【完結】浮気性王子は婚約破棄をし馬鹿な妹を選ぶ

かずき りり

第1話

 階級が全ての世界、裏では陰謀が渦巻き、表情は心と裏腹なものを映し出す。

 口から奏でる音という言葉は歌うように綺麗な言葉を紡ぐが、それは本心を述べているわけではない。

 欺き、騙し、他者を陥れ自分の地位を確固たるものにするためでもある。

 己の正義か、はたまた欲望か。それを満たすための行為。


「それ美味そうだな!あ~ん」

「やだ~!殿下ったら~!」


 貴族という階級、権力は褒美や知識としてのものもあるが、一貫して民を導くためにあり、その為に贅沢に見えるような暮らしと言えど自由はなく。自分を磨き上げるというのは、自分の武器を増やすという意味でもある程だ。

 ここまでくると、もう、自由を取るか金を取るかという究極の選択だと言う事になるが、その血筋故に脱落をする事も出来ず……。

 結局は己の貴族というプライドを保つ事しか出来なくなる程に雁字搦めだったりするわけなのだが……。


「ほら、パティもどうだ」

「あ~~~~ん」


 …………自由すぎる。

 プライド?それ何?それ美味しいの?

 目の前でいちゃつくのは、ロラン=グレバラート殿下。私、ラグローズ侯爵家令嬢レティシアの婚約者である。

 王族という自覚があるのかないのか。結婚は国を保つための政略である事は理解しているからこそ浮気しまくり、女と見れば声かけまくり。

 浮気くらい自分好みの女と自由にしたいのは理解できるし、咎めるつもりもないが、私という相手を尊重するという意思が一切ない。

 そして何より私の目の前で他の女の腰を抱いているというのも問題だが、それ以上に……。


「ほら、お姉様もいかが?」

「結構よ」

「きゃ!怖い~~!殿下~!」

「パティは可愛いなぁ~!おい、レティ。少しは愛想良くしたらどうだ」


 殿下にしなだれかかる女は私の妹、パトリシア=ラグローズなのだ。

 正直、同じ親を持ち、同じ家で同じ生活をしているとは思えない程だ。

 浮気ならまだしも、もし閨を共にし側室なんて事になり……同じ家の姉妹が殿下のお相手になってしまえば、貴族社会の勢力均衡が狂ってしまう事は貴族として育っているなら基礎中の基礎である。

 貴族は王族が背負ってる民の行くすえを半分一緒に背負っているほどの覚悟と努力が必要なのだ……。

 しかし、努力って何だろう?と、目の前の二人を見ていて思う。


「どうやら殿下は妹と親しくしたい様子。私は席を外しますわ」

「は?何言ってんだ?折角婚約者だから同席を許してやってるのに」

「そうよ~!お姉様ったら!殿下が皆に優しいからって焼きもち?そんな我儘じゃ駄目よ~」

「それに婚約者の妹と仲が良くするのは当たり前だろう!仲が悪いと色々面倒だからな!」

「さすが殿下~!」


 そう言って胸元に寄り添うパトリシアの腰を寄せるロラン殿下。

 扇で口元を隠しながらため息をついて、その場を離れる。

 そうじゃない……そうではない……。

 覚悟は曖昧なのかもしれないけれど、努力はした。

 しかし、婚約。更に先を行くと結婚など、一人の努力ではどうにもならないのだ。

 会話をしたくても見ている目線が違いすぎて話が噛み合わない。

 自分が頑張らなくては……と心が痛むのを感じながらも、私は覚悟をしていくのだった。


 ◇


「可愛いな」

「どうだ?側室にならないか?」

「王宮へと泊まりにくるか?」


 毎朝、毎昼、毎放課後に恒例となっている、殿下の世迷いごと。

 ロラン殿下の周りには女性が蔓延り、殿下が甘い言葉を紡ぐ。

 蔓延っているのは主に下位貴族の令嬢で、側室に選ばれたら運が良いという程度であり、基本的には殿下を満足させる事が出来ればという王族に従う気持ちからだ。

 だからこそ王宮に泊まりどころかロラン殿下と二人っきりになるという愚かな事は一切していない。

 下位とは言え貴族の矜持はしっかり持っている令嬢達なのだ。

 それはもう昔からの光景なので皆慣れ親しんでいるものの、ここ何日か前からは違う。


「やだ~殿下ってば!私がいるのに~」

「もちろん一番はパティだよ」


 殿下の腕に手を添え、くっついて歩く令嬢がいるのだ。勿論それは私の妹、パトリシアである。

 周囲は微妙な表情で見ているのを殿下とパトリシアは気がついていない。


「あら?お姉様。そんなところで何をしているの?婚約者の相手もしないで」

「あぁパティは本当に優しいな、そんな気遣ってくれて。レティも少しは見習え」


 周囲は哀れんだ目を私に向けてくる。

 そんなはしたない事を見習いたくもないし、娼婦のような事もしたくはない。


「パトリシア、姉の婚約者であるロラン殿下とそんな親密にしていてはいけません」


 ラグローズ公爵家の事を考えて注意をする。いくら殿下が女に見境なく声をかける相手であっても、パトリシアがこのような態度を取っていては公爵家に傷をつけられてしまう。


「何を言ってるんだ。お前が相手をしないからパティが相手してくれるんだろう。冷たい奴だ」

「お姉様が不甲斐ないからじゃないですか~!」

「貴族としての嗜みを持てと言っているのです」

「あぁああ!もう煩い!いい加減にしろ!指一本触れさせない婚約者などいらん!」

「結婚、特に王族へ嫁ぐとなると純潔である事は当たり前です。王家の血を守る為にも」


 尻軽なぞ論外。病気を持ったまま嫁ぐのも論外。

 どこの種を持ち込むか分からない状態ではなく、きちんと王家の血筋を守る為にも決められていること。

 何か嫌な予感がすると背中に汗が伝う……。


「パティは喜んで俺の相手をしてくれるぞ!お前みたいな冷たい婚約者なぞ要らん!婚約を破棄する!その顔を二度と見せるな!」


 ――終わった――


 周囲の驚きと諦めの顔。

 不貞を堂々と宣言した事もそうだが、パトリシアがもう純潔でないという事を周囲にしらしめる結果ともなってしまった。

 言ってしまった言葉は……周囲が聞いてしまった事は……取り消せない。

 ラグローズ公爵家に思いっきり傷がついてしまう結果となったわけで……。


「あ~あ、お姉様ったら本当不甲斐ないわ~!残念ね~」


 すでにロラン殿下に愛想をつかしていた私は、婚約破棄はどうでも良く。

 事の重大さを理解していない妹を含めて色々と面倒な事になったと頭を抱え帰路についた。

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