第162期在人間界交流生集会

「ぜっっっっっっっっったいに! おかしい!」


何の変哲もない市中のファミレスで、場に似つかわしくない風貌の一団から一際大きな声が上がった。


「べ、ベルルちゃん! 抑えて抑えて! 迷惑になっちゃう……!」

「あ……ご、ごめん」


声を上げたのは、第162期在人間界交流生であるドラゴン族の少女、ベルルイレ・ゼト。人型に化けている今でこそ小柄だが、交流生に選ばれるだけあって、数が減り続けるドラゴン族最後の星と名高いエリート中のエリートである。


「……でも確かに、アスティのことは気になる。そもそも最終試験の少し前から様子がおかしかった」


冷静な口調で同意を口にしたのは、エルフ族のキュリードル・クレイドル。頭脳明晰がデフォルトのエルフの中でも屈指の天才と称され、新たな学説を幾つも世に出し既に歴史に名を残すことが確定している程の逸材だ。


「おかしかった……? そうなのですか?」


思い当たる節がないのか、首を傾げる天使族の女性。常に慈悲深そうな笑みを絶やさない彼女こそ、熾天使の座を確約されたと名高いルールナン・ルイラその人である。


「あ……確かに言われてみればそうかも……その時くらいからアスティちゃん、私の秘蔵本にも興味がなくなった、って……」


最後の一人が、気弱そうな淫魔の少女、ハールネリー・ドミーリーヤ。よく知らぬ者達からは、他の面々と比べて見劣りすると言われがちではあるが、淫魔の中では希少な勤勉さを以て努力で交流生の座を勝ち取った秀才である。


「そう! その後交流生に選ばれた後も、首席の権利で一番初めに派遣先を選べるっていうのにあいつが選んだのが男子禁制の女子学園! 」


彼女らが話題にしているのは、第162期在人間界交流生首席、アスノティフィル・ナナークーシャ。今日4人が集まったのは、一度近況を語り合うために人間界に来て初めて集まろうという話になったのが理由だが、アスノティフィルだけは誘いに乗らずこの場に来ていないのだ。曰く、『是非とも行きたかったのだが……すまない、その日も次の日もその後も甘い時間を過ごす予定で埋まっているんだ^_−☆』とのことで。


「もう絶対! 100%裏がある!」

「も、もしかしたら本当に改心して共存共栄の道を模索しているのかも……」

「あのむっつりアスティが!? ないない! あり得ないでしょ!」

「同意」

「まぁ……はい」

「だよね……」


アスティの行動には裏がある、それが彼女と短くない時を過ごしてきた4人の結論であった。


「……決めた。あたし調べに行く」

「え……アスティちゃんのところに行くってこと?」

「そうよ! アスティの悪事を暴いてやるわ……!」

「……ベルル。ここでの自分の生活から離れた行為をするのは褒められたことではない。下手をすれば……」


謎の使命感に燃えるベルルだったが、キュリードルが諌めるように口を挟む。実際、彼女の言う通りで、交流生が用意された立場……ベルルで言えば一般共学高校の生徒という立場から離れた行為をするのは認められていない。問題行動が目立てば向こうへ帰らざるを得ない場合もある。


その指摘を受けたベルルは、ハッとするでもなくただ力なく笑った。


「……正直言うとね、それでも良いかなと思ってる。今の学校、ほんとに馴染めなくて……あんなに焦がれた人間界だけど、無理して居座る必要もないしね……」

「ベルルちゃん……」

「……そんなに馴染めないのですか?」

「そうなの! 聞いてよルナ! なんか知らないけど前期の淫魔が初日で我慢できなくなって教室のど真ん中で男子に襲いかかったらしいのよ! その噂が広まって私まで腫れ物扱いなんだけど!」

「それはまた……」

「……お恥ずかしい限りです……」

「何が一番人気よ……! っていうか、首席のアスティが変なことしなければ私は別のとこ行けたじゃない……!」


ヒートアップした結果、より一層の決意を固めてベルルイレ・ゼトは宣言する。


「待ってないアスティ……! 絶対にアンタの悪事を突き止めてやるんだから……!」

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