第95話 市長との面会

 グラス小隊の車列は、タッツーの市街地の中を抜け市庁舎前の広場にきちんと整列させて停車した。

 その後、兵士たちにその場で待機を命じ、俺は、アプリコットたち3人だけを連れて、市庁舎の中に入っていった。

 受付で、『市内を軍服姿の兵士が60人ばかりうろつくから、混乱の出ないように事前に報告したいので、それなりに偉い人に面会したい』旨を伝えたら、いきなり市長室まで連れていかれ、市長と市の三役との面会となってしまった。

 俺は、いきなりの訪問にもかかわらず、市のお偉いさんが勢揃いしたので、唯唯恐縮していた。

「いきなりの訪問で、お会いして頂きありがとうございます。私は、ジャングル内の通称サクラ旅団に所属しております小隊長のグラスと申します。階級は少尉を拝命しております」

「私が市長で、そこに控えているのがこの市の三役を勤めている者達だ。時間も惜しいので、不躾だが、面会の要件をお伺いしたい」

「はい、私もそのほうが助かります。で、早速ですが、我々の小隊は現在作戦行動中であります。その行動途中に有り、隊の補給と休憩を兼ねて、このタッツーで半日の休憩を予定しております。隊員全員で60名にも登る大所帯で、全員が作戦行動中のために軍服かつフル装備での休憩となります。一応銃器などは持たせませんが、見た目が少し物騒になりがちのため、いらぬ混乱を避けたく、事前に報告に上がりました。まさか市長自ら面会に応じてもらえるとは考えておりませんでしたので、色々大事にしてしまい申し訳なく思っております」

「イヤイヤ、事前にご連絡があるだけでも市政を預かる身としては大変助かります。少尉の今回の訪問を私どもは歓迎いたします」

「で、一応分隊単位での行動をとらせますが、問題はありませんか?もしまずければ、休憩をやめ出て行きますが」

「問題はありません。このあたりは、ご存知のように海軍さんの鎮守府が置かれていますので、いわゆる軍の街としての顔を持っております。軍服姿の兵士がうろついても問題は起こりません。ただ、先ほど申したように、海軍さんの街として機能しており、街には海軍関係の方が多数出ております。お見かけしたところ、少尉は陸軍の方かと。私どもからは、くれぐれも海軍さんとのトラブルだけはお避けいただきたい。こればかりは、切にお願い申し上げます」

「市長、理解しております。私の小隊には所謂荒くれ者など一人もいませんが、分隊長にはキツく申しつけておきます。なお、半日後には街を離れますが、お忙しい市長たちのお時間を取らせるのも申し訳ないので、何も言わずにここを去ることをお許し下さい」

「お~、それは助かります。是非そうしてください」

「あ、そうだ、最後にひとつだけ知っていたら教えて欲しいのですが」

「なんなりと、お聞きください」

「我々の小隊はウインチという機械を欲しております。この街に機械類を扱うお店がありますか?」

「いくつかありますが、ほとんどが修理を中心に商いをしております。新品については、すべて注文となっており、帝国からの取り寄せになります。これにはひどく時間が掛かり、よくて数ヶ月、通常は半年、最悪ですと2年も要するものもありました。もしかしたら、中古があるかもしれませんが期待はできません。あまりお役に立てそうにありませんね。何分田舎なものなので、お許し下さい」

「いえいえ、貴重な情報をいただき感謝しております。あまりお時間ばかりを取らせるわけにもいかないでしょう。これで、我々はお暇します。今回はお会いできたことに感謝しております」

「少尉、こちらこそ、お会いできて光栄です。少尉のお仕事がうまくいきますよう、お祈り申し上げます」

「ありがとございます。では失礼します」

 市長室から退出し、アプリコットたちになにか話そうとして振り向くと、後ろに居た3人は鳩が豆鉄砲を食らったかのような何とも言えない表情を浮かべていた。

「おい、どうした?なにがあったの?」と、不思議に思い、アプリコットに質問したら、「あの少尉が、すごくまともに市長と対応していたので非常に驚いていました。私たちは、市長に対して失礼があった時に備えて、どうしようかと悩んでいたから、非常に驚いています」

 オイオイ、またかよ、俺だってまともに対応くらいできるというか、いつもまともに対応しているつもりなのだが、何考えているんだ。

「俺だって、まともな対応くらいはできるぞ。伊達に社会人を何年もやっていなかったのだからな。できないと社会から干される」

 すると、ジーナがまだ驚きが抜けていないのか「だってね~、マーリンがいつも言っていたものね。隊長が小隊の常識を壊すって。あの対応には驚いたわよ。私だって、あんな立派な対応は取れないかも」

 アプリコットだけでなくメーリカまでもが『うんうん』と頷いている。

 全く、俺のことどういう目で見ているんだか…わかっていましたけれどもね。

「目上の人に会うのだから当たり前じゃないか。俺、基地でも年長者や目上の人には、同じような対応をしているつもりなのだがな~」

 すると、3人は急に何かを悟って、「そういえば、隊長はあまり階級を意識していませんからね」とメーリカが言ってきた。

 残りの二人も『うんうん』と頷いている。

「しょうがないじゃないか。俺の今までの生活では、役職はあっても階級なんかなかったし、唯一あったとすれば貴族の階級だけだったしな。それも、いい思い出は全くないし」

 それを聞いてジーナが『あ』って顔をしたが、俺は大丈夫だと取り合わなかった。

「それより、外に待たせている奴らを『リリース』するぞ。いい加減待ちくたびれているだろう。市長に言われたトラブルには気を配るよう、釘を刺しておいてくれ」

 メーリカが「わかった」と頷いて、外に出ていった。

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