第1部 第9話

 ヒイロがサトウさんを捜索している山は山頂付近に山小屋があり、ツバサが捜索している勾配が緩やかな初心者向けコースとヒイロが捜索している勾配がきつい上級者向けコースの大きく2つに登山道が分かれています。ヒイロはとりあえず、上級者向けコースの木が生い茂っていてヘリコプターではあまり近づけない所を重点的に捜すことにしました。木の梢すれすれを飛びながら1時間近くサトウさんを捜しましたが見つけることが出来ず、日が沈むまであと1時間を切ってしまいました。


ヒイロがもう少し上の辺りを捜してみようと思った瞬間、木々の間がチカチカ光っていることに気づき目を凝らすと、鏡で日の光を反射させているサトウさんの姿を見つけました。


「見つけた!」ヒイロは嬉しさから声に出していました。ヒイロはすぐに近づいて声を掛けました。


「すみません。サトウジロウさんですか?」


「ああ。そうだよ。助けに来てくれたのか?」


サトウさんの声のトーンは思っていたよりも元気そうでヒイロは少し安心しました。


「はい。そうです。サトウさん、どこかケガしていませんか?」


ぱっと見た感じ大きなケガはしていませんでしたが、ヒイロは念のためにサトウさんに確認をとりました。


「ああ。それなら足を滑らせた時に左足をくじいた感じがするんだよな。それが痛くて動けずにいたんだ。」


「それは大変ですね!ちょっと患部を見せてもらってもいいですか?」


「ああ。大丈夫だよ。」


ヒイロはおそるおそる左足のズボンをたくし上げると、患部が赤くはれていました。ヒイロはズボンの裾を元に戻すと、「歩くのは無理みたいなので、今救助を呼びますね。」と言って、トランシーバーを出すとムカイと連絡を取り始めました。


「もしもし。ムカイさん?聞こえますか?」


「…もしもし。ヒイロくん。どうしたの?サトウさん見つかった?」


「はい。見つかりました!ひどいケガはしていませんが、足を滑らせたときに挫いた左足が赤く腫れています。歩くのは難しいのでヘリでの救助をお願いします。」


「わかった。ちょっと待って!GPSの位置情報によるとそこは…」


ムカイはトランシーバーを置いてなにかを調べ始めました。

ヒイロは空いた時間、サトウさんが不安にならないように話しかけました。


「ちょっと待ってください。サトウさん。今救助を呼んでいるので。そうだ!喉乾いていません?水ありますけど飲みます?」


「ありがとう。喉カラカラだったんだ。水もらえるかい?」


ヒイロがリュックから水を取り出そうとした時、リュックの中にゼリー飲料があるのを思い出したので、水と一緒に取り出してサトウさんに手渡しました。


「はい、水です。それとこれもどうぞ。」


「おお。ありがとう。でも、もう何時間もたいしたものを食べていないので、もう少し腹にたまるものがあれば良かったな。」


「あっ!それなら…捜索隊の本部に行けばなにかあるはずなので、すみませんがちょっとだけ我慢してくれませんか?」


「いや、ごめん。ごめん。贅沢言っちゃって。これも十分ありがたいよ。」


ヒイロは一瞬、チヒロからもらったエナジーバーをサトウさんに渡そうとしましたが、出所不明のエナジーバーを食べたサトウさんに何かあったら大変だと思い、渡すのを思いとどまりました。そして何より、もらったエナジーバーは自分が食べないとチヒロに失礼だという気持ちも思いとどまった理由に存在していました。


「ヒイロくん?聞こえるかい?ヒイロくん?」


トランシーバーから自分を呼ぶムカイにヒイロは、「はい。聞こえています。ムカイさん。救助の進捗はどうなっていますか?」と尋ねました。


「それが、GPSの位置情報と地図を照らし合わせてみた結果、ヒイロくんとサトウさんの現在地が木々に覆われていてヘリでの救助が難しいポイントだったんだ。そこで悪いんだがヒイロくん、サトウさんを現在地より開けたポイントもしくは直接捜索隊本部に連れてきてほしいんだ。」


「えっ⁈僕がですか⁈」


「ヒイロくんの報告だと、サトウさんは左足を挫いた痛みで動けない状態なんだよね?なら、ヒイロくんが連れて来る方が迅速で何よりサトウさんの負担が少なくて済むと思うんだ。」


「そう言われれば…そうかもしれないですけど。」


ヒイロが自分の見解に納得出来ていない様子をトランシーバー越しに感じたムカイはダメ押しでこう付け加えました。


「ヒイロくんが救助隊員をサトウさんがいる現在地まで運んで処置を施してもらった後、サトウさんと救助隊員の2人を連れてこっちに戻ってくるとなると、ヒイロくんの負担が大きすぎると思うんだけどなぁ。」


「確かに。2人を連れて飛ぶのは、肉体的に無理ですね。わかりました。サトウさんとも相談してみます。」

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