逃亡

橋場 健次郎

空想と雲と鯨

細い田舎道を歩いていた。何かを考えていて、それを空想して、くだらないような事を繰り返している。僕はしがない小説家。友だちには夏樹がいる。やつはとても出来がいいやつで、いつも羨ましく思っていた。幼少期から共に過ごしてきたが、最近は会う機会もめっきり減ってしまった。やることも無いので会いに行こうかと考えたが、中々会っていなくて、会うのも気まずく、億劫になってしまっている。所詮、その程度の関係なのか。いいや、僕のことを知っているやつにどこかに変化があるのではないかという恐怖がどこかにあった。僕よりずっと優れているやつだ。そうに違い無い。それに対して僕は劣等感とは少し違う感情を抱くだろう。寂しさ?遠くになってしまったやつに寂しさを感じるのだろうか。憶測なので全く分からない。そもそも人の感情を読み解くのが苦手な方なのだ。


夏の匂いがする七月の中盤に差し掛かった目眩のする日の事、考えることを辞めたいと感じるほどの酷い暑さにやることもなく、ただ寝そべっていた僕はペンをとっていた。誰かに手紙を書こうと考えていたのだが、手紙を書く人もいないので、物語を書くことにした。こういうのは不慣れで中々にペンを動かせない。夏の幽霊の話書こうか。やつに完成したら見せに行こう。会いに行く理由が欲しかったのかもしれない。しかし、夏に良い思い出など、一つもなかった。どうしたものか。何かを空想ばかりで終わらすのが僕の特技だ。こういう時にその才能を発揮できたらどんなに良いだろう。悩んだ結果、その日は書くことを辞めた。何も出来ないんだなと酷い気分になった。


幼少期から、僕は何となく生きていた。生きる理由を見い出せる訳が無かったし、何よりも人が嫌いだったので、人のやること全てに興味が持てなかった。だからといって、動物がやることを真似るのは違う。何かから逃げていたのかも知れない。こんな話ばかりを語ったが、何も解決には向かわない。そう思いながらまた、机に向かっていた。やつにはこんな悩みなんて無縁なんだろうな。そう一つ呟いた。やつとは似ているところはあるが、それ以上の違いがあった。少し嫌いな部分でもあったが、僕の唯一頼れる人間なので少しは我慢している。上手く言葉で言えないのだけど、友情とは少し違う。上手く使ってやろうとかそんな事は別に思っては居ないが、やつがいないと僕の何かが足りなくなるような気がして落ち着かないのだ。この感情に名前をつけるならなんて名前が相応しいだろう。終わりがこない事を考えていた。外には大きな雲が泳いでいた。


空想と雲と鯨、ノートに書いた。

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逃亡 橋場 健次郎 @akitowa

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