第四章湯本銭湯

4-1:後始末


 西の物の怪御一行様がお義母様のキッツい管理下に置かれてここ東の狐が納める八王子市の見学を終える。



「どうじゃ? ぬしらも少しは考えを変えた方がいいであろう?」


「確かにな、いやはや蜘蛛女がああも変わるとは思わなんだ」


「何を言うか! レバニラ炒めは絶品よ!! 妖力はねぐらに大人しくしていれば溜るわ、腹が減ってもレバニラ炒めなる絶品があればもう人など不味くて喰えんわ!!」


 いや、レバニラ炒めってそんなに美味しいの?

 私はあのざらッとした感触や血なまぐささを感じるのでとても苦手。

 以前貧血気味でレバーを食べるとよくなるって聞いたけど、何度試してもだめだった。


 そう言えば、前の職場のお局様は結局行かず後家でずっとあの事務所に居座っているけど、飲みに行った時に焼き鳥のレバ串美味しそうに食べてたなぁ。



「でじゃ、帝のいる中央はどうなのじゃ?」


「あそこも同じじゃ。我ら物の怪はひっそりと影にて暮らしておる。皿屋敷も平の首塚でさえ今の世は祀られた神社で大人しくしておるわ。ただ、人面犬のやつだけはいまだに人を驚かすのが好きで世田谷あたりでふらふらしておるわ。まあ、人に害をなさなければ概ね儂らも人の世で生活できるというモノじゃ」


 お義母様はそう言って、すぱーっとキセルを吸う。

 いつも思うんだけど、お義母様の吸っているあのタバコって何なのだろうね?

 甘い良い香りがしてタバコ臭さが一向にしない。

 まるでお香の様な香り。



「ふむ、人を喰らわず人に姿に化け、人の世でひっそりと暮らすか…… 儂らも考えを改めなければならんかのぉ」


「それが良いじゃろうて、牛鬼よ。主らだって人の姿に化ける事が出来るのじゃろう?」


「まあな、齢数百年を超えると妖術も使えるようになる。人の姿にも化ける事が出来るわ。しかしどうに人の世に馴染むべきかの?」


「それはな、人を見よ。そして真似るのじゃ。そうしているうちに人を理解できるようになる。そうすれば後は人間と接触をし、決して正体を見せなければ徐々に交わっていけるものじゃ」


「そう言う…… ものかのぉ…… いや、しかし我ら西の物の怪も変わる必要があるの。あの蜘蛛女のようにな」


「じゃな」


 そう言ってお義母様はここでやっとお猪口のお酒を掲げる。



「我ら物の怪と人の世に」


「ああ、儂らも頑張るしかあるまい、礼を言うぞ東の狐よ」



 そう言って牛鬼さんもお猪口を掲げ一気に飲み干す。



「人の世の食い物か…… 悪くはないのかもしれんのぉ」


「当り前じゃ、しかもうちの嫁の手料理は絶品じゃ! さあ、ぬし等も食うが良い!!」



 そう言ってここ湯本銭湯で妖怪たちによる酒盛りが始まるのだった。 



 * * * * *



「お疲れ様、かなめさん」



 そう言って守さんがペットボトルのお茶を手渡してくれる。

 私はそれを受け取り、やっと落ち着いた居間の妖怪たちを見る。


「妖怪でも酔いつぶれるのね……」


 結構の数の妖怪たちがいびきを立てて雑魚寝している。

 食べ終わったお皿とか、飲みかけのコップを守さんと一緒に回収して腹掛けをかけておく。


 なんか人も妖怪も同じに見えてきちゃった。

 

 と言うか、守さんも妖怪の姿のままだ。

 おかげで一緒に外とかには出られない。

 あのほっそりした守さんが一回りたくましくなったのはちょっと興奮したけど。


 昨日の晩だって今までの守さんとは比べ物にならない位激しかったし///////。



「でもみんなかなめさんの手料理を絶賛してたよね。今まで食わず嫌いで人の食べ物を食べた事が無かったらしいからね」


「うふふふ、ちょっとがんばっちゃいましたからねぇ~。守さんもちゃんと食べました?」


「うん、しっかりね……」


 そう言って守さんは私をグイっと引き寄せる。



「かなめ……」


「守さん……」



 力強いこの腕に引き寄せられ顔と顔が近づく。

 昨晩の事を思い出し、鼓動が高鳴って来る。



 へっへっへっへっへっへっ♪


 

「……」


「…… あ、あのお父様、なんで犬の姿に?」



 ぼんっ!



「なんじゃ、ぶちゅ~っと行かんのか? みんなその様子を待っていたというのにのぉ~」


「み、みんなって……」


 慌てて雑魚寝している物の怪たちを見るとサッと視線を外す。

 そんな中お義母様はにんまり笑いながら言う。


 

「早く孫の顔が見たいモノじゃ♬」



 それにつられて他の物の怪も。



「ふむ、物の怪と人の情痴も見て見たかったのだがのぉ~」


「人と物の怪の子作りか!」


「儂も見たいのぉ、見たい!」



 物の怪たちはがばっと起き上がってわいのわいのと騒ぐ。




「///////、わ、私たちは見世物じゃありません!! もう、みんなデリカシーなさすぎぃっ!!」





 思わずそう叫んでしまう私だったのだ。 

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る