第150話 そのまま野営訓練に突入

 新兵たちを俺にあずけたサクラ閣下は何事もなかったように、レイラ大佐を連れて戻っていった。

 これ、どうするんだ……いきなり押し付けられたぞ。

「メリル少尉、君たちの営舎はどこを割り当てられているのだ?」

「はい?閣下のお話では、後のことは全て中尉に任せてあるから、彼の指示に従えと言われております。で、私たちはどこに行けばよろしいのでしょうか」

 オイオイ、どうするんだ。

 俺は非常に困った。

 この基地に今の段階では余裕などあるはずがない。

 あれば海軍陸戦隊の皆さんをゲストハウス扱いの営舎に入れているわけはない。

 当然後から来た皆さんの場所など、この基地にあると考える方がおかしいのだ。

 サクラ閣下たちは分かっていて面倒を俺に押し付けてきたな。

 営舎は作ればいいだけなのだが、この人数だと1週間はかかる。

 となると……

 俺は大声で、元『喫茶サリーのおうち』に向かって怒鳴った。

「シノブ大尉~。以前使われていた野営テントを貸してください~~」

 メーリカさんやアプリコットたちもそれしかないよねって感じだったのだろう。

 俺が指示を出す前に事務所の中に入り、テントの在庫の確認に入った。

 ここに集まってきたのは新兵と一年未満のルーキーしかいないはずなので、野営訓練と称して例の訓練施設での訓練をさせて俺らの時間を稼ぐことにした。

「先程の師団長閣下との話を聞いた者もいるだろうが、俺からきちんと話をしたい。俺は、君たちの中隊長をすることになるグラスだ。この基地は、君たちの理解が及ばないくらいの緊急事態に陥っている。だが何も恐れることはないのだ。緊急事態といっても敵が直ぐに攻めて来るようなものじゃない。組織的に機能不全を起こす寸前だけなのだ。ここ最近になって、この基地は駐屯する中隊1個がやっとの状態だったのが、旅団規模に拡大された。やっと旅団の収容が可能になった矢先に今度は師団規模に拡大されることになった。君たちの配属もその一環で、緊急の増員となっており、基地のハード面でも組織的にも受け入れの準備が出来ていない。俺は、先ほど閣下より君たちを含め中隊の組織を作れと命じられた。しかし、俺は君たちのことは何も知らない。なので、今から君たちはこの場にて野営訓練に入る。幸いに、この基地には君たちがくる少し前に充実した訓練施設が出来上がっている。野営しながらこの施設で君たちの実力を見たい」

「隊長~、シノブ大尉から借用ができました。倉庫にあるので勝手に使ってもいいそうです」と事務所の窓からジーナが報告してくれた。

「君たちは直ぐに倉庫に行きテントを借りてきて、この場に設営をしてもらう。並んでいる順に組分けを行い6人ずつですぐに行動を開始してくれ。メーリカ准尉、残っている連中を率いて彼らを先導してくれ。メリル少尉、彼らの引率を頼む。すぐに行動だ。行け~~」

「「「「はい」」」」と言って、200名ばかりの人間がメーリカさんに続いて倉庫の方に走っていった。

 すると、横に居たケート少尉が「私の小隊は訓練に参加しなくともいいのですか?」と心配そうに聞いてきた。

 忘れていたよ、海軍陸戦隊のことを……しかし、さっき彼女たちを解散させておいて助かった。

 ここにいたら、混乱に拍車がかかる。

 ケート少尉には悪いが、俺らに付き合ってもらう。

 中隊の編成作業があるのだ。

 中隊の数少ない首脳陣として頭脳仕事が待っている。

「野戦訓練の参加には及びませんよ。だって、あれ、唯の時間稼ぎなのですから」

「へ???」

「あなた方は、とりあえず寝泊りする場所を確保していますよね。彼女たちにはまだ寝るところが無いのですよ。今日作業したように、彼女たちの営舎も作らなければならないのですが、出来上がるまで、寝る場所がこの基地には無いのです」

「え~~~~!」

「酷く驚いているようですが、この基地ではそんなに珍しくも無いのですよ。花園連隊がこの基地に到着した当時は1ヶ月近くテント暮らしだったのですよ。本当に何もない基地にいきなりの連隊の進駐だったのですから、とにかく住む場所を作るのが先決でした。今でこそ立派な司令部も出来ましたが、あそこで取り壊しているような酷い建家がこの基地で一番まともな建家だったのです。あとはすきま風の入る雨漏り付きのボロばかり、それでも入れればいい方で、数も圧倒的に足りてはいませんでした。みんなで今日のように営舎を作っていったのがあそこに見える営舎です。なので、気にすることはありませんよ。ルーキーばかりなので、彼女たちの資質を見極めるのにもちょうど良い機会だと思うし、彼女たちもしっかり訓練ができるので、よかったのかもしれませんね」

「は~~、本当にすごい基地なのですね、ここは」

 メリル少尉になんだか呆れられてしまったようだが、こればかりはどうしようもない。

「で、小隊にはこの先も最優先で営舎の建設をして頂きますが、ケート少尉には我々に付き合ってもらいますよ。先ほど閣下より厳命が下りました中隊の編成作業があります。とにかく士官下士官の数が圧倒的に足りていません。私の中隊でも少尉はあなたを含めても3人しかおりません。そのうちの一人が先ほどのメリル少尉なのですから、使える人間が限られてきますので、手伝って頂きます」

「は~、分かりました。私でよければ、お手伝いさせて頂きます」

 よ~~し、言質を取ったぞ。

 テント村の件はメーリカさんに任せて、早速作業にかかろうかね。

 俺はその場に残っているケート少尉を伴って、元『喫茶サリーのおうち』の中に入っていった。

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