ときの色彩
田井田かわず
ときの色彩
わが心いづくへ向かうと尋ねけり知らぬところへ去らねと思えど
父母よこの不逞なる子をもちてその目いづこを見渡しけむや
月をみて遠くにありしきみ思うこの月こそは文を綴らむ
ふみの下おつる面影如何にあるひと月離れぬきみであるのに
盃を溢れさせてはまた足りずさるべしを知るは夢のまた夢
そこはかに聴こゆる声は誰ならむときにあるなし問う問わずして
そよ風は何も乗せては来ぬものをこの身ばかりが病みてきしむか
身に絡むおもひでのくずにまどろみてかすかにみゆる瞳の霞
まばゆくも瞼をこらえいざゆかむ先にあるものわれを顧みず
笑いの間茶で舌にごす若遊子きりたちこめる山の旅籠屋
時をみて水をまけどもまだたりぬわれ踏みしめるひびわれた土
花の色はおのずとつきしものなれどいかにほころび咲きしものかと
宵の口浮かび上がったきみの窓漏れる光に胸を焦がさん
窓のそとうつる景色に手を引かれ身をのり出せば道の塵まで
夢おもいかすかに残る面影よ今はおもわむ誰そ彼也と
ひとりきり日の明けと暮れ目まぐるし日はすすめども足はすすまず
雨がうつ水面のゆらぐ夏の宵よいなあまかぜ熱をぬぐわん
夏の夜の望月のもと鳴る虫の風もいくらか爽やかなるや
草分けて人踏みしめる山の尾根白く伸びしを隠す雨雲
風吹きて落ち葉と走る赤だるま足はよれてもきみは転ばじ
ときの色彩 田井田かわず @taidakws
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