第25階 報告会


「それではこれより、報告会を開きます」

「お願いします?」

 

 マスタールームに置かれた机を囲む4つの人影が椅子に座っていた。

 向かい合って座るゼノとクラリス、ゼノの隣で羽根を繕うエアリスに寝ぼけ眼のパリント。


 それぞれがこのダンジョンで重要な役割をもった、一応幹部(仮)である。

 クラリスの提案で、開かれたこの報告会で意見を貰おうと思ったけど期待はできなさそう。


「まずは挑戦者の動向について。現在日に30名ほど挑戦者がダンジョンへ侵入しますが、ほぼすべてが低階層のアイテムを拾い漁って離脱を繰り返しています」

「目当てにされてるアイテムは?」

「おそらくは消費されやすいポーションかと」


 ポーションかぁ、低階層でも集めやすいから確かにお金にはしやすいかも。

 でも、挑戦してもらうためのポーションをお金儲けの為だけに使われると厳しいなぁ。


「上の階を目指す挑戦者はあまりいない?」

「はい、マスター。現時点ではポーションの売価で十分稼げているようで、攻略意識は低いようです」

「なんとかできない?」

「値崩れが起きないかぎりは現状はあまり変わらないでしょう」

「わかった」


 頭を悩ませるゼノはちらりとエアリスを見る。

 相も変わらず熱心に羽根を繕っている。

 

「宝箱の数を減らしたり、低階層のモンスターを強くしてポーションを獲りづらくする?」

「ポーションの価格が上がるだけで、攻略を促す効果にはならないかと」

「そっか」

「……ならよぉ、それをもっと売っちまえばいいんじゃねぇか」

「ポーションを大量に売って、値段を下げるということですか」

 

 なんでもないようにエアリスが意見を上げた。

 それなら確かにポーションで稼ぐこともできないし、挑戦者に十分なポーションが届く。

 そして、お金も稼げる一石三鳥のお得なアイデアだ。


「良いと思う」

「それでは売却はライアに担当させましょう」

「あと、ダンジョンのモンスターの管理はエアリスに任せようかな」

「……はぁ!?何で私が!」

「エアリスはなんでもよく見てるし、今見たいな提案が欲しい。お願い」

「……ッチ、しゃあねぇ」

 

 不機嫌そうにエアリスは、腕を組むように翼を折る。

 淡々とクラリスが進める中、パリントは既に机に突っ伏して涎を垂らしていた。


「マスター。モンスターを生成、放出するダンジョンをいくつか作成しても良いかもしれません」

「どういうこと?」

「国内のモンスターを増やすことでダンジョンアイテムの需要を増やすことができるのではないでしょうか」

「なるほど……モンスターの塔ってことかぁ」


 ダンジョンの外でもダンジョンアイテムを使ってもらうために、モンスターを増やす。

 良い案だけどマナもたくさん使うだろうし、今のところはいったん置いておこうかな。


「続いて……冒険者ギルドが、大規模な調査を開始していますが現在のダンジョン最高攻略層は31階層。終わりの見えないダンジョンに、ギルドは上級パーティ達へ調査の依頼を指示したようです」

「今、最前線で戦ってるパーティのランクはどれくらい?」

「C級です。最低でも彼ら以上の強力なパーティが派遣されることでしょう」


 攻略のペースが速くなりそう、今のままだとマナの集まり的にダンジョンの拡張は厳しい。

 

「……入場料で貰ってるマナの量を増やそう」

「現在、徴収しているマナは約0.5%ほどです」

「2%ぐらいまで増やして、問題があったら少しづつ減らそう」

「かしこまりました」

 

 簡単な計算で4倍はマナが集まりやすくなるはず。

 これで挑戦者の攻略に影響が出てくるなら、少しづつ減らしていこう。


「次は、隣国エマリオス帝国についてですね」

「うん……うん?」

「噂程度ですが、帝国からこのオルトレアン王国に大量の密偵が送られており戦争が始まると民衆の話題になっているようです」

「噂……ね」

「王国が騎士団と呼ばれる主要戦力を集めていることから噂が立っているようです」


 あまりあてにはならないだろう。

 この前流したダンジョンの噂も尾ひれがついて、今じゃ「神様が人を救うために生み出したんじゃないか」って言われてるらしい。

 ただ、火のない所に煙は立たない……頭の片隅程度には覚えておこう。


「それでは次へ。低階層のゴブリンに動きがあるようです」

「動き?」

「連携を重視した狩りのような戦い方をしているようですね。多少腕に自信のある挑戦者も次々とやられているようです」

「それは……なんでなんだろう。戦って生き残ったゴブリンがたくさんいるからとか?」

「おそらくは召喚されていないゴブリンからゴブリンロードが生まれたのではないかと」

「ゴブリンロード?」

 

 聞いたことない種類のゴブリンだ。


「マスター。ゴブリンロードは支配下あるゴブリンに加護を与える進化・派生系です。単体でも強力で、スライムキングより強いでしょう」

「え、それってあんまり良くないんじゃ……」

「本当にゴブリンロードが生まれているなら、ですが」


 これは早めに調べないといけないと思うな。

 もし、本当にゴブリンロードだったら従魔化するのも良いかもしれない。

 

「今から見に行こうかな、2人とも来てくれる?」

「かしこまりました。マスター」

「しゃあねぇなぁ」

 

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