第148話 小隊の着任

 俺らはケート少尉に連れられて外に出た。

 さすが帝都で精鋭の名を花園連隊と二分していたと言われている第一陸戦大隊の面々だ

 ビシッと少しの隙もなく整列している。

「中尉、こちらです。彼女らが私が率いる小隊員です」

「あ~、はい」

 何を腑抜けたこと言っているんだという顔をして、メーリカさんが俺に、「着任を承諾しないと、彼女たち住所不定になっちゃうよ。あ、違うか、職業が無職ってやつか」

「准尉!公的な場ではふざけないでください」とメーリカさんとアプリコットがド突き漫才を始めてしまった。

 いつも3人のうち一人は冷静でいてくれるので助かっているが、今回はジーナが冷静の当番だったようだ。

「隊長、彼女たちの着任許可をお願いします」

「え?どうすればいいの?俺知らないよ。確か新兵たちの時もやったことはなかったよね」

「だから、彼女たちの前で、『君たちの合流を歓迎する』なんていう感じで挨拶すればいいんですよ。それこそ、工事前の朝礼でやっている感じでやればいいだけですから。あ! でも体操はいりませんよ、体操は」

「あ~、流石に俺でもわかるよ、体操がいらないことくらいはね」

 俺たちの会話をそばで聞いていたケート少尉が心配そうに俺たちのことを見ていた。

 なんかとんでもないところに配属されたかも……なんて考えているんだろうな。

「あ~、陸戦隊の皆さん。私が今度君たちの中隊長を務めることになりますグラスといいます。階級は少尉です、……違った、この前中尉になりました。で、前にいる3人は実質的に今まで隊を仕切っていたメンバーです。彼女たちも紹介します。端から私の副官を務めてくれる……今度も副官をやってくれるんだよね? ……アプリコット少尉です。それから、彼女の同期でもあるジーナ准尉、最後にみなさんも名前くらいは聞いたことがあると思いますが、私が実戦で最も頼りにしていますメーリカ准尉です。彼女は以前山猫分隊の分隊長として、数々の実戦を経験しており、とても頼りになります。今まで、私の小隊は、形ばかりは大きかったのですが、新人ばかりのいびつな構成の隊でした。実戦面では山猫の皆さんに大いに助けられましたが、君たち……俺偉そうかな、でも許してね……海軍きっての精鋭が何をどう間違えたのか私たちと一緒に行動をしてもらえることになったので、実戦面での不安も少しはなくなります。知っているかどうかはわかりませんが、この基地は、今大きく変化をしようとしています。あいにく私は民間の出身で軍での常識に乏しいためよくわかりませんが、とても大きな変化です。今まで旅団だったのが、ほとんどを新兵やルーキーの増員だけで師団に改変されようとしています。私の中隊も、君たちの他に、ルーキー達200名の増員が近日中になされます。君たちの小隊はそのままいじることはしませんが、中隊全体の構成は未定です。仕事も、構成もかなり変則的になりますが、どうか私を助けてください。頼りにしております。……あ、最後に以上って言うんだっけか…以上です」

 前に並んでいる士官全員が頭を抱えた。

 俺の挨拶を受けた陸戦小隊の面々は呆然としていた。

 どうにも、先の少尉の話じゃないが、彼女たちも帝都で俺のことを間違って認識していたようなのだ。

 ひどい者だと、俺のことを『救国の英雄』などと考えていた者もいたそうだ。

 ファーストコンタクトでこんな話を聞いたら、混乱するのもうなずけるのだが、間違いは早急に修正しないと後で困る。

 この邂逅は良かったと俺は考えているのだが、ジーナとアプリコットには陸軍の恥とばかりにお小言を頂いた。

「で、中尉、我々はこのあとの指示を頂いておりません」

「あ~そうだね、で君たちは今住むとこあるの?」

「はい、今は仮に司令部横の営舎に詰めております」

「少尉、今、あそこはゲストハウスとして使っているはずですよ。直ぐに彼女たちの営舎を手配しないと」

「でも、ジーナ。今、この基地に空いている営舎なんてあったかしら。それに、たとえ空いていても、直ぐに埋まるはずだから、私たちの隊には回ってこないわよ」

「あ、それもそうね。で、どうしますか、隊長」

「なければ作るしかないでしょ。俺たちの詰所も作らないといけないのだから。明日から作りましょ。営舎は同じものでいいはずだからすぐにできるよ。彼女たちにも俺たちのやり方に慣れてもらえる絶好のチャンスじゃないですかね」

「では、私たちは今日はどうしましょうか」

「え~~と。今の話が聞こえたものもいるだろうけれど、明日から、君たちは俺たちがちょくちょくやっている作業を一緒にしてもらう。明日、8時にここに集合。それまでは基地内自由待機とする。風呂にでも浸かって、ゆっくりとするといい。ここの風呂はかなり立派に作ってあるから、とても気持ちがいいよ」

「え、あ、はい。ありがとうございます。明日8時にここに集合。装備は基地内訓練時と同じだ。では以上だ、解散する」

「「「「ハイ」」」」と言って、彼女たち小隊員は駆け足でこの場を去っていった。

 翌日8時に詰所前に俺の隊全員が集まっていた。

 それと、シノブ大尉が兵士を連れてきていた。

 営舎を作るにあたって、作業に慣れている前の新兵たちを貸してもらえるようにお願いをしていたのだ。

 でも少し多くないか……ていうか倍もいるんじゃないか、どういうことだ。

「おはようございます、シノブ大尉」

「おはよう、中尉」

「お願いを聞いて頂きありがとうございます。でも、兵士が多くはないですか。見たこともない兵士ばかりが多くいますがどういうことですか」

 なんとなく嫌な予感がする。

 見たこともない兵士は、まだとても若く、軍人らしくないのだ。

 早い感じが見たまんま新兵なのだ。

 それも鍛えられていない新兵のように感じられるのだ。

 聞きたくはないのだが、聞かないといけないやつなんだよな~。

「で、大尉、彼らは……」

「え~、そうなのよ。中尉が新兵たちを使って建築作業をするのならば、私たちのとこに配属されたばかりの新兵にも作業に慣れてもらおうかなと思って連れてきたの。彼らもいいように使ってね」

「それって、俺に彼らの教育をさせようと言うのじゃないですかね」

「あら~、奇遇ね。私もそう考えていたのよ。慣れない工兵たちって現場では危なくて使えないのよ。でも、この基地では十分に教育している暇も環境もないでしょ。ならば、そういった方面に絶大な実績と信用のある中尉に任せよう~ってなったのよ。おやっさんにも、あんちゃんに1週間ばかりあずけておけば、現場に連れ出せるレベルになるだろうから、あんちゃんに頼んでおけって言われたのよね。これって、命令じゃない。だから私じゃ逆らえないからよろしくね」

 俺は思わず小声で「きたね~」って言ってしまったが、シノブ大尉はイタズラがバレた子供のように笑ってごまかそうとしていた

「大丈夫よ、彼らの面倒は元あなたの新兵たちに見させるし、後で手が空き次第うちのシバの部隊もつけるから、お願いね」

 ヤレヤレ、これじゃ断れないな。

 人手が要ることには変わらないし、俺の作業に慣れた新兵もいるのだから、しょうがないか。

 陸戦小隊には、主に陸戦での活躍を期待しており、建築作業に慣れる必要はないのだが、俺の作業を理解してもらうつもりで、営舎の建築に加わってもらった。

 今日は長い1日になりそうだ

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