銭湯のおかみさん~物の怪銭湯奮闘記~

さいとう みさき

プロローグ

お返事は


「かなめさん、正直に言ってほしい。僕は家業を継がなければならないけど、それでも僕を選んでくれる?」



 それは突然だった。

 いつもの犬カフェで、いつものテーブルで、いつもの話をしていた時だった。

 話しのはずみで今度二人でどこかに出かけようと言う話になった時にいきなりそう言われた。

 そして彼、湯本守(ゆもと まもる)さんはもそっと小さな箱を開けその指輪を私に見せる。



「え?」



 言葉に詰まった。


 前の彼氏に振られてその寂しさから犬喫茶なる癒しを求める喫茶店に通い始めた。  

 そこで同じく犬に癒しを求める守さんと知り合った。

 地方出身の私は学校を卒業してそのまま東京で就職して、世知辛い世の中を毎日都心までぎゅうぎゅう詰めの満員電車で通う日々を過ごしていた。


 今までにも何人かとお付き合いはしたけど何故かうまく行かず現在二十九歳。

 これが最後と付き合っていた彼にもフラれ生きるのが嫌になっていた頃だった。


 少し線の細い、優しそうな人。

 そんな彼と週末にこの犬喫茶で会うのが楽しみになって来ていた。


 それがいきなり?

 

 でも犬好きに悪い人はいない。

 事実、何故か守さんはこの店の犬たちに好かれている。

 お店に入るとまるで自分のご主人様が帰って来たとばかりに一斉に犬たちが彼に飛びつく。

 だから私も彼に引かれたのかもしれない。



「私は……」




 私はそんな優しそうな彼の顔を見ながら答えるのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る