女性はいるのですか」

「こればかりはね~。 本来女性が持つ本能のようなものですからね、お腹の中の子供を守りたいという気持ちはね。きっかけがどうあれ、当然嫌だという人もいますが、そうでない方もいますね、帝国では。共和国においての常識はわかりませんがどうでしょうかね」

「アンリさん。ちょっといいですか」

 俺はちょうど通りかかったアンリ外交官を呼び止めた。

 その上で、今の話をして判断を仰いだ。

 アンリ外交官は顔を赤らめながらも、しばらく考えてから、人道的配慮から産みたい女性に限りそのまま出産を認めるという判断を出した。

 その時の様子を見ていて、正直気の毒に思ってしまった。

 まだ結婚もしていないうら若き女性に強姦されての妊娠についての判断を仰ぐのにはためらいもあったがこればかりはしょうがない。

 下手をすると、いやアンリさんは貴族の出だからそうそうみだらな行為はしていないだろうから、そういった経験すらない女性に対してあまりに生々しいことを判断させるなんてとは思ったし気の毒にも思ったが、これは仕事と割り切ってもらうしかない。

 とにかく結論が出たので、セリーヌさんから彼女たちにその旨だけは伝えてもらった。

 俺が伝えるとどうしてもセクハラになってしまう。

 セリーヌさんはここには定期的に通ってくれることになり、その場を離れた。

 俺は保護中の18名を集めてこれからのことについて話した。

 現状は明日にも住めそうな営舎が2つばかりあるので、そのうちのひとつの内装を手伝ってもらった。

 ここが使えるようになったら彼女たちはここに住んでもらうことも話してある。

 なので内装工事については彼女たちの希望も聞いて手伝うが、基本彼女たち自身に工事をしてもらう。

 その話を聞いた彼女たちはとても喜んでいた。

 ここまですれば後は現場に任せ、俺は趣味になりつつある開墾作業にいけたら良かったのだけど、ここでアプリコットとアンリさんの二人に足止めを食らった。

 これからのことについて色々と相談があるとかで俺はそのまま近くの連隊基地まで連れて行かれた。

 連隊基地では、すぐに連隊長の部屋まで連れて行かれ連隊長室で連隊長を交えて相談していった。

 時折部屋にある電話を使って師団本部や皇太子府に直接連絡を取りながら話を進めていった。

 保護した女性たちについては前に話した方針で全く問題はなく、話し合われたのは主に補給等についてだけであった。

 しかし、そうもいかない連中も存在した。

 俺が捕まえた犯罪者どもだ。

 奴らはここからすぐに帝都まで連れて行かれた。

 ここまでは問題なくスムーズに行くのだが、帝都に着いてからが大変のようだ。

 とにかく大物が多数いるので、各セクションで手柄の取り合いなどでかなり帝都で揉めているようである。

 サクラ閣下やレイラ大佐は、この状況を嫌ってあらかじめ身柄を皇太子府に運んでいたのだが、皇太子殿下でもこの状況を抑えることができていない。

 彼らの存在がもはや政治問題化しつつある。

 正直この話を聞いて俺は呆れたね。

 手柄といっても、どこに帝都にいる人に手柄があるのだか俺にはわからない。

 犯罪発生現場も捕縛したのもゴンドワナ大陸であって帝国内ではない。

 それに帝都には今回の逮捕劇に参加した人間など一人もいないのにも関わらず手柄がどうだと言っている時点で俺にはわからない。

 しかも最悪なのが殿下自ら俺に対して今回の件について愚痴りだしたのには正直まいった。

 ま~最後に殿下も自身の行為を恥じたのか女性の保護について俺ら全員を褒めてくださったことには正直嬉しかった。

 訳のわからない貴族連中とは違って殿下は英邁な気質のようだ。

 俺の上役がサクラ閣下も含め全員がまともな人たちであることは正直ありがたかった。

 この世界に来る前に比べたら戦争中を割り引いても今の方がかなり恵まれているとも思えるようになってきている。

 時々ブラックな仕事を回されるけどもね。

 俺らは補給などの問題も片付き、居留地造りという日常生活に入っていった。






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