第155話 ご立腹のアンリさん
翌日からの俺らは大忙しだ。
まず、昨日に引き続き全員を集め集会をした後、ケート少尉に営舎の建築の続きをしてもらうために、シバ中尉に頼んで工兵たちと一緒に彼女の小隊を引き連れて現場に向かってもらった。
この場に残っているのが我が中隊の問題児たちだ。
まずメーリカさんに全員を鍛えてもらうために整列から訓練を始めてもらった。
とにかくまともに並べないのは軍人としてというよりも集団生活する仲間としてまずい。
連中の動きが緩慢なのが山猫さんたちには気に入らないのだろう。
ダラダラしている様子を見ていては流石に俺でも頭にくるものがある。
だから言わんこっちゃない、直ぐにあちこちから准尉や山猫さんたちの罵声が飛び交うことになった。
この場には俺のやることはなさそうなので、もうひとつの現場である営舎の建設現場に一人で向かった。
元の詰所の前を歩いていると、その建家の中から軍属たちがよく着ている作業着を来た美人が俺の方に向かってきた。
「中尉さん、あんまりではないですかね~~」
「は??」
俺に声をかけてきたのは一緒に帝都からやってきた2等外交官のアンリ・ゴットさんであった。
「確かに、私がここに着いてからは着任の報告やら、今後の方針の確認やらで忙しくて中尉さんとご一緒できませんでしたが、だからと言って全く相手をしていただけないのはいかがなものでしょうかね~。私は、あなたの中隊と一緒に行動するように皇太子府からも命令を出されている身なのですよ。少しは私の立場にも気を使って頂きたいものです」
確かに帝都ではそんなことを聞いた気がするし、その後はこの基地に到着するまでアンリさんとはずっと一緒だった。
しかし、この基地についたすぐ後から基地の抱える問題を押し付けられそれどころじゃなかったので、言い訳ではないが正直アンリさんのことを忘れていた。
アンリさんはそれほど怒った様子は見せていなかったのだが、皮肉はきつかった。
ここは謝るの一手しかない。
「アンリ2等外交官殿。申し訳ありませんでした。見ての通りこの基地には問題が山積しており、私が基地に到着すると直ぐに問題をいくつか押し付けられ、ただでさえ無能な私には手に余る状況でしたので、正直アンリ外交官殿をお世話することが叶いませんでした。お詫びいたします」と素直にお詫びをしたのだが、話していくうちにアンリさんの顔色が変わってきた。
なんだかだんだん怒ってきているようなのだ。
俺のお詫びの仕方が上流階級には失礼に当たるのだろうか、などと意味のないことを考えていると、更に機嫌を悪くしたのか、きつい語調で言ってきた。
「中尉、それとも男爵とお呼びしましょうか」
「イエ、中尉とお呼びください。で、なにか私の対応に失礼がありましたでしょうか。あいにくにわか貴族で軍人としても最低の評価しか貰わない野良で素人軍人とすら揶揄されるノラシロの中尉なので、上流階級に属するあなた方に対しての礼儀がなっていないことは理解しておりますので、そのあたりは何卒ご勘弁を頂きたく……」
「また~、私は帝都でお願いをしましたよね。中尉も自分にできることはしてくださるとしっかりお約束していただいたのに」
「は?」
「あ~~~、忘れていますね。私のことはアンリと呼んでくださいと。それに私との会話では敬語は使わないで、部下の方たちと同じ口調で、とお願いをしましたよね。中尉は忘れていたようですけれども」
「あ、はい。確かにお約束しましたね。あ~そうでした。確かに今の私はお約束通りの対応ではなかったようですね。すみませんでした」
「忘れていたことはお許ししますわ。でも次からはみんな、特にアプリコットとは同じように扱ってくださいね。もう一度お願いします」
「わかりましたアンリさん…ってこんな感じでいいんですよね」
「はい」
「で、話が大きく脱線したようでしたが、アンリさんは私になんの用があるのですか」
「む~~~~~。中尉は本当に帝都での私との会話を覚えていらっしゃらないようですわね。私は中尉の部下のように中隊にご一緒させて頂くことになっておりますわ。今まで私の方も忙しく、ご一緒できなかったことはお詫びしますが」
そのまま忙しくして下さればいいのに……
「なんですか、今なにか不穏なことをお考えでは……」と言ってジト目で睨んできた。
なんで無用に勘がいいんだ。
「いえ、何もありませんが……そうすると今のお話からすると、これからは中隊と一緒に行動されるということですか」
「はい、プロの軍人さんのようには体は動きませんが、できる限りのことは一緒にしていきたいのでご指導ください」
「はい、わかりました」
「で、中尉はこれからどちらに……そういえば中隊の皆さんはどちらにおられますか」
俺はアンリさんからの質問に答えながら今置かれている中隊の現状に関して説明を始めた。
長くなりそうなので、営舎の建設現場に向かって歩きながら話した。
俺の説明を聞きながら俺の置かれている状況に同情したのか、サクラ閣下に抗議しに行きましょうと言われた時には流石に俺は止めたよ。
で、しょうがなくこの基地の置かれている状況まで説明した時には彼女は深く考えながら、後日私信で皇太子殿下に窮状をお伝えいたしますと言い出した。
私信まではどうしようもなく、また、こんな状況は今更なので皇太子府でもある程度は理解していることだから俺は彼女の自由にさせた。
そうこう話しているうちに建設現場についた。
「中尉、ここで何をするのですか」
「アンリさん。今ここでは私の中隊の連中が生活する営舎を中隊の隊員自ら作っております。もっとも、今ここで働いているのは元私の部下だった者たちがほとんどで、新たに加わった海軍の陸戦隊の皆さんにも手伝ってもらっている、と言う方が正確ですが」
「軍人さんは家まで作るのですか」とアンリさんは非常に驚いた様子だった。
俺は作業を監督しているケート少尉をここに呼んだ。
「アンリさん。後で中隊の全員に紹介しますが、先にここで作業を監督している部下を紹介します。海軍の精鋭である第一陸戦大隊出身のケート少尉です。ケート少尉、こちらはこれから我が中隊と行動を共にする2等外交官のアンリさんだ」
ケート少尉は驚いた顔をしたが直ぐに敬礼姿勢をとり、自己紹介を始めた。
「は、失礼しました。私は中尉のおっしゃられたように陸戦隊出身のケートです。階級は少尉で、この中隊では同じく陸戦隊出身のものを集めて1個小隊を形成しており、私がその隊長を拝命しております」
「あ~、はい。私は現在皇太子府に所属しております2等外交官のアンリです。殿下の命令によりジャングル内で現地勢力とのファーストコンタクトの任務を帯びて中尉の率いる中隊に同道することになりました。中尉には他の部下の方と同じように扱ってくださるとのお約束も頂きましたので、これからはケート少尉ともご一緒ですね。よろしくお願いします」
両者の紹介も終えて、後は若いものに任せて……じゃないが、女性同士で仲良くしてもらえるように、ケート少尉にアンリさんを任せ、俺は現場で指揮を取っているシバ中尉のところにいった。
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