第97話 俺ってVIP?

 そこに居合わせた一同が一瞬固まった。

 准将から『忙しくて会えないが、ごめんなさい』と言われたようなものだ。

 俺らとしては、現場を監督している軍曹かできれば少尉クラスにでも会えれば御の字かなと思っていただけに、ほとんど鎮守府を上げての歓迎に近い状態に唯唯戸惑うばかりであった。

「准将のお言葉は、とても光栄に思います。本当にお忙しい准将自ら、わざわざ、たかがの少尉のためにお心を割いて下さり心苦しいばかりです。ただ、わからないのが、『なぜここまで歓待してくださるのか?』ということです。ゴンドワナ大陸にいる陸軍と海軍は、本当に親密な関係なのですね。私どもが聞いていた話は、ほとんどが帝都あたりに流れている噂に限られて、どうにも真逆な話ばかりを聞かされているので、どう対処して良いのか戸惑うばかりです。本日も、こちらから面会を希望してまいりましたが、現場の監督している軍曹あたりが面会してくだされば上出来くらいにしか考えておりませんでしたので、補給責任者のマリー中佐がわざわざお時間を私どものために割いてくださったことに、純粋に驚いており、随行しているうちの士官などは先程中佐に対して失礼な態度を取ってしまう事態になってしまいました。言い訳をさせて頂く訳ではありませんが、彼女たちは普段はとても優秀なのです。間違ってもあのような失態を犯すことはないのですが、今回の件はそれほど驚かされたことだと認識していただけましたら幸いです」

「海軍と陸軍の関係は、帝都もここもあまり変わりはありませんよ。あ~、それに、アプリコット准尉にトラピスト准尉については存じております。私は、帝都の士官学校で、あのサクラ大佐やレイラ中佐の再来とまで言わしめた才媛のおふたりが、こんな辺境におふたり揃って配属されていたことに驚きましたが、グラス少尉の元に配属されていることで納得しました。おまけに、今女性兵士の中で一番優秀と噂されるあの山猫までその配下にいるのには、本当に陸軍はここに少数だけれど優秀な人材を一挙に投入してきたのだと理解しております」

 なんだか、今までに無かった新手のいじめに遭っている気分になってきた。

 ノラシロ少尉だの、お遊び部隊だの、暇人集団、他にはなんだっけ、トラブルメーカーというのもあったな。

 それに、優秀な山猫さんたちまで、俺のところにいるもんだから『のらねこ』とまで揶揄されていたな。

 もっともメーリカさんあたりは、その『のらねこ』を気に入っていたようだったが。

 なんで、こんなにも海軍と陸軍とで評価が違うのだろう。

 実物を見ないで、噂だけで判断するからこんなに評価が反転するんじゃないか?噂には本当に気を付けないと、とんでもない間違いを犯すことになると、この時ばかりは心に強く感じた。

「本当に、我々について好意的に捉えてもらい、私は嬉しく思います。でも、これはこの基地特有のことですか、それとも中佐だけのことですかね。そうでなくとも、私の評価など、基地では散々なものなので、本当に驚きを通り越して戸惑うばかりです」

「帝国海軍全体の評価かどうかはわかりませんが、ゴンドワナ方面に展開している部隊での評価は概ねこんなものですよ。皇太子府あたりから、海軍の上層部にグラス少尉率いる勅任特別小隊に、できる限りの協力を要請されたと聞いております。何でも殿下かそれに近しいところから直々の要請だったかと。それで、このあたりに展開している部隊の上層部は、グラス少尉がどのような人物かに大変興味を持っておりました。かくいう私自身もそうです。このたび、お会いできて嬉しく思います。ま~、挨拶はこの程度で、今回の訪問は表敬だけですか?」

「ハイ、表敬訪問が目的ですが、これは建前で、正直に今回の訪問の目的についてお話します」

「し、少尉、何もそんな切り出しでは」とアプリコットが慌てだした。

「大丈夫ですよ、本当に出来る方なのですね。問題をキチンを提示していただけると我々も検討しやすいので大変助かります。で、どんなご要件での訪問ですか」

「ハイ、我々は、今ジャングル内の基地からここまでの新たなルート探索を命じられております。最適と思われるルートの探索はほぼ終了しておりますが、このルートを使っての補給線の確保には課題があります」

「課題、ルートの道路事情の他にどんな課題が」

「いや、今中佐のおっしゃった道路事情が課題なのです。我々に命じられた作戦はルート探索と同時に最低限のトラックでの移動ができるようにルートを確保することなのです。このルート上には7箇所近くの問題箇所があり、帰りに補修していかなければなりません。そのための工具に問題があります。ここからが、ダメもとでのお願いになりますが、ここの海軍基地で余裕がありましたらウインチを貸していただけないかと言うのがそのお願いなのです。余裕がなければ、壊れているものを我々が修理しますので、それでも良いので、そういったたぐいのものがありますでしょうか?」

「少尉のご依頼の件につきましては前向きに検討したくはあります。しかし、非常に申し上げにくいのですが、現在、この鎮守府においてウインチの余裕は全くと言っていい程ありません。壊れかけている、本来はオーバーホールに出さなければならいようなものまで引っ張り出して使っているのが現状なのです。そのような状況ですので、協力はできそうにありません。申し訳ございません」

「いえ、我々が無理なお願いを申しでているので、お気になさらないでください」

「あの、隊長。廃棄品もダメもとで聞いてみてください。ニコイチでの線でもあたってみてください」

「へ、なんのことでしょうか?」

「あ、申し訳ありません。うちのメカニック担当が申すところによりますと、廃棄される機械類でなにか使えないかと聞いているのです。もし、よろしければ兵士をつけて廃棄品の保管場所まで我々を案内してもらうわけにはいかないでしょうか。使える部品が取れるならば簡単なウインチを作りたいのですが」

「そんなことができるのですか。分かりました、お役に立てずに心苦しかったので、それでよければ副官のリーサ ウィンストン中尉に案内させます。すぐに行かれますか?」

「是非、お願いいたします。ご面倒をおかけして申し訳ありません」

「いえいえ、構いませんよ。リーサ、この方たちを廃棄所までご案内してあげて」

「分かりました、中佐。グラス少尉、こちらになります」と言って、リーサ中尉に連れられて鎮守府の廃棄所に向かった。

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