第62話 旅団長の企み
日の沈む前に基地を出発できたのは良かったが、今は既に日も沈みあたりは本当に真っ暗闇の中、昼間と同じペースでトラックの車列を率いていくメーリカさん、さすがです。
でも、トラックを運転している人は山猫さんたちだけではなく、サクラ旅団長からお預かりしている兵士の方が多かったような気がするのだが、大丈夫だろうか?
「マーリンさん、後ろちゃんと付いてきているかな?」
「大丈夫だと思いますよ。最後尾を走っているドミニク兵曹からは順調という以外の報告は上がっていませんから」
「昼と同じペースで真っ暗の中走っているよ」
「え~、本当に優秀な人たちなんですね、花園連隊の皆さんは。運転手として付いてきてくれたのは、皆先に到着した第13大隊の皆さんですから」
流石サクラ旅団長の秘蔵っ子で帝国一の精鋭と謳われた花園連隊だけはある。
初めて走るジャングルの中を、しかもあたり一面真っ暗な中、このペースで先導車に一定の間隔を維持してついてくるとは、並みの技量ではない。肝の座り方も俺とは月と鼈だ。
でも、基地を出てかれこれ3時間、流石に疲れも出てくることだろう。ここいら辺で一旦休憩を取らないと事故につながるな。
そんなことを考えていると「少尉、そろそろ、以前の野営ポイントにつきます。流石に夜間の運転は疲れますので、以前の野営ポイントで休憩を入れたいのですが、いいですか?」
「もちろんだとも。俺もそろそろ休憩を入れないと、事故につながると考えていたところだ。 構わないから、そこで休憩を入れよう。腹も減ってきたところだから、そこで食事もしよう。 着いたら準備を始めるよう各車に連絡してくれ」
「少尉、以前の野営ポイントはそんなに広くはありませんでしたよ。全車、そこに入りませんが、どうします?」
「そんなの決まっている。こんなところを夜に走る変わり者は俺ら以外にいないから、そのままトラックは獣道に止め、人だけが野営ポイントで休憩するんだ。その方が、休憩後の出発もスムーズに行く」
「わかりました、そのように連絡を入れておきます」
すぐに車列は野営ポイントに着き、すぐに食事の用意まで出来た。
「早速いただきますか。全員準備は出来たかな?それでは、頂きます」
「「「頂きます」」」
「「「……??」」」
山猫の皆さんは、すっかり俺のやることを理解してくれており、食事前の挨拶もきちんとあわせてくれるが、花園の皆さんは、異様な光景を見るような目で俺らを見ていた。
横でアプリコットが花園の皆さんに「気にしたら負けです」と非常に失礼なフォローを入れていたのを見てしまった。
そうだ、気にしたら負けだ。
マーリンさん、俺は失礼な態度も気にしないぞ。
「それにしても、練度といい肝の座り方といい凄いですね。本当によく鍛えられていますね、花園連隊の皆さんは。山猫のみんなも凄いと思っていたけれど、同じかそれ以上だ」
「そんなことはありません。ただ、連隊長からは、夜でも昼と同じように行動できるように鍛えられましたから」
「皆さんは、このジャングルは初めてですよね?このルートは初めてのはずだ。山猫のみんなは行きと帰りの2回走っているけど、皆さんは初めてで、あのペースで走破するなんてとても信じられない。凄いな~」
「いいえ、本当にすごいのは先頭を走るメーリカ軍曹です。あの暗闇の中、後続車の状態を確認しながら、出せる最大の速度で走るのだから、並の技量じゃないです」
「え~、そうだったの。メーリカさん、凄い凄いとは思っていたが、それ以上に凄かったんだ」
「そんなのどうでもいいんじゃね~か」と、珍しくメーリカさんが照れていたのが可愛かった。
「それよりも、少尉に聞きたかったんだが、何故このタイミングで夜間訓練をしなければならなかったんだ?」
「花園のみなさんの前では憚るが、サクラ旅団長がキレた。俺らが、旅団長の目論見より1週間以上も早く大隊を連れて帰ったので、かなり頭にきたんじゃないの」
「それと、今回の夜間訓練の関係が全く見えないのだけれど」
「だから、俺らに対する意趣返しと、少しでも基地内の人口を減らす目的で、ジャングルを夜間移動させ、迷子になることを期待して、いや、織り込んでの命令だったんだ。その証拠に1週間以上の物資を持っての移動となっている」
「それでか、納得したよ。なんで、やたらガソリンと食料が多量に積み込まれているのか不思議だったんだ」
「そ~、だから、『ジャングルで1週間ばかり遊んでいてね』ってやつだ」
「そう命じられたのか」
「いいや、夜間訓練を兼ねて残りの迎えに行けとしか命令されていない。だから、目的を達成したら早く帰っても問題はないはずだ。もっとも、早く帰ると本当に嫌な顔をされるだろうけど、こればかりはしょうがない」
「でも、どうしましょう?今のペースだと、あと2時間でジャングル方面軍司令部に着きますよ。夜中の到着ですし、一度いったところですから街での迷子は使えませんが、どうします」
「そのまま行くよ、しょうがない。それより、俺は、ジャングル方面軍でも新兵1000名を持て余していそうで、そちらが心配なんだ。前回同様に、着いたら、夜中だろうとお構いなしに追い出されるんじゃないかとね。多分、帰りは休憩なしで、帰還になると覚悟していてね」
「「「了解」」」
「でも、いいんですか,サクラ旅団長の方は…」
「しょうがない、それに旅団長、俺らを送り出す時にかなり悪い顔をしていたんだ。花園の皆さんには悪いが,サクラ旅団長、皆さんにもかなり含むところがあったんじゃないですか」
「それは…」
「サクラ旅団長、俺が知り合ってからひと時も休まることなくずっとデスマーチ状態でしょ。『それなのに、私の部下はヌクヌクのんびりとしやがって、少しはデスマーチに付き合え』って感じで、あなたたちをジャングルでの迷子に出したのではないかと勘ぐっていますよ、俺は」
「……」
「あなたたちの技量では例え迷子になっても全く心配しないで済みますし、十分な食料と燃料さえあればいらない損失も出さなくて済みますしね。おれは、そう勘ぐっていますよ。でも、そのように命令されたわけではないし、ジャングルで野宿の1週間は頂けない。『街で1週間遊んでいろ』という命令なら喜んで従うのだけれど、問題ないから、さっさと済ませて帰りましょ。さ~休憩も終わりだよ。さっさとジャングル方面軍司令部に行くよ」
「「「了解」」」
そそくさと周りを片付け、車列は暗闇のジャングルの中を再び移動していった。
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