第157話 ひよっこたちの処遇

 早速中隊の首脳陣で緊急会議を開いた。

 参加者は俺の他にはメリル少尉とアプリコットとジーナそれに彼女の同期の准尉、メーリカさんに彼女の部下だった軍曹のスティアさんとドミニクさん、ケート少尉も参加してもらった。

 全員を司令部建家内にある会議室に集めた。

 全員が集まったところでサクラ閣下からの命令を伝えた。

  『直ぐにジャングルに行って警戒せよ』

 集まった全員の総意は一言で

  『無理』

 だった。

 これで会議は終了………できれば世の中にブラックな職場は生まれない。

 命令が出された以上実行しなければならない。

 俺は命令を受けた時にサクラ閣下に対して抗弁した時の様子を伝え、一部でもいいからジャングルに出動させなければならないことを再度伝え方策をねった。

 最大にして唯一の問題の4つの分隊200名は連れていけないので、ジャングル内に入るには消去法で中隊本部メンバーとケート小隊だけとなる。

 しかしケート小隊は実力的には問題はなさそうだが、ここのジャングルには慣れていないので、分隊内に分けている旧山猫の皆さんのうち一部にも同行してもらうしかない。

 そうなると新兵たち200名の訓練がとてもじゃないが厳しくなってしまう。

 今200名のひよっこたちの面倒を見てもらっているメリル少尉が勘弁してくれと悲鳴をあげてその案を阻止しようと躍起になっている。

 しかし、ジャングル内に入って行くにはこの案以外には人のやりくりはできない。

 そもそも無理な案件なのだ。

 ダダをこねるメリル少尉に俺は言った。

「そもそも無理なことは司令部の連中も理解しているのだから、もっと柔軟に考えよう」

「どんなに考えても彼女たちを持って行かれたら訓練どころじゃなくなりますよ」

「そこだよ。柔軟に考えるところは」

「中尉、どういうことなのでしょうか」と俺らのやりとりを聞いていたケート少尉が尋ねてきた。

「そもそも、無理なことを言ってきているのだから、俺らからも多少の無理なら通せるはずだよ。でないとジャングルには入れないしね。それとも200名をジャングル内で迷子にでもさせるのかって言えば多少の無理は通るしね」

「中尉の言われる無理とはなんですか」

「だから、いま最大の問題はあのひよっこたちの練度でしょ。訓練すらまともにできそうにないしね。ならばこの基地に残る人たちにもあのひよっこたちの訓練の手伝いをしてもらおうよ」

「「「「は~~~~~?」」」」

 全員が俺の言っていることが理解できないのか、驚いたような顔をして声をあげた。


「この基地に残って訓練をしている部隊はたくさんあるし、これからもひよっこと同じような練度の兵士がここに送られてくるようだし、この基地上げての兵士の練度向上に取り組まなければならない状況だよね。だから、その訓練にあのひよっこたちも一緒に混ぜてもらえるようにお願いをしよう。アザミ大隊のアート中佐やバラ大隊のサカイ中佐には貸しもあるしこっちから協力を頼めば引き受けてもらえそうだし、それにこの基地には新兵訓練のスペシャリストの鬼のドックことドック・ヤールセン少佐もいるから少佐たちにお願いを出しておこう。これならばメリル少尉だけでも大丈夫だよね。もっとも山猫さんたちは半分を残しておくから安心してね」

「中尉の言われるように皆さんの協力が得られるのならば私としても納得しないわけには行かないですが、本当に大丈夫なのでしょうか。他の部隊に教育を手伝わせるなんて聞いたことがありません」

「だから柔軟に考えるのだよ。だってこの基地は軍令部の監督下からも離れたんでしょ。だから今までの慣例に無理に従う必要はないよね」

「中尉は今までだって慣例に従っていませんでしたけれどもね」

 おっと、アプリコットが最近いいところで毒舌のツッコミを入れてくるようになってきたぞ。

「大丈夫だよ。俺の方からお願いを出しておくから。で、ひよっこたちだけれど分隊に分けて分隊単位で訓練してもらい、ジャングル内で発生する作業にも参加させていくつもりだから、早急に分隊の組み分けは済ませよう」と言って、今までのひよっこたちの訓練の様子から分隊分けを行ってリストを作った。

 出来上がったリストを持って司令部に報告がてら訓練についての内諾をもらった。

 師団長であるサクラ閣下からの言質をとってから俺は訓練中のアート少佐やサカイ少佐を訪ねて訓練に混ぜてもらえるようにお願いをした。

 両少佐ともに快諾を頂き、訓練の計画に入る段階でメリル少尉と相談がしたいとも言われた。

 ここまで行けば彼女たちだけでも問題なく訓練の計画は立てられるので、任せることにして、俺はドック少佐に会いに司令部に向かった。

 司令部でドック少佐を捕まえそのまま空いている会議室にこもり、ひよっこたちについて相談を始めた。

 俺のところに最初に回されてきた新兵は全員がドック少佐に鍛えられていたので、俺らでもどうにかなったが、正直今のひよっこたちと同じレベルの新兵たちだったらと思うとぞっとする。

 しかし今後この基地に回されてくる兵士は大方このレベルと考えておいたほうが良いだろう。

 どこの部隊でも優秀な者は出したがらない。

 上からの命令は人数だけであって質は問われてはいないのだから、この基地で部隊の指揮を執る者にとって、俺のような目に遭うことは時間の問題なのだ。

 そのことをドック少佐に説明したら、ドック少佐が固まった。

 俺らに回されてきた新兵の質の悪さと言うより訓練不足による質の悪さは十分に理解していたのだ。

 このままこのレベルの兵士が大量に回されてくるとこの基地が立ちいかなくなることは容易に想像ができるのだ。

 頭を抱えているドック少佐に俺は部隊の壁を取り払って合同で訓練できる仕組みについてのアイデアを伝え検討してもらうことにした。

 ドック少佐は色々と考えるところがあるようでブツブツと独り言を言いながら考えをまとめている様子だ。

 ドック少佐は俺と別れたあと直ぐにサクラ閣下のもとに行って、基地の兵士の再教育案について司令部全体で取り組むようにしたようだった。

 ここまで行けばあのひよっこたちについては俺にやることはなくなる。 

 俺は、本来の命令に沿ってジャングル捜索について検討を始めた。

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