第9話

「ぷはっはっはっう」

 水を吸ったドレスが重い。水路は見た目以上に流れが速く、私はあっという間に流されてしまった。

 視界が二転三転する。明るくなったり暗くなったり、地下に潜ったかと思えば地上に出たりと水路は複雑な構造になっていた。

 かろうじて息を保ちながら、どうにかして姿勢を保とうとするが流れに惑わされる。

 大きく息を吸ったのを最後に、私は下降する水の流れに捕らわれた。水面へと浮かべない。

 もうだめか。父と母、兄弟姉妹、アニータ、故郷の情景、ディアン。過去の映像が私の脳裏を駆け巡る。

 あきらめかけた、そのとき。

 私の腕を大きなかぎ爪が掴んだ。


「はっげほっげほっ」

 水を吐き、息を吸いこむ。

 油断すれば落ちてしまいそうな私を、強い力が地上に引き上げた。

 目を開けた私の視界に飛び込んだ、黒のかぎ爪と灰白の羽毛。鳥人の腕だ。

 顔を上げる。

 青い目とかち合った。

 頭に浮かんだ名を呼ぼうとした瞬間、喧騒がこちらに迫る。

「待って!」

 私の声に答えることなく、灰白の鳥人は背を向ける。

 彼が立ち去ると同時に、宮殿の兵士らが私に駆け寄ってきた。

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