第147話 陸戦小隊との合流

 俺は、アプリコットたちを連れて『喫茶サリーのおうち』の中に入っていった。

 中はいつもと変わらず、シノブ大尉の部下たちが仕事をしていたり、お茶を飲んでいたりしていた。

 俺は、連れてきたみんなに向かって、ここから出ていかなければならなくなったことを伝えた。

「「「「え~~~~~」」」」

 すると、部下である連中からではなく、この場に屯していたシノブ大尉の部下である工兵隊のみんなが声を上げた。

「サリーちゃんが出ていくの~~」

「お茶を入れてもらえなくなる~~」

「もう、あのクッキーを食べられなくなるの~~」と、てんでばらばらに自分たちの都合を言ってきた。

 メーリカさんは豪快に笑っていたが、 それを聞いたのか、アプリコットやジーナは頭を抱えた。

「ここを引っ越しますが、きちんと詰所を作りますから、今度はそちらにお越し下さい。なんでも、ここには帝国本土からのお客様が来るようになるとかで、引っ越しを命じられました。『喫茶サリーのおうち』が、ここにそのままあるとまずいのだそうです。ご不満があるようでしたら、おやっさんか、レイラ中佐にでも言ってください」

 あ、レイラさんも昇進したっけか。

 まだ、基地内に発表もされていないし、そのままでいいか。

「「「「え~~~」」」」

 そりゃそうだ、言える訳は無いよな。

 でも、俺にもどうしようもないので、ここはみんなで大人の対応をしよう。

「で、ジーナたちは、ここのお引っ越しだが、俺らの詰所が用意できるまではここに居させてもらえるから、片付けだけはしておいてくれ。あと、隊長席はすぐにシノブ大尉に明け渡すから、仕事なら俺の席でしてくれ」

「隊長の席は、今の場所じゃないですか。どこに行けと」

「だから、俺がいつも仕事をしている席だよ。あそこだよ」と言って俺が指さした場所は、いくつか製図板が並んでいる場所の一番はしっこで、俺が図面を引いているときに使っている机だった。

 するとアプリコットは、「そうでした、中尉はここが出来てからついに一度も隊長席は使いませんでしたね。いつもあの席で、工兵隊の仕事をしていましたから」

 こんなゆるい感じの会話をしていると、後からシノブ大尉とシバ中尉が部屋に入ってきた。

「今、外でおやっさんから話を聞きました。追い出したような感じとなって、本当に申し訳ありません。でも、先程グラス中尉がおっしゃっていたように、お客様がこれからは増えそうなので、遠慮なくここを使わせていただきます。それで、次の詰所のことなのですが、私たちでよければいくらでも協力しますから、なんでもおっしゃってください」と、本当に申し訳なさげにシノブ大尉が俺たちに向かって深々と頭を下げてきた。

「新たに、詰所を作るのですか?俺たち、今なら手が空いていますから設計に協力しますぜ。また、レンガで凄いのを作りますか」

「いや。レンガは作ったから、次は一面白壁の御殿でも作りますか」

 今まで一緒に仕事をしてきた工兵隊の設計組の連中が暴走を始めた。

 確かに新司令部は俺も加わってやや暴走気味な設計をしたが、先程会議室に入って俺は反省したよ。

 あの重厚な造りはここジャングルには合わないと。

「イヤイヤ、皆さん、抑えてください。レンガでここを作りましたが、この基地は木造の建家の方が断然多く、浮き気味なので、今度はおしゃれなログハウスでもいいかなと思っています。そのほうがここの基地になじみますからね。一応、訓練施設の近くの川原に近い場所に、詰所とこれから配属されてくる部下たちの営舎をまとめて作ることになるかと思います。あの場所で作っても問題はありませんよね、シノブ大尉」

「え~、あの場所なら、誰も文句は出ないと思いますけど、あそこでいいのですか。あの場所は訓練施設のそばでちょっと騒がしい場所ですし、司令部からもちょっと不便な場所になりますよ」

「ええ、俺は何故だか司令部の人たちから嫌われているようですし、それに、この辺はこれからたくさんの建家が必要になりますから。なんでも、おやっさんのところが今の大隊を大幅に拡張して連隊になるらしいから、すぐに連隊司令部が必要になりますよ。なので、俺らは遠慮して、比較的邪魔にならない場所にでも行こうかなっと」と、いつもの気のおけない面々と雑談がてらにこれからのとこを話していると、一人の海軍士官が部屋に入ってきた。

「グラス中尉はこちらに居りますか」

「グラスは私ですが、あなたは」

「失礼しました。私は海軍第一陸戦大隊所属のケート少尉です。第3陸戦小隊の隊長をしておりました。本日付をもちまして、中尉の中隊に配属されます。これが配転命令書です」と言って、海軍形式の命令書を俺に手渡してきた。

「これは、わざわざご丁寧に、どうも」と言って俺は頭を下げたが、この態度は、まずかったようで、すぐにアプリコットに怒られた。

 ケート少尉は何が起こっているのか分からずに、呆然としていたが、すぐに俺に話しかけてきた。

「帝国の新たな英雄と一緒に仕事が出来るだけでなく、直接指揮を取ってもらえて大変光栄であります」と彼女が俺に向かって話した内容を聞いた周りの連中は一斉に吹き出した。

 ケート少尉をバカしたわけじゃないのだが、何も事情を知らない海軍士官であるケート少尉はさすがに気分を害したのかムッとした表情を浮かべた。

 俺はすかさず、彼女に言い訳を始めた。

「ごめんね、ここの連中は決して君のことを馬鹿にした訳じゃないんだ。君が俺のことを英雄扱いするもんだから、あまりのギャップにおかしくて吹き出したんだよ。真の英雄はこの基地にいるサクラ閣下やレイラ中佐だ。それと花園連隊のみんなかな。俺は、工兵隊に間違われるような素人軍人さ。なので、俺の評価は、この基地では芳しくなくてな~~。多分、俺の評価はこの基地で最低なのだよ。尤も、軍の常識を全く持たない野良で素人の『のらしろ少尉』とよく影で言われていたらね。だから、お願いだから、これからは俺のことを英雄扱いするのはやめてね、ケート少尉。でないと、この基地みんなから君が馬鹿にされるよ。人を見る目が全くないとね」

「そ、そんなことはありません。グラス中尉の今までの偉業は帝都では既に伝説になりつつあります」

 どんな伝説だよ。

 確かに勲章をもらって、叙爵もしたよ、なにかの間違いで……

「伝説はいいから、お願いね。直ぐに俺の評価解ると思うけれど、英雄扱いは禁止だからね。それに俺の隊はみんなフレンドリーだから、もう少し砕けてくれると嬉しいかな」

「それはダメです。ここは、軍の基地です。決して帝都のパブなんかではありません。きちんと上下関係はしっかりとしてください」とアプリコットのお小言モードにスイッチが入った

 これは、ほっとくと長くなりそうなので、俺は話をそらす作戦にかかった。

「で、ケート少尉は、俺に用があるのかな」

「あ、はい、私の小隊がこの詰所前に待機しております。つきましては、彼女たちに訓示をお願いしたく挨拶に伺いました」

 それを聞いてジーナは直ぐにフォローを入れてくれた。

「隊長、配属されてきた隊員たちに挨拶と、今後について命令を出しておかないと、いつまでも待機状態のままですよ」

 いつまでも待機状態のままじゃ流石にかわいそうだ。

「で、俺はどんなことを命じればいいんだ」

 俺の言葉を聞いて、アプリコットのお小言モードのランクが2段階上がったような音が聞こえた気がしたが、メーリカさんが俺に教えてくれた。

「隊長、適当に訓示を垂れて、一旦解散させればいいですよ。彼女たちに風呂でも勧めてみてはどうですか。なんなら一緒に入るか~~~なんて」

「そんなこと言えるか~~~。でも、風呂はいいアイデアだな。分かった外に行こう」と言って俺はケート少尉について俺の頼りになる士官たちを連れて外に出ていった。

 後で、工兵隊の連中はケート少尉に先ほどの態度について詫びを入れていたようだった。

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