第27階 授かった力
「これは……どういう状況?」
クラリスの報告に、めぼしい部屋に転移したゼノが部屋へ入った時。
最初に感じたのは生臭い”匂い”だった。
「おい、気ぃつけろ。ソレ」
部屋の真ん中で赤い血液を滴らせるそのモンスターの存在にエアリスが警戒を促す。
ゼノがその存在に気付いた時、そのモンスターはコチラをじっとみていた。
「あれは?」
「恐らく『ゴブリンソルジャー』でしょう。ゴブリンキングに単独で勝つとは信じ難いですが」
「ソルジャーがどうかなんてしらねぇけど……アイツは強ぇぞ」
エアリスがこれまでみたことがないほど警戒している。
ゼノにまでその緊張は伝わり、誰も身動きを取らない部屋は音を失くす。
「……」
先に動いたのはゴブリンソルジャーだった。
エアリスの突き刺すような視線もなんでもないようにただまっすぐゼノを目指す。
「動くなァッ!」
声を張り上げるエアリスにものともせず、ソレは距離を詰める。
警告はしたとばかりにエアリスが牽制を兼ねた無数の羽を飛ばす。
「な!?」
半身になったソレは泳ぐように左右に揺れ、羽と羽のわずかな隙間を潜り抜ける。
勢いを加速させたソレはスピードを上げて、こちらへ迫る。
「ッチィ!」
目の前に迫ったソレに蹴りを放ったエアリス。
しかし身軽な身のこなしで、ソレはエアリスの蹴りを一瞬の足場に変えて跳び上がる。
エアリノの頭を踏み台に、大きく跳び上がったソレはゼノの前で着地した。
跪いたような体勢のソレをゼノはただ見下ろしていた。
そして抱えていた物をゆっくりとゼノの前に置く。
それはゴブリンキングの頭部だった。
「マスター。どうやら彼の主として認められたようですね」
「なんで?」
頭を踏まれて尻もちをついたエアリスが、不機嫌そうに戻ってきた。
足元のゴブリンソルジャーを見下すように睨みつけている。
「どうやらこのゴブリンは眼が良いようですね」
「眼?」
「魔眼持ちのようです」
目を見ると、右の眼が青い澄んだ瞳をしている。
眺めていると、その瞳の中で絶え間なく模様がゆっくりと変化していた。
その目を除いても強い意志を、瞳の中から感じることができる。
「おそらくはマナや魔力を見ることができる魔眼。だからこそ魔本を持っているマスターを見抜けたのでしょう」
「魔眼……?」
「生まれつき、高密度の魔力が目に集まることで肉体の性質が変化したものです。かなり希少のため、魔眼の保持者が死んだ後も抜き取られ、保管されることもあるほどです」
ゼノは魔本から紙を抜き取り、目の前のゴブリンに与える。
体から光を放ち、従魔化の終えたゴブリン。
「我が主よ。新たな力を授けていただき、感謝申し上げます」
込めた願いは『言語能力』。
エアリスと同様、この能力を願うと知能も上がるようで恭しく一礼するゴブリン。
「その目は魔眼?」
「魔眼……というものが某にはわかりませぬ。生まれつき、この眼をしてござったため……申し訳ありませぬ」
「そっか、謝らなくてもいいよ」
元がそうなら違いなんて分からない、か。
そう、ゼノが考えたとき部屋の片隅で物音がしたことをその場にいる全員が見逃さなかった。
「ゴブリン?」
「は!強いっても、やっぱゴブリンじゃだめだな!」
なぜか対抗心を燃やしているエアリスが音のした方へずかずかと歩いていく。
大きな盾をひっくり返し、エアリスが見つけたのは目を赤く腫らしておびえた少女だった。
少女は手にした短剣で突きを放つが、エアリスは少女ごと翼で吹き飛ばす。
「は、人間?」
「ここのゴブリンが運び込んでいた戦利品でしょう。戦闘のどさくさに紛れて隠れていたようですね」
隠れ場所のない場所へ吹き飛ばされた少女は周囲を見渡し、そしてゼノを見つけた。
得体のしれない人型の機械型のモンスター。
ゴブリン達を一瞬で殺戮した化け物のように強いゴブリン。
そして、後ろには明らかに格の違うハーピィ。
「あ、あんた……何者!?」
戸惑う少女の問いに、答えに戸惑ったゼノ。
その一方で、挑戦者がこちらへ近づいていることに気が付いた。
「話はあとにしよう。部屋に戻るよ」
この戦利品と、ゴブリンの死体の山。
これらの処理を挑戦者に纏めて任せようと考えたゼノは、一度マスタールームに身を隠すことに決めた。
ゼノがそう言って、ゴブリンの頭に手を置いてふと気が付いた。
「そうだ、名前……ソル。で、どう?」
「ソル……。素晴らしき名、ありがたく拝受いただきます」
ゴブリンながら、優秀な戦闘能力と従魔化による知能の上昇。
ダンジョンに頼れる切り込み隊長が生まれた瞬間だった。
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