第94話 街に行きたい

 遠目ではあるが、目的地のドラゴンポートが見えるところまで来た。

 一緒にいた兵士たちが、順番に双眼鏡を回しながら目的の港を見て、わいわいと騒いでいる。

 ここで、後続のトラックを待つ間、先行組のバイク隊を少し休ませた。

「もう、そこに目的地が見えているので、バイク隊の皆さんはここで少し休憩をしてください」

「え、バイクを休ませるのですか?」

「そうだよ。ここから見て判断する限り、懸念していた丘陵地から平地に降りるルート探索には、問題なさそうだからな。ここいらで、少し休ませたい」

「分かりました」

「で、俺はちょっと気になることがあるので、マキアさん、エレナさん来てもらえるかな? 相談したいことがある」と言って、また指揮車の中に入っていった。

 後続のトラック隊を待っていたアプリコットも、続いて指揮車の中に戻ってきた。

「3箇所かな?」

「え~、私は5箇所ですね」

「え、絶対7箇所は必要ですよ」

「え、そんなにか?いや、多すぎない?最低限だけでいいだぞ」

「ですから、5箇所は直さないとダメだと思います」

 中に入ってきたアプリコットは、そんな議論をしている俺らを見ながら、元からここにいたジーナに、「珍しい組み合わせだけれど、何を話しているのかしら?」と聞いていた。

ジーナがそれを聞いて、「私も気にはなっているのですけれど、さっぱりわからないわ。隊長達が中に入ってきて、作りかけの地図を仲良く見ていたかと思ったら、今のような会話を始めたのよね」

「なんか、嫌な予感がしない?また、少尉がみんなを巻き込んでやらかしたりしないかしら」

「そんな雰囲気はなかったような、でも気になるわよね」

 そんなアプリコットとジーナの会話に気づいた俺が、「何深刻な顔をしているんだ。それよりちょっと意見を聞かせてほしいな」

「え、何ですか? 少尉は何を議論されているのですか?」

「それなんだが、マキアさんが帰りに修復の必要がある場所が5箇所もあるというし、エレナさんは7箇所ともっと多くあると言うんだよ。時間的にかなりきつくなるから、できたら3箇所くらいの必要最低限で済ませたいんだが、どうしたものかな?」

「え、え、え、あ~、ルートの簡単な補修の件ですか。ごめんなさい、私は全然考えておりませんでしたので、全くわかりません。ジーナはわかる?」

「え、何いきなり私に振っているのよ。え~とですね、ごめんなさい。そんな話全く考えておりませんでした。お役に立てなくてすみません」

「いや、いいんだが、どうしたものかな。橋の建設で大体の時間の見当をつけているんだが、1箇所1日は欲しいかなと考えているんだよ」

「隊長の見通しに私は賛成です。私も安全を考えてマージンを取ると1日は必要かと思います」

「でも、そうなると、工数的に厳しくなってきますよね?1箇所半日で計算したいんですが、そうすると安全マージンが全く取れそうにありませんし、困っていました。必要箇所も意見がまとまっていないし、どうしましょう」

「そういうことを話していたのですね、安心しました」

「へ? …どういうこと?」

「ほら~、少尉がやる気を持って何やら元気に動き回っている時って、絶対に何かしでかす時だったでしょう。今回も何かしでかしそうだと、心配してました。でも、今の件なら、旅団司令部の意向でもありますし、問題にはなりませんよね。安心しました」

 例によって、さらっとひどいことを、真顔で言い切るアプリコットさんって素敵。

 でも、どうしようかな?困ったぞ。せめてマキアさんの言うとおり、1箇所半日で作業して、1日2箇所の計算で回れればいいんだけれど。

「せめて、もう少し作業の効率を上げられたら、半日の線もあるんだけれどもな」

「隊長、タッツーでウインチを入手できませんか?」

「そうか! その手があったか。1台でもあれば、今の彼女たちなら半日でも大丈夫そうだな。全体で1日のマージンを取れば、お釣りが来るぞ。ウインチの購入を検討しよう」

「大丈夫ですか、そんなこと勝手にして」

「ます、タッツーに行って、ウインチを見つけてからだ。予算については、価格が決定してから司令部に相談して、その上で購入すれば問題ないだろ」

「全く問題ない…とは言えそうにありませんが、それなら、ん~~~大丈夫かな」

 そんなこんなを話していると、メーリカさんが指揮車に入ってきて、「そろそろ、探索のバイク隊を出発させたいのだけど、いいかな?」

「え、まだバイクいたのか。良かった。その出発、ちょっと待って」

「なんだって?」

「実はバイク隊に頼みたい事があるんだ。バイク隊のところまで行くぞ」と言って、メーリカさんと外のバイク隊のところまで来た。

「探索についてだが、懸念したようには苦労しそうにないので、君たちにはもう一つお願いしたい。

 隊を2つに分けて、一つはそのままここからドラゴンポートまでのルート探索を継続してくれ、頼みというのは、もうひとつの隊には、ここからタッツーまで直接行けるルートの探索をお願いしたい。よろしく頼むわ」と言って、バイク隊にタッツールート探索の依頼を追加して送り出していった。

 残ったものたちは、とりあえずここで休憩となる。

 ジーナが、バイク隊を見送っている俺のそばまで来て、「どういうことなのですか?」と聞いてきたので、俺が今後の予定について話した。

「ここまで来たのなら、このままドラゴンポートに入らず、まず、タッツーに向かい、そこでウインチを探す。手に入らないかもしれないが、手に入る希望があるならばやってみることにした。タッツーでは、兵士たちには以前のローリングストロングスの時のように、半日の休憩をだそう。もちろん、分隊単位での行動になるけれど。で、俺らは、申し訳ないが休憩はなしで、ウインチ探しだ。その代わりカフェでの食事くらいは俺が奢るから我慢してくれ」

 それを聞いたジーナは、やや不満そうな顔をしていたが、そこは若い女性だ。いくら軍人として優秀でも、久しぶりの街歩きの魅力には勝てなかったようだ。

 街を楽しめそうにないことと、作戦行動中の勝手な行動に対して、若い女性としてと軍人としての両方から不満を覚えたのだろう。

 カフェでの食事を条件に、彼女には納得してもらった。

 すでに彼女は経験があり、俺の小隊は前科があるのだから、新兵以外には問題は出ない。

 ややお堅い……もとい真面目なアプリコットですら以前には納得していたのだから、今回も大丈夫だと俺は踏んでいる。

 もしダメなら、そこはほれ、俺が隊長だろ? だから、隊の士気の維持・向上を理由に、隊長命令を出すだけだ。

 さて、バイクが戻るまでに、アプリコットを説得しておくぞ。

 ジーナくん、君にも協力してもらうからな。 

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