第4話 輸送機の不時着

 隣の美少女であるアプリコット准尉にどうにか起こされた蒼草は、眠そうに目を覚ましたが、自分の置かれている状況がまったく理解できないでいた。

 機長が再度「安全姿勢、不時着します」と怒鳴っているので、とりあえず、蒼草は飛行機に乗るたびに見せられる安全ビデオのとおり、前のシートに手をおいて頭を下げようとしたら、前にシートが無く、両手が空を切った。

 シートベルトのおかげで、椅子から転げ落ちることは無かったが、びっくりし、シートがあるはずの前方を確認した。

 彼が北海道に向けて飛行機に乗り込んだ時には満席で、確かに前にシートがあった。

 シートはあったが通路を挟んでCA用だから、安全シートの記載のある普通でない頭を下げるだけのことをしないといけないとは思いだしたのだが、どうも様子が違う。

 あるはずのシートは無く、それどころか、機内の風景が一変していた。


 最新型の旅客機に乗ったはずの蒼草だったが、目にする前方は旅客機ではありえないベンチシートの6人がけで、しかも、向かい合わせで座るベンチシートには、美女ばかり6人、それも全員が軍服のようなものを着ていた。

 なにやら、物騒な拳銃や大型のサバイバルナイフが見える。

 何が何だかわからない状況ではあったが、のっぴきならない事態だというのは理解した。

 蒼草は、パニックに陥りかけた時に、左から、野性味溢れる美女が彼の左腕をとり、抱き込んできた。

 彼女の豊満な胸の感触を左腕で感じ少し嬉しくなって少し落ち着いてきた。

 すると、今度は逆の右腕を先程起こしてくれた美少女が同様に右腕をしっかり抱き込んできた。

 彼女の豊満な胸の感触を右に感じ、美少女の方がやや硬いかなと、なにやら失礼な感想を持つに至り、完全に落ち着いて、周りを見渡すと、全員が同じ姿勢を取っていた。

 この姿勢が、この機での安全姿勢だと理解したが、今まで見た、どの航空会社の安全ビデオや安全のしおりにもなかったことだった。

 ふと、先日ビジネスホテルで見た、第2次世界大戦のヨーロッパ戦をテーマにした映画を思い出した。

 ちょうど、機内の様子が今のような感じで、確か、グライダーで敵地に潜入する部隊が着陸する寸前に同様な姿勢をしていた。

 違いは、映画では、全員がむさくるしい(イケメンではあったが)男どもであったが、今は、美女、美少女ばかりである。

 緊急事態であるというに、なにやら嬉しそうにしている蒼草である。


「不時着」

 機長の怒鳴り声を聞いた次の瞬間下から突き上げるような衝撃を感じ、ものすごい大きな音で輸送機が壊れながら、不時着しているのを感じた。

 最後に大きな衝撃を感じ、輸送機は止まった。

 機長の操縦技量は職人技である。

 輸送機は大きく破損したが輸送室への衝撃は最小限で、誰ひとりけが人は出していなかった。

 輸送機の停止が確認されると、コクピットにいたクルーは全員が素早く席を立ち、それぞれが担当する箇所の確認に向かった。

 二人ほど外に出ていくのがこちらからでも見て取れた。

 外は、まだ雨は降っていたが、先程より小ぶりになっていて、嵐は完全に峠を越えたようだ。

 しかし、既に日没間際で、雨も止んでいないことから、すぐの移動はまずありえない。

 どちらにしても、誰かが指示をしてくれるだろうと、そして、指示が出たなら、その指示に従えば問題ないと蒼草は考えており、自身は何も考えていない。

 それぞれに散らばっていたクルーたちが戻ってきており、機長に報告をしていた。

 報告を受けた機長が俺たちの前に来て、敬礼をし、現状の報告を始め、最後にこう言った。

「機体に激しい損傷がありますが、人員に大きな問題は発生していません。今後は、私たちクルーを含め、指揮権を最上級士官である少尉にお渡しします」


 少尉??少尉とやらはどこにいるのかな?

 隣の美人は、その格好から見て下士官ぽいし、逆隣の美少女かな?

 でも、指揮を執るにはあまりに若いし、新任ぽいため、経験もなさそうな人に指揮を執らせて大丈夫かな、などと考えていると、その美少女が肘で俺をつついて、

「少尉、グラス少尉,指揮を受け継いでください。でないと、何もできませんから」

 と言ってきた。

「少尉って俺のことか??」と非常に驚いて、思わず口にしてしまい、あたりに一面冷たい空気が流れるのを感じ、まずいことを呟いたと今更ながら後悔していた。

 でも、流石にできた准尉がすかさずフォローに入り、事態が進行し始めた。

 アプリコット准尉が「少尉に代わり、副官である私が宣言します。私アプリコット准尉の上官であるグラス少尉が機長に代わり、指揮命令権を引き継ぎ、以後当機の乗員全員を少尉が指揮します」

 と、副官のアプリコット准尉の機転で、とりあえずは事なきを得たわけで、これからは、自分が自分を含め、士官兵士の12名と輸送機の搭乗員4名、合わせて16名の指揮を取らなければならないことになった。


 困った、本当に困ったが、先ほどの失敗もあり、今度は、流石に不用意な発言をしないで困っている。


 困っているが、少し落ち着いてきたため、トラブル対応のノウハウを思い出してきた。

 会社でも、問題が発生した場合には、基本に立ち返り、現状の把握からしないとドツボにはまる。

 長くないサラリーマン生活で、過去何度も経験したことだ。

 腹を括り、いつもの調子でクレーム対応するつもりでやってみるか。

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