第11階 魔本の位


「接戦だった……」


 ゼノは20階での挑戦者とスライムキングの戦いを観戦していた。

 記念すべき初のボス戦は、なかなか見応えがある良い戦いだった。


 スライムキングの猛攻に耐えて、息の合った反撃を見せた挑戦者達。

 最後もなかなか見ごたえのある展開だった。

 

 強敵を討ち果たした挑戦者たちは帰った。

 こんなに簡単に攻略されるなら、思っていたよりも早くダンジョンの拡張をしないといけないかも。

 

「クラリス、現時点の魔力で階層はどれくらい建てられる?」

「現時点での塔に貯蔵されている魔力量と階層追加に必要な魔力、維持に掛かる魔力を考慮し、46階層が最大となります。マスター」

「キリの良い40階まで建てよう」

 

 魔本を開き、権限を使って塔に貯蔵されている魔力に接続する。

 紫に輝く魔本を手に、ゼノは階層の追加に必要な魔力を消費してどんどん階層を積み上げる。

 40階のダンジョンが完成したとき、魔本の輝きは弱弱しいものへ変わっていた。


 本を閉じると光は消え、塔の貯蔵魔力への接続は切れる。

 下地はできた。なら次は、モンスターの配置を考えよう。


「クラリス、今召喚できるモンスターの構成でおすすめは?」

「はい。アルラウネを基点としたドライアド、アラクネ、スケア―バードがおすすめになります」

「何故?」

「アルラウネは植物に関連があるため、同じく植物に関連があるドライアド。植物に親和性の高い虫系統のアラクネ、鳥のスケア―バードは相性が良いかと思います」


 なるほど、確かに鳥や虫は植物と相性が良いかもしれない。

 召喚できるモンスターも植物に関連するものが多いし良いかも、採用しよう。


 追加した20階層の内、イッカク兎とスケアーバード、アルラウネ、強敵役として少しだけドライアドを配置する。

 ついでにミミックも少しだけ召喚し、宝箱に混ぜる。40階にはボスとしてアラクネを配置。


【召喚可能追加モンスター】

 ・イッカク兎 迷宮指数:50

 ・スケア―バード 迷宮指数:90

 ・アルラウネ 迷宮指数:210

 ・ドライアド 迷宮指数:200

 ・ミミック 迷宮指数:350

 ・アラクネ 迷宮指数:1,750

 

「どれくらい難しい?」

「マスター。それ以前の階層よりおよそ倍程度は強力な階層となっているかと推定されます」

「わかった。それならアイテムも良くしよう」


 新しく召喚できるようになったアイテムは5つ。

 

 ・簡易結界紐

 清められ、魔を阻む結界術を付与された使い捨てのアイテム。

 縄の端を結ぶことで結界を張ることができる。

 効果は6時間。力を失った当アイテムはただの縄へ戻るが、失効前なら何度でも再使用可能。

 

 ・たいまつ

 使い古された布を木の棒に巻き、油を塗ったもの。

 長い間火を灯すことができる。

 

 ・火籠脂(カロウヤニ)

 火の力を籠められたとても粘稠性の高い脂。

 武器に塗り、火を灯すことで一時的に火の力を武器に付与することができる。

 

 ・グリーンポーション

 体内の毒物を取り除く強力な解毒薬。

 1つ飲めばあらゆる毒に対処することができる。

 

 ・パープルポーション

 強力な毒薬。飲めば苦痛を得て、やがては絶命するだろう。

 悪いことには使わないように。


 目玉は簡易結界紐。

 休息が取れるようになるこのアイテムがあるだけでだいぶ攻略はしやすくなるはず。

 これらは21階からの階層の宝箱に仕込んである。


「また見に行こうかな」

「マスター。倒されたスライムキングはどうしますか?」

「スライムキングも再召喚しておく」

 

 スライムキングの再召喚をなけなしのマナで行うと、魔本は完全に光を失ってしまった。

 時間が経てば、ある程度マナは収集できるだろう。

 

 目立った挑戦者も居らず、だらだらと時間を潰して数刻程経った。


「マスター。21階層以降のモンスターが活発に活動しているようです」

「じゃあ見に行こう」


 21階層から順番に様子を見に行く。

 今回は20階層分のモンスターの内訳は同じだから、そんなに時間は掛からないと思う。

 

 ゼノがクラリスを連れて転移した瞬間から、新しい階層は目に見えて変わっていた。

 設定していたはずの石造りの通路は緑のツタが所狭しと這っており、時々壁に謎の木の実が生えている。


「なにこれ……」

「マスター。これは、この世界特有の実『ナレサの実』です」

「おいしい?」

「渋く、おいしくはありませんが食べることは可能です」


 美味しくはないんだ。

 まぁ。挑戦者の緊急食料として食べられるようにこのままにしておこうかな。

 

「これは?」

 

 ダンジョンの一画にあるアルラウネが居る部屋。

 その部屋の床一面が、色とりどりの様々な花が生えた花畑になっている。

 

「アルラウネの『花魔法』ですね。種族特有の珍しい魔法のようです」

「太陽もないのに咲くんだ」

「アルラウネの魔力で守られているようですね。成長も魔法で促進されているそうです」


 花の種類は詳しくないけど、彩り豊かで良いね。

 あまりアルラウネは移動をしないのか、通路ですれ違うことはなく部屋の中で待ち構えるタイプの様だ。

 場所によっては2、3体集まっている部屋も見たから、あの部屋に入った挑戦者は苦労するかも。


「ドライアドはどこに?」

「マスター。あそこに潜んでいるようです」


 クラリスが指を差した先は曲がり角の隅に生えた大きな1本のツルだった。

 しばらく見ているとそのツルからにゅっと木の人形が出てきたと思うと、どこかへと歩いて行った。

 

「通路側も結構にぎやか、兎も鳥もいる」

「ツルの隙間に隠れていますが、蜘蛛もいますね」

「蜘蛛……天然もの?」

「いいえ。恐らくはアラクネの出した偵察用の子蜘蛛かと」


 アラクネが思ってたより行動範囲広げてる。

 予定以上の戦力を階層に詰め込むと、攻略しづらくなるからやめてほしい。


「子蜘蛛自体に大した戦闘能力はありません。あくまでもアラクネの目の代わりのようですね」

「……挑戦者襲わないならそのままでもいいか」


 今のダンジョン風景は見ることができた。

 これでしばらくは階層を積まずにマナを貯められるかな、多分急に挑戦者が増えるなんてことはないだろうし。

 もう魔本のマナはすっからかんだ。

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